第12話 かつての仲間たちとの記憶(魔王テンダエル城突入前)

 ボスゴブリンが私にとどめを刺そうと、この瞬間に時が止まったのだろうか。

 真っ白い光が…私を包んだ。

 何も見えない…。

 眩しい…。


 …何かが…見えてきた。

 なんだろう…これは…私は一体…何を…見ているのだろう。


 男性ふたりと女性ひとりが宿屋でなにやら話し合っている。男性のひとりと女性は大怪我を負っていてベッドに横たわっている。もうひとりの無傷な男性はベッドのふたりに話しかけている。

 あ…無傷な人は…ベルスだ。私の中にいる伝説の勇者様。いつかは、彼にこの体を返さないといけないのだった。

 と…すると…これは、過去の出来事なのか。ベルスの記憶を追憶しているのか…元はベルスの体だから走馬灯というものを見ているのだろうか…。


 わからない。何も。


「これから魔王テンダエルの城に乗り込む。お前たちはくるな」

 ベルスは冷たく言った。でも、ふたりは大怪我しているからしかたないと思う。


「まて…魔王とひとりで戦う気か? 俺たちも行く。バトルマスターの俺が付いていく…」

「私もサポートでお手伝いできます。お願いします。賢者の力でお役に立てます。回復役は必要です…」

 ふたりはバトルマスターと賢者か…そうか…たまにベルスの記憶が流れてくることがあった。このふたりが…バトルマスターのエーベルトさん、賢者のセーレさんか。


「いや…お前たちは戦いのダメージが蓄積しすぎだ。回復もしばらくは受け付けないだろう。帰れ、足手まといはいらん!」

 ベルスは、厳しい言葉をふたりに言っていた。言葉は強いけど…逆に心配だから突き放すような言い方しかできないのかな。不器用さんなのか…。


「くそっ! いつも、上から目線でこのクソガキが!」

 エーベルトさんはベッドから起き上がり、ベルスを渾身の力で殴った。しかし、逆に殴ったエーベルトさんがダメージを受けて膝をついていた。

「ぐわっ…」

「もういい…休め…」

「くそっ! 情けねぇ、不意打ちにあうとは…」

「魔王四天王が奇襲をかけてくるとは。せめて貴様らだけでも戦力をそぎたかったのだろう」


 急に場面が変わった。

 遠目に魔王城が見えた。ということは魔王の島か。


 エーベルトさんとセーレさんが先頭にたって積極的に雑魚狩りをしていた。ベルスはしんがり役で背後から湧いてくる敵を倒している。しかし、すごい量の敵がベルスを襲っている。なんだろう、まるで時間稼ぎみたいな感じがする。

