第22話 強者の出現

「しつこい!!」


「ギャッ!!」


 再度ダンジョン化するという状況に、地下都市の住人はパニックに陥った。

 しかし、町の兵や冒険者たちの誘導により、戸惑いながらも避難が開始された。

 そんななか、一角兎・ゴブリン・スライム・ルマーカというなめくじ・ピピストレッロというコウモリの魔物たちが出現し、凛久はクラセロと共にそれらの魔物の退治に当たっていた。

 再度出現したゴブリンを、凛久は煩わしそうに斬り殺した。


「フゥ~、体力の配分を考えないとまずいな」


 出てくる魔物はたいしたことが無い。

 しかし、こうも頻繁に出現してくるとなると、気を付けないと体力切れになりかねない。

 そう考えながら、凛久は周囲に魔物がいないことを確認して一息ついた。


「でも、下層じゃないだけマシだろ? どんな魔物がいるか分からないぞ」


「そうだな……」


 ギルドランクの低い自分たちは、上層の魔物を担当するで済んでいる。

 それに引きかえ、Ⅽランク以上のギルドランクの者たちは、中層以下の魔物を倒すことを任されている。

 ダンジョン核は、自分の周囲程強力な魔物を配置することで身を守ろうとする。

 核は、今回異常が発生した地下にあるはず。

 そうなると、地下へ進むほど強力な魔物が出現するはずだ。

 そんな魔物たちと戦い続けることに比べれば、クラセロの言うようにまだマシかもしれない。


「アンッ!!」


「「っ!!」」


 クラセロと共に一息ついていた凛久だったが、従魔であるクウの鳴き声で意識を切り替える。

 魔物の発生する兆候である、黒い渦のような物がまたも出現したからだ。


「グルル……」


「なっ!?」


「グレーウルフだと!?」


 またゴブリンでも出現するのかと思っていた2人だったが、今度はこれまでとは違う魔物が出現した。

 全身灰色の毛色をした狼、グレーウルフだ。

 これまで魔物が下位グループの脅威度だとしたら、発生したのはワンランク上の脅威度に位置する魔物だ。


「くっ!!」


「大丈夫。グレーウルフといっても一頭だけだ」


 魔物のランクが上がったことに、クラセロは手に持つ槍に力を込める。

 グレーウルフは、たしかにこれまでの魔物よりも強い魔物だ。

 しかし、グレーウルフの恐ろしいところは群れによる攻撃だ。

 一頭だけなら、そこまで脅威にはならない。

 そのため、凛久は慌てて飛び込んで行きそうなクラセロに、落ち着くように促した。


「ワオーーー!!」


 現れたグレーウルフを倒そうと、凛久とクラセロはジワジワと距離を詰める。

 近付く2人を見て、グレーウルフは突然遠吠えをした。


「ガウッ!!」「ワウッ!!」


「なっ!」


「仲間を呼びやがった!」


 仲間の遠吠えに反応したのか、2頭のグレーウルフが新たに姿を現した。

 どうやら近くで発生していたようだ。


「それでも3頭だ。1人1頭倒せばいい」


「あ、あぁ……」

 

「アンッ!!」


 仲間がいたとは予想外だった。

 こうなると危険度が上がるが、群れというほどでもない。

 クウも数に入れて、1対1で戦えば問題ないはず。

 凛久のその指示を受けて、クラセロとクウは返事をする。


「行くぞ!」


「おうっ!」「アンッ!」


 凛久の合図と共に2人と1匹は行動に移る。

 それぞれが意識を引き付けるように動き、3頭のグレーウルフの分断を図る。


「ガウッ!!」


「フンッ! 1対1ならたいしたことないっての!」


 群れが相手なら連続で攻撃を仕掛けてくるため、無駄のない回避が求められるが、相手は1頭だけ。

  3頭を分断することに成功した凛久は、自分に向かって来るグレーウルフの攻撃を余裕をもって躱した。


「ガアッ!!」


「っと!」


 クラセロも同様に1対1に持ち込むことに成功する。

 これで問題なく倒せる状況になった。


「ガァ!!」


「アンッ!!」


「ギャウ!!」


 1対1に持ち込んでグレーウルフと戦うことになったが、すぐに状況が変わる。

 牙による攻撃を躱したクウが、逆にグレーウルフの喉に噛みつく。

 大型の狼が、子犬に噛みつかれる。

 想像したら全く通用しないように思えるが、結果は全く逆。

 クウの牙が深々と喉に突き刺さり、グレーウルフは大量の血を噴き出して動かなくなった。


「……とんでもねえな」


 クウの戦闘がチラリと見えたクラセロは、改めてクウの強さに驚いた。

 グラスドッグとグレーウルフでは、グレーウルフの方が強い。

 しかし、クウはそれを覆した。

 しかも子犬だというのにだ。

 見た目は他と変わらないというのに、この強さは異常だ。

 どう考えても変異種に違いない。

 それを引き当てた凛久の強運を、クラセロは羨ましく感じた。


「このッ!」


「ギャッ!!」


 クウが1頭倒したすぐ後、凛久もグレーウルフを斬り殺す。


「俺が最後かよ……」


 槍で突いてグレーウルフが動かなくなったことを確認したクラセロは、槍に着いた血を払いつつ呟く。

 クウが強いのは何度か見たことがあったので分かっていたが、薬草採取ばかりをしている凛久よりも遅かったことに若干ショックを受けているようだ。






「フゥ~……、治まったか?」


「ハァ、ハァ……、みたいだな」


 3頭のグレーウルフを倒したと思ったら、またもゴブリンたちが出現して襲い掛かってきた。

 市民の避難が済んだ頃、ようやく魔物の出現が治まってきた。

 体力の配分を考えつつ戦ってきたが、さすがに疲れて来た。

 少し息切れしている凛久に対し、クラセロは完全に肩で息をしている。


「お前はまだ大丈夫そうだな?」


「アンッ!」


 休憩として受け皿に出した水を飲み、クウは凛久の問いに返事をする。

 2人と違い、まだ元気そうだ。


「っっっ!!」


 やっと休憩がとれたと思ったら、またも魔物出現の兆候が発生する。


「チッ! またか……」


 さすがにしつこく感じたクラセロは、思わず舌打をして愚痴る。


「……おいっ、何かこれまでよりでかくないか?」


「あぁ……」


 魔物の発生する兆候である黒い渦。

 それが今までより大きいことに凛久は気付く。

 クラセロも同様のことを思ったらしく、訝し気な表情でその渦を眺めた。


“ザッ!!”


「…………、嘘だろ……?」


「ダンジョン化したって、なんであんなのが……」


 これまでよりも大きい黒い渦が治まると、そこに魔物が現れる。

 しかし、その魔物を見た凛久とクラセロは、一瞬にして顔色が青くなった。

 何故なら、ここは比較的弱い魔物ばかりが出現するはずのダンジョン上層部だというのに、下層部で出てくるような危険な魔物が出現したからだ。


「ミノタウロス……」


 体は人間、頭は雄牛の怪物。

 ミノタウロスが現れたのだ。


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