第32話 世界樹の都
プルファの案内を受けつつ数日。
「この森を抜けたら、エルフの国の入り口の村に着くがらない」
私達は、山を越え谷を越え、ようやくエルフの国へやって来た。
いやー、プルファが植物魔法で道を作ってくれていたとはいえ、結構しんどい道のりだったわ。
感慨深く道程を思い出していると、後方からセイライが声をかけてきた。
「おい、マジで中央まで行くのはヤバいんだ!俺を逃がしてくれ!」
そういう彼の姿は、手足を縛られつつモジャさんの槍の先に引っかけられていて、まるで罠にかかった獲物のようだ。
んもー。悪さして里帰りしづらいのはわかるけど、そんなにビビる事はないじゃない。
「いやいや、
言われてみれば……セイライと対峙した時にプルファが身に付けていた、彼女の故郷に伝わる衣装。
あれは、命のやり取りをする覚悟を持った時に着るとかなんとか言ってたような……。
で、でもまぁ、こうして生け捕りにしたんだし、今さら命を取るなんて事は無いでしょう……無いわよね?
ちょっと心配になってプルファに尋ねると、彼女は「王様や長老達が決めるごどだがら……」と言って、静かに微笑むだけだった。
今更だけど……ここのエルフって、ひょっとしたらヤバい連中なのかもしれない。
そんな一抹の不安を抱きながらも、森の中を進んでいると、不意に開けた場所に出ることができた。
整地されたように広いその場所には、大木を利用した住居区が作られ、さらに何人かのエルフ達が物珍しそうにこちらに視線を向けている。
「ちょっと通してもらうがらない」
プルファが一声かけると、肯定するような返事がまばらに返ってきた。
「みんな、こごさ人間が来んのは珍しいがら、驚いでるんだ。気にしねえで
そ、そうなんだ。
まぁ、私達からしてもエルフの国に立ち入るなんて滅多にないから、向こうが珍しがる気持ちもわかるけど。
そんな風に周囲からの視線に晒されながら、プルファの後に着いて歩いて行くと、再び森の中を進む事になる。
あれ?さっきの集落が、エルフの国の入り口じゃないの?
「村と村の間には少しばっか距離があんのし。攻め込まっちゃ時に、各地に分散しながら行動でぎるようになってのさ」
ははぁ、寄り合い所帯でできた国だからこその、戦略的設計ってやつね。
確かに、国として一纏めにするよりも、深い森の中に拠点がいくつもバラバラに点在した方が、本丸を攻め落とすのは難しいんだろうな。
色々とエルフならではの工夫に感心しながら、いくつかの集落を経由して行くと、私達はようやく目指していたエルフの国の中央、「世界樹の都」へと到着した。
その名前にふさわしく、街の中央には今まで見てきたどんな樹木よりも、立派で威厳に満ちた象徴的な巨木がドンとそびえ立っている。
「うわあ……」
あまりにも巨大なその樹を見上げつつ、ふと疑問に思った事があり、プルファに尋ねてみる。
「すごく立派な樹だけど、これって目立ち過ぎない?」
「大丈夫、森の外から見ようとしでも見えねぇようにすてあんのさ」
ああ、確かにこんな巨大な樹だったら、ここまで来る間に気がついてもおかしくなかったけど、全然わからなかった。
なにか、隠蔽魔法みたいな物がかかってるんだろうか?
でも、この樹が目印にならないなら、エルフの案内人無しにここまで来るのは絶対に無理だろうなと、道中を振り返ってみて思う。
「さすがに、エルフの数が多いですね」
ウェネニーヴの一言に、私も辺りを見回す。
確かに中央の都というだけあって、経由してきた集落とは桁違いの数のエルフ達が行き来しているのがわかる。
そして、やっぱり人間が珍しいのか、私達はなにげに注目を集めていた。
「なんだ、あの人間達は……」
「なんで、あのおっさんは裸みたいな格好を……」
「それより、あの子供は随分と可愛らしいな……」
囁かれるのは、モジャさんとウェネニーヴの事ばかりで、強烈な個性に挟まれた私はかなり目立たない存在らしい。
いや、いいんだけどね。あんまり目立つのは好きじゃないし、ちゃっちゃと用事を済ませてしまいたいし。
ただ、何か時々チリチリとする視線も感じるんだよなぁ。
ひょっとして、セイライを吊る下げてるから、警戒されてるのかしら?