 これは…危険かも。これは前衛と後衛を分断する作戦かもしれない。

 案の定、エーベルトさんとセーレさんは前がかりになりすぎてベルスと随分離れてしまっている。

 ベルスも気づいたみたいだ。本気を出して、周囲の魔物を一瞬で切り刻み、彼らの場所に走っていった。

 エーベルトさん、セーレさんは血を吐いて倒れている。なるほど…ここでやられてしまったのね。


「おい、大丈夫か? 誰にやられた」

「翼が生えた人型の魔物4人にやられた。くそっ!」

「そうか…」


 目の前の魔王の城の入口が開いた。囚われてボロボロになった人間4人がふらふらと出てきた。明らかに助けが必要な状態だが…何かがおかしい。


「お前たち、逃げて来たのか?」

「はい。そうです。助けてください…」

「そうか…」

 ベルスは人間たちの首をすべて刎ねてしまった。びっくりした…。


「お前、何てことを!」

「っ!」

 エーベルトさんとセーレさんは驚いて目を見開いている。


「よく見ろ」

「こんな翼の生えた人間がいるか? 殺したから正体の一部が現れたのだろう」

「な、なるほど…こいつらはさっきの…」

「こいつらはオーラの大きさから噂の魔王四天王だろうな。変化の魔法で人間に化け、隙を見て俺を殺すつもりだったのだろう」


 ベルスは何か視線を感じているようだ。城を見上げた。あぁ…窓から様子を見ているのは…魔王だ。こいつが魔王テンダエル。顔はよく見えないけど…。


「ふん、貴様の戦闘力を測ってやろう…勇者のスキル、覇王を使う。オーラの大きさで力量がわかるのだ」

 賢者の計測みたいなスキルか。


「ほぅ〜流石に雑魚とは違うな。だが、俺の方が強い。そこで震えて待っていろ!」

 ベルスは、ふたりを担ぎ出した。

「その前にこいつらをここに放置するわけにはいかないな。転移!」

 そういうわけで宿屋まで瞬間移動してふたりをここまで運んで来たのね。


 また場面が変わった。先ほどの宿屋だ。


「くそっ、情けねぇ。不意打ちに会うとは!」

 エーベルトさんが、さっきの出来事を思い出しているのだろうか悔しそうだ。

「それだけではない」

 ベルスが腕組しながら口を開いた。

「魔王四天王は確かに変化魔法で人間に化けていた。しかし、所詮は付け焼刃だ。完全に変身しきれていなくて魔物の気配が溢れていたぞ」

「くっ…」


「さて短い付き合いだったが、お前たちに死なれたくない。もう帰って休め。必ず倒してやる」

 ベルスは優しい顔で言った。本当は優しい人なのかもしれない。

「わかりました。戻りましょう、エーベルト」

 セーレさんは、エーベルトさんに声をかけた。


「餞別だ、帰路中に死なれても後味が悪い。俺の装備をいくつか渡そう。俺専用装備だが貴様らも普通の人間ではない。ある程度の効果は期待できるはずだ」


「勇者様、優しいのですね」

「死ぬなよ。ベルス」


 禁断の指輪(知能) 魔力+100、知力+100

 禁断の指輪(軍神) 物理攻撃+200、運+100

 禁断の指輪(技巧) 素早さ+100、技術+100、MP+500

 禁断の指輪(金剛) HP+500、物理防御+100、魔法防御+100


 ふたりが指輪を装備すると青白い光から赤い光に変わっていた。

「俺以外が装備すると赤くなるのか…なるほど、効果量は…半分くらいか…だが、帰路中の雑魚どもなら、今のお前たちでも十分だ。俺はもう行くぞ。さらばだ…エーベルト、セーレ」


 やがて目の前が真っ白になり何も見えなくなった。


 !?


「はっ!」

 私は、一瞬の間に過去の出来事を見ていたようだ。

 そういえば、戦っている最中だった!

 ボスゴブリンは!?


 いた! しかし、様子がおかしい。

 ボスゴブリンが私の目の前で。拳を振りかぶった態勢で固まっていた。よく見ると勇者様の剣がボスゴブリンの喉を背後から突き刺していたのだった。

 勇者様はボスゴブリンを倒してくれた。


「ソシエ、大丈夫か」

 勇者様も肩で息をする。そっと彼に抱きおこされた。


 ゴブリン達は動揺していた。それもそうだ。残るは15匹程にまで減っている。ちょうど城から兵士たちがやってきてゴブリンたちと戦っていた。それを見届けると安心してしまったのか、私は意識を失った。


 体が揺れているな。あれ、背負われているのか、勇者様が運んでくださっている。大きな背中だ、安心するな。


 医務室に運ばれて、そのまま眠りに落ちた。

 しばらくして頭を撫でられる感覚があり目を覚ました。


「はっ、ここは!?」

「ルドウィッチの町の診療所だよ。町は守れたから安心しろ」

 勇者様が心配そうな顔から笑顔に変わった。


「心配したぞ。危なかったな。俺もだけど」

「勇者様! 私を置いていかないでくださいね!」

 先ほどの夢の影響かな。私は変なことを口走しっていた。


 落ち着けと勇者様がガシッと私の両肩を掴む。


「は? 何を言っている。捨てられそうな子犬見たいな目をして…報告はみんな済ませたし、今回の作戦は評価されているから安心しろ。戦いは無傷で終わるほど甘くないのは知っているから大丈夫だ」


「そうなのですね! よかった」

「あの…勇者様近いです」

「あっ…すまん」

 なんだろ…私は動揺しているのかな…あ…またベルスの声が聞こえて来た。


 ――ふう、危なかったな。ソシエよ、ボスゴブリンとの戦いを振り返ろうか。止めを刺す時が一番怖い。すぐに動ける態勢にしておく、追撃の魔法を打ち込む、または距離をはなしておけばいいと思う。俺からの助言は以上だ。聞こえているか分らんけど頼む。


 あ…ベルスのアドバイス。私に…よかった。ベルスに見捨てられていたわけではなかった。でも、私の声は聞こえてないのか…。


 ――しかし、ディナードはよく俺の体…いまはソシエの体でもある…よく守った。格好よかったぞ。最後もソシエを落ち着かせたのも良かったな。


 えぇ…私も…不思議とドキドキしました。なんだろう…この感覚。

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