第21話 再ダンジョン化
「何だあの魔物の数は!!」
採掘場の壁から魔物が出現したという報告を受け、ギルドから調査と討伐を請け負った12人(4人パーティーの3組)の冒険者たちは戸惑っていた。
魔物を倒しながら穴の中の調査を進めると、先程とは比べられないくらいの魔物が自分たちに襲い掛かってきたのだ。
調査している場合ではないと判断した彼らは、すぐさま踵を返して来た道へ向けて走り出した。
「しかも、白黒熊なんてシャレになんねえぞ!!」
逃げる冒険者たちの中の1人が、追いかけてくる魔物のことを叫ぶ。
追いかけてくるのは、白黒熊と呼ばれる凶暴で危険な魔物として知られている。
凛久がいたならこう言うだろう。
「パンダだ」と。
「追いつかれるから黙って走れ!! 魔法で足止めしてるけど、あいつらの脚が全然止まんねえ!!」
冒険者たちの中には魔法が使える者たちもいる。
その魔法使いたちによって、逃げながら魔法による足止めをおこなっているのだが、白黒熊たちの脚が止まるのは僅か数秒。
足止めの手を止めると、すぐに距離を詰められてしまいそうだ。
なんとかして逃げ切るためにも、先程叫んだ仲間に向かって口より足を動かすことを促した。
「よし! 出られた!」
全力疾走して入り口となる採掘場の壁から飛び出した冒険者たちは、何とか白黒熊から逃げきれたことに喜びの声を上げた。
近くまで追いかけてきたようだが、壁に開いた穴の大きさからいって、巨体の白黒熊たちではこれ以上は不可能だろう。
ひとまず安全な場所に出られたことで、冒険者たちは安堵の息を漏らした。
「ギャウ!!」
「おわっ!!」
全力疾走して切れた息を整えていた冒険者たちだったが、突然魔物に襲い掛かられた。
襲い掛かってきたのはゴブリン。
彼らは冒険者の中でも中堅のⅭランク。
ゴブリン程度の不意打ちにすぐに反応し、ギリギリのところで攻撃を回避した。
「外に出て来たゴブリンは倒したはず!」
「何でこんなにいるんだ?」
自分たちよりも数は多いが、恐れるほどではない。
それよりも問題なのは、開いた壁の穴から出て来た魔物たちを全部倒してから壁の中の調査に向かったにもかかわらず、襲い掛かってきたゴブリンは20体近くいることだ。
ほとんど一方通行だった壁の中の通路。
白黒熊たちに遭遇するまでの魔物はたいしたことが無く、遭遇するたびに倒している。
そのため、壁の中から外に出たという訳ではないはずだ。
そうなると、ここに自然発生したということになるが、そんな事は滅多に起こることではない。
こんな数のゴブリンが出現するなんて、異常事態でしかない。
「まさか……!?」
「何だ!? 何か分かったか!?」
ここまでのことを整理して考えていた冒険者の1人が、何かに気付いたような反応をする。
それが気になり、仲間の1人が答えを求めた。
「もしかして、またここがダンジョン化した……とか?」
「なっ!? そんなバカな!!」
「でも、そう考えると……」
これまでここに魔物が出現するようなことなんてなかった。
ここは元ダンジョンだった跡地。
もしも、ここが再度ダンジョン化したというのなら、この状況もあり得るのではないか。
ダンジョン内なら魔物が出現するのは当然だからだ。
自分で言っておきながら確信が持てないため、その冒険者は語尾が弱くなる。
その発言に、他の冒険者たちは信じられないと言ったような表情へ変わった。
攻略されたダンジョンの跡地が、再度ダンジョン化するなんて話聞いたことが無い。
しかし、彼の言うように、ダンジョンなら当然と言ったような状況が起きている。
そのため、ほかの冒険者たちもその考えが正しいのではないかと思い始めた。
「その考えが正しと手考えよう。そうなると、ギルドに住民の避難を促してもらわないといけない。まずはこの場から脱出するぞ!!」
「あぁ!!」
ダンジョン化しているとしたら、核を破壊するしかない。
しかし、このメンバーであの壁の中の魔物を相手にできるとは思えない。
まずはギルドにこのことを報告し、高ランク冒険者たちによる核の破壊の討伐隊を組んでもらうしかない。
そう考えた彼らは、周囲の魔物を倒しつつ、冒険者ギルドへ向けて移動を開始した。
◆◆◆◆◆
「ゲギャ!」
「なっ!! また!?」
宿屋から飛び出した凛久たちは、再度異変に遭遇する。
小さい黒い渦のような物の出現。
魔物が出現する時の兆候だ。
その渦が集束すると、ゴブリンが出現した。
「このっ!!」
「ギャウ!!」
当然放置しておく訳にもいかない。
凛久は、急遽出現したゴブリンを剣で斬り裂いた。
「薬草屋! こっちもか!?」
「クラセロ!! どうなってんだ!?」
「俺が知るかよ! とりあえずギルドに向かって情報を得るしかない」
凛久がゴブリンを倒したところで、冒険者仲間のクラセロがこちらに向かってきた。
凛久が倒しゴブリンを見て呟いた言葉から察するに、彼も町中に出現した魔物を倒してこちらにきたのだろう。
下層の状況など分かる訳もない凛久は、彼を見た途端この状況の説明を求める。
しかし、クラセロ自身もどうしてこうなっているのか分からないため、ギルドに向かうことを凛久に提案する。
「くそっ! 行くぞ! クウッ!」
「アンッ!」
状況が分からないままではどうしようもない。
凛久は提案に乗り、クウを連れてクラセロと共にギルドへ向かうことにした。
【緊急連絡!! 緊急連絡!!】
「「っ!!」」
ギルドへ向かう途中、町中に大きな声が響き渡る。
声の聞こえてくる方角から、どうやら拡声の魔道具によってギルドから発せられているようだ。
突然のことに、凛久とクラセロは足を止める。
【下層の調査へ向かった冒険者より報告が上がりました! 信じられないかもしれませんが、この町はダンジョン化した模様です!】
「「なにっ!?」」
足を止めてギルドから発せられる報告に耳を傾けていた凛久とクラセロは、その発せられた内容に目を見開いた。
攻略されたダンジョン跡地が、再度ダンジョン化するなど聞いたことが無かったからだ。
【市民の皆さんは地上へと避難してください! Eランクの冒険者の方は市民を地上までの護衛してください! Ⅽ・Dランクの冒険者は上層部に出現した魔物の退治に当たってください! A・Bランクの冒険者はギルドに集合してください!】
「……Dに上がるんじゃなかった」
ダンジョン化したと言うが本当なら、この指示は理解できる。
魔物との戦闘に不安のあるEランクは市民と共に避難させ、ⅭとDランクは比較的魔物の弱い上層部を、残りのAとBランクは、ダンジョン核の破壊をするために下層へ向かわせるつもりなのだろう。
魔物との戦闘は何度もしているので慣れている。
しかし、慣れているからといって、望んで危険なことに首を突っ込むような真似などしたくない。
出来れば市民と共に避難したいところだが、Dランクの凛久は避難するわけにはいかない。
ゾーダイの町のゴブリン退治で下手に活躍してしまい、ランクアップしてしまったことを、凛久は今になって後悔していた。
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