「なーに、見てやがるですか!?」
「喰っちまうぞ、コラァ!」
コラコラ、変な注目されて苛立つのはわかるけど、威嚇するんじゃありません!
まったく……揉め事の種は撒かないでほしいわ。
うんざりする私と、周囲を睨み返すウェネニーヴ達の姿に、プルファはクスクスと笑う。
「んじゃ、これがら王様んどごさ行ってみっがら、エアルさん達もついてきてくなんしょ」
え、アポとかは取らないの?
「んな、堅苦しいごとしねっても、大丈夫だよぉ。王様、暇してっし」
王様が暇って……どうなの、それは?
まぁ、面倒な手続き無しで会えるなら、手間が省けていいか。
────エルフ達の人込みを抜け、世界樹の麓までやって来た私達だったけど、改めてこの樹の巨大さに圧倒されて息を飲む。
「こっちだよ、エアルさぁ」
ポカンとしていた私達を呼びながら、プルファが大きな根っこの一つに開けられた扉の前で手招きをする。
その扉の前には衛兵らしきエルフ達がいたけど、どうやら彼女は顔パスのようだ。
そういえば、この国で一二を争う弓の使い手って言ってたもんね。
もしかしたら、結構プルファは偉い人なのかもしれないな。
「こっちだからし」
案内してくれる彼女に従って、いよいよ世界樹の内部に入っていく。
ここで意外だったのが、中はあんまり暗くなかったって事だ。
「太陽の光を浴びでる時は、世界樹自体もうっすら発光してんです」
へぇ、そうなんだ。あ、でもそれだと夜はどうなるのかしら?
「まぁ、エルフは夜目が効くから、ちぃっとくらい暗くでも平気だげっちょない」
確かに、エルフは人間の数倍は夜目が効くっていうからなぁ。
でも、いちおう照明器具はあるらしくて、世界樹から取れる油を燃料にして、ポツポツと明かりを灯してはいるらしい。
田舎の夜で暗闇には慣れてるけど、やっぱり明かりがあるならありがたいわ。
そんな他愛もない話をしながら、登ったり降りたりを繰り返し、ようやく私達はひときわ巨大な扉の前にたどり着いた。
いやー、もうどこをどう歩いて来たのか、全然わからない。
なんて複雑な内部構造になってるのかしら。
国全体の作りもそうだけど、エルフって基本的に道に迷わせるような造りが好きよね。
ややこしい道のりに私達がうんざりしていると、プルファは大扉の前にいた護衛の人達と何か話していた。
それが終わると、護衛の一人が室内に入っていく。
やがて、数分もしない内に戻ってきた護衛は、プルファを含む私達も一緒に室内へ入るように促してきた。
あー、セイライを吊るしっぱなしとはいえ、一応武器であるモジャさんの《神器》は預けた方が良いのかしら?
しかし、《神器》は持ち主の手から離れた方があぶないと護衛のエルフは笑う。
むぅ、さすが長い
何はともあれ、そういうことなら私も《神器》を装備したまま入らせてもらいましょう。
そうして大扉を潜って室内に入ると、そこには思った以上に広い部屋があった。
多分、百人位は入れそうなその部屋の奥、一段高い造りになっているそこに、七人ほどのエルフが座ってこちらを見ている。
中でも、ひときわ立派な玉座に鎮座する王?の姿があった。
見た目だけなら四十代後半といった感じだけど、人間の五倍は寿命が長いと言われるエルフだから、実年齢はもっと行ってるんだろうな。
「よぐ来たな、人間の客人。ま、ゆっくりしでってくなんしょ」
王様とおぼしきエルフは、にっこりと笑みを浮かべ、やはりエルフ訛りのきつい話し方で、私達に歓迎の意を示してくれた。
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