偽装彼女 5
トントン、と灰皿にタバコを打ち付け、灰を落とす。もう一度吸って、まだ半分ほど残っているタバコを灰皿に押し付けて火を消してしまった。
ため息交じりに煙を吐き、
「ああ見えてあの人、大企業のお偉いさんで、妻子持ちだったのよ」
と津田部長が言った。
「へ~、そうなん………は?」
私は、淡々と語る津田部長の顔を見た。
……え?今なんて??妻子持ち……え?
「あ、でも円満離婚だったのよ。奥さんもお子さんもちゃんと理解してくれて、今では友達同士みたいに仲が良くて……」
「ちょちょちょちょ、ちょっと待って下さい!?……え?奥さん?子供……?」
私の頭は完全にパニック状態。
津田部長が普通に話を進めるから普通に進んでるけど、なんか今、凄い事を聞かされたような……。
さっき津田部長は、ゲイバーでハナちゃんと知り合ったって言ってなかった?
それなのに奥さんがいて、子供もいる?
どう言う事……??
ディープな話に、全く付いて行けない。
「ちょっと雪ちゃん。ちゃんと説明してあげなきゃ江奈っちがパニクってるじゃない」
「はえ?」
目を白黒させていた私の頭上で声がする。
顔を上げると、両手にお皿を持ってハナちゃんが立っていた。
「お待ちどおさま。ハナちゃん特製、雪ちゃんスペシャル!」
持っていたお皿が目の前に置かれる。
「わぁっ!美味しそう!」
それは、具沢山のナポリタン・ハンバーグ・ミニグラタン・サラダが綺麗に盛られている、ランチプレートだった。
フワッと美味しそうな香りが私の鼻をくすぐり、お腹がぐぅぅぅ……と鳴る。
「雪ちゃんの好物ばかりを乗っけたスペシャルランチよ。まったく、好みがお子さまなんだから」
ハナちゃんが、津田部長のおでこを突っ付いた。
津田部長が、うるさいわねと言いながらおでこをさする。
「ささ、江奈っちもあたたかい内に食べて食べて♡」
「はい!いただきます!」
私は顔の前で手を合わせ、一礼をする。
まずはハンバーグを一口。
「……ん~!美味しーいっ!!」
さっきまでパニック状態だった私の思考回路は、簡単にシフトチェンジをし、今はハンバーグの事で頭がいっぱいだった。
フワフワジューシーなハンバーグ。噛んだ瞬間、肉汁が口いっぱいに広がり、お肉の味がしっかり感じられる。ほろ苦なデミグラスソースがまた絶品で、少し大人の味。これは飽きずにどんどん食べられる。
こんなに美味しいハンバーグは、初めて食べたかもしれない。
ナポリタンを食べてみると、懐かしい味がした。ケチャップの素朴な味と、ウインナー・玉ねぎ・ピーマン・マッシュルームの、沢山の具材達が見事にマッチしていて、みんなが大好きな味に仕上がっている。チーズがかかっているのか、風味が効いていて更に美味しさを際立たせていた。
グラタンは、大振りの海老が3尾も乗っていて、これまた美味しそう。しかし、運ばれて来た時にまだグツグツと音を立てていたので、今食べるのは火傷必至かもしれない。早く食べたいけど、適温になるまでお預けだ。
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