第19話 地下都市

「ようやく着いた!」


「アンッ!」


 身分証を提示して門を通った凛久は、両手を上げて声を発する。

 主人の表情を読み取ったのか、クウも嬉しそうに尻尾を振る。

 ゴブリン軍の討伐で移動資金を得た凛久は、次の町へと移動していた。


「ここが地下都市イタヤか……」


 この町もそうだが、この世界ではどこの町も魔物の侵入を防ぐための防壁が建てられている。

 しかし、他の町と違い、この町の防壁の内部はかなり狭い。

 それには理由がある。

 この都市の人々は地上ではなく地下に住んでいるからだ。


「確か、攻略されたダンジョンの跡地を利用したんだったな……」


 この世界にはダンジョンというものが存在していて、魔物のように突如

出現する。

 ダンジョン内部に侵入した生物の死体や、空気中に存在する魔素を栄養として吸収し、内部を肥大化させていく。

 放っておくと、外から栄養となる生物を取り込むために、吸収した栄養から作り出した魔物を大量放出する場合がある。

 それを阻止するためには、ダンジョン内にある核を破壊するしかない。

 ここは、攻略されて空っぽになったダンジョンの内部を利用して作られた町だ。


「そのダンジョンを攻略したのが、初代日向国王ってんだからすげえな……」


 ダンジョンができた時、この周囲は樹々に覆われていた。

 そのこともあって発見されるが遅れたため、内部の魔物は大量かつ強力で、いつ外に排出されてもおかしくない状況だった。

 そこにたまたま現れた日向の初代国王が攻略に乗り出し、多くの冒険者が手こずるなか、グングンと先へと進んで行って攻略したという。

 彼によって攻略されて残った30階にも及ぶ巨大な地下空間を見たこの地の領主は、このまま放置するのはもったいないと考え、この地に人を住まわせるようにしたというのが始まりなのだそうだ。

 強力な魔物が大量に潜む30階にも肥大したダンジョンを、たった1人で攻略したという話を、凛久は最初信じられなかった。

 凛久からすると化け物のように思える蒼。

 その蒼でも無理な話だ。

 しかし、それが本当にあった話だと知り、凛久の中で初代日向国王は本当の化け物だと結論付けた。


「どれだけ剣の才に恵まれているんだよ」


 初代日向国王は、身体強化と刀を利用した戦闘に特化した人間だったという話だ。

 それだけ強ければ、どんな魔物が相手でも恐れることはないだろう。

 従魔の子犬に助けられている自分とは大違いだ。

 凛久からしたら、その才は羨ましいことこの上ない。




「さてと、ちょっと図書館に行って来るから、大人しくしていてくれな?」


「ク~ン……」


 地下都市に入ってすぐに手ごろな宿屋を見つけた凛久は、借りた部屋にクウを置いて、図書館に向かうことにした。

 図書館は、身運証を提示して少額の使用料を支払えば、だれでも使用することができる。

 しかし、中には貴重な書物も存在していることから、さすがに従魔の入館は禁止されているため、クウはお留守番だ。

 主人と離れるのが寂しいのか、クウは悲しそうな声で鳴いて、凛久を見送った。






◆◆◆◆◆


「すいません」


「はい。いらっしゃいませ」


「初代日向国王に関する書物が読みたいのですが?」


「畏まりました。少々お待ちください」


 図書館に入った凛久は、早々に自力で探すのを諦めた。

 というのも、図書館がかなりの広大で、この中から目的の本を探すのは、砂漠の中から一本の針を探すようなものだからだ。

 それならば頼むのが一番だと、近くにいた司書の女性に話しかけた。

 頼まれた女性は少し考え込むと、凛久をその場においてスタスタと動き出した。


「お待たせしました。すぐに見つけられたのはこれだけですね」


「ありがとうございます」


 少し待っていると、先程の女性が戻ってきた。

 その手には、数冊の本が乗せられている。

 その本を受け取った凛久は、軽く頭を下げて感謝の言葉を述べた。


「これ以上となると、後日来る時までに集めておきますが?」


「そうですか。これを見てから決めさせてもらいます」


「畏まりました。御用の際はお声がけください」


「はい」


 これだけ大きな図書館なら。全部読むのに数日かかるだろう。

 他の本はまた次の時にして、今日は持ってきてもらった本を読むことにした。


「……改めて、とんでもない人だな」


 司書の女性に持ってきてもらった本を読み終わり、凛久は感想を小さく呟く。

 初代日向国王は、この世界にある東西南北の大陸全てを回って、現在の日向の地へたどり着いた。

 その行く先々で問題を解決することで、名前が知れ渡っていったようだ。


「やっぱり、この人もそうだよな……」


 彼のおこなったことを細かく見ていくと、凛久には引っかかることが出てきた。

 そのことから、もしかしたらという思いが深くなっていた。


「手っ取り早くリバーシを作ってくれていれば分かりやすかったんだけど、将棋か……」


 漫画やラノベでよくある異世界物を読んだ時、よく主人公がリバーシを作って資金を得るということがあるが、日向王が作ったのは将棋。

 日本人ならよく見る日本将棋だ。

 将棋は日向から世界に広まり、有名な遊戯の1つとなっていて、それを生み出した日向は、結構な額の資金を得たそうだ。

 駒の数やルールまで完全に同じというのは、いくら何でもおかしい。

 そのことからも、日向王は自分と同じ転移者なのではないかと思える。


「でも、この世界で亡くなったと言うことは……」


 日向国王は、数百年前に国民に惜しまれつつ亡くなった。

 他国の王族も葬儀に参加したらしく、それだけ多くの功績を残したということだろう。

 しかし、もしも異世界人の可能性のある彼が、この世界で生涯を終えたということは、凛久からすると喜ばしい話ではない。


「そうは考えたくないな」


 この世界で生涯を終えたという話なら、つまりは元の世界に戻れなかったろ言うことになる。

 もしもそうなら、凛久の帰還法を探す旅も無駄ということになる。

 しかし、送は考えたくない。

 もしかしたら、日向王も帰れるのに帰らなかったという選択を取った可能性も考えられる。

 凛久としてはそっちに期待するしかないため、帰れなかったという可能性は考えはしたくない。


「たどってみるしかないかな……」


 もしも日向王が自分と同じ異世界人なら、元の世界への帰還法を探し回っているはず。

 世界を回ったのも、それが理由なのではないだろうか。

 それならば、日向王と同じ道を通れば、帰還法が見つけられるかもしれない。

 今回のことで、凛久は今後の方針を決定した。


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