第5話 6月10日

【side愛菜】

 

☆☆☆


 学校に到着すると、友達の智美が声をかけてきた。


「おはよう愛菜」

「おはよう智美!」

「あれ? なんかいつもよりテンション高くない?」

「そうかな?」

「さては、何かいいことでもあったなー。聞かせなさい!」

「ないってば! いいことなんて・・・・・・」

「あ! 言い淀んだ! 怪しい〜!」

「あったといえばあったかもね」

「やっぱりー!」


 智美が「教えてよ」と私の腕に胸を押し付けてきた。

 相変わらず、大きな胸だなと感心してしまう。そしてマシュマロみたいに柔らかい。小柄で細身だから、余計に強調されている。本当に高校生って疑ってしまいたくなるほどだ。

 さらに智美はアイドル顔負けの可愛い顔をしている。だから、廊下を歩くだけで注目の的だ。今も男子生徒の視線をひしひしと感じる。


「みんな、愛菜のこと見てるねー」

「いやいや、見てるのは智美のその胸だから」

「そんなことないよー。ほら、さっきの子なんて愛菜の顔をチラッと見て、恥ずかしそうに舌を向いた!」


 勘違いだろう。きっと、智美の胸の色気にやられただけだ。


「愛菜って、ほんと男の子に興味ないよねー」

「そんなことはないけど?」

「じゃあ、この学校に愛菜のお眼鏡に叶う子がいないだけかー」

「そう言う智美こそ、彼氏いないじゃん」

「私は待ってるの! 運命の相手が来るのを! やっぱり付き合うなら一生を添い遂げたいじゃない!」


 お花畑脳。

 智美は少女漫画が大好きで、そんな恋愛に憧れているらしい。運命的な恋的なやつ。

 そういった意味では私は恋愛というものに冷めているのかもしれない。

 父親があんな感じだったから、仕方ないんだけど・・・・・・。


「で、いいことって何があったのー?」

「それ、覚えてだんだ。でも、言わない。秘密」


 言ってしまったら、あの幸せな時間が掠れてしまうような気がした。


「ちぇー。まぁ、いっか! 愛菜が嬉しそうならそれでいいや!」

「そういうことにしといて」


 私たちは教室に一緒に入った。

 教室中の視線が一気に私たちに向いた。

 毎朝、毎朝、めんどくさい。

 私は自分の席に座った。智美も私の前の席に座る。

 それにしても、運転してるお兄さんの姿かっこよかったなー。なんだかんだ言って、私のことを学校までちゃんと送り届けてくれたし、優しいんだよなぁ。あの時もさりげなくコートかけてくれたし。それにあの時も・・・・・・。

 気がつけば私はお兄さんのことばかり考えていた。


「愛菜、また嬉しそうな顔してるよ」

「うっさい」


 ニヤッと笑っている智美の頭にバシッとチョップをくらわせてやった。


「痛い〜。何するのよー」

「智美がからかうからでしょ」

「だってー。愛菜、恋してる顔してたんだもん」

「恋・・・・・・?」

「うん。誰かを想ってますって顔してたよ」

「してないから!」


 私は心の中を見透かされたようで恥ずかしくなって、もう一度智美にチョップをくらわせた。

 外の雨は今朝よりも勢いが増していた。


「迎えに来てくれないかな・・・・・・」


 そう呟いた私の声は雨の音でかき消されていった。

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