変な光に付き纏われてます 2

「はぁ………」


終業のチャイムが鳴り、帰りの身支度を整え始める。


いつもならさっさと身支度をしてさっさと帰るのに、今日は凄く憂鬱だった。


「憂鬱そうだね」


咲希子がチョコレートをかじりながら私の気持ちを代弁する。


コイツ、いつも何か食べてるけど全然太らないのはなんでだろう。


「そりゃそうでしょ……」


憂鬱にさせた張本人が、言うセリフだろうか。


「あ、そうさせたのはアタシか」


ポンッと頭を叩いた。


「……はぁっ!」


私はガクッと勢いよく項垂れた。


「まあまあ、そんなに落ち込まないで。もうそろそろだと思うから」


「‥‥‥なにが?」


「ん?んふふふ」


咲希子は私の問い掛けに答えず、ニマニマと笑っている。


「そんじゃ、お先~」


ヒラヒラと手を振り、何も言わずに帰って行ってしまった。


「なんなのよ……」


私も早く帰ろう、と立ち上がった瞬間、背後に人の気配がして振り向いた。


そこには、


「……ゆ、雪ちゃん!?どうして!?」


紛れもなく雪ちゃんが立っていた。


「こーら。会社ではその呼び方禁止って言ったでしょ」


おでこをツン!と突つかれる。


「あ、ごめんなさい」


おでこをさすりながら謝った。


でも、雪ちゃんだってオネエ言葉になっちゃってるよ。


「まあ、もう誰もいないみたいだし、良いけどね」


え?と思い、見回してみると、ここには私達二人しか残ってなかった。


色んな事で混乱してて、気が付かなかった。


「さあ、帰りましょ。送って行くわ……ホラ、鞄持って」


「へ?……あ、はい!」


鞄を押し付けられ、慌てて抱える。


「あ、あの……なんで……」


「あら?サキコちゃんから聞いてない?」


先を行く雪ちゃんを小走りで追い掛けた。


エレベーターに乗り込み、一階のボタンを押す。


「何も聞いてません……」


何?何を言ったんだ!?


でも、雪ちゃんから出て来た言葉は、私の予想に反する言葉だった。


「『江奈が心配だから、しばらく送って行ってあげて下さい』って、お昼休みに言いに来たのよ」


「え……」


「サキコちゃんは江奈の事が大好きなのね。羨ましいわぁ」


うふふ、となぜか雪ちゃんが嬉しそうに微笑む。


そうか。


咲希子がさっきニヤニヤ笑っていたのはこう言う事だったのか。


アイツ……私の知らない所でそんな事……。


ちょっと泣きそうじゃない!


「大事にしないとね」


「……はい」


グスッと鼻をすする。


チンッ――、と到着を知らせるベルが鳴り、扉が開く。


降りて振り返ると、雪ちゃんが「開」のボタンを押したままエレベーターに乗っている。


「今日車で来てるのよ。玄関に回すからちょっと待ってて」


雪ちゃんが、車のキーを親指と人差し指で詰まんで、チャラッと振って見せた。


「あ、はい。すみません。ありがとうございます」


すぐに来るから、と言い残して雪ちゃんは駐車場がある地下へ、エレベーターで下りて行く。


それを見届け、私は玄関付近で待つ事にした。


……なんか、雪ちゃんに甘えっぱなしなんだけど、これって良いのかな。

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