王都近辺の魔物掃討編

第11話 ボスゴブリンとの戦い(ルドウィッチの町 防衛作戦)

 昨日はびっくりしたな。それにしても二日酔いだ。頭痛がする…。

 エルミーユさんはあの魔法で姿を変えていたなんて。目が覚めた後も昨日の事を思い出す。そんな事を思い出しながら支度を終えると勇者様が迎えに来た。


「おはよう、ソシエ。昨日の成果はギルドが代行してくれたし、このまま旅に出かけたいが一応王様に報告してからと考えている」


 特に反対する理由はないし、勇者様特権ですぐに謁見となった。

 それにしても、私は酒に弱いようだ。城に着くまでに勇者様が教えてくれた。

 勇者様は私をおぶってギルドまで運んでくれたらしい。どうにか酒対策を考えないとなぁ…。なんてことを考えている間に王様とご対面となった。


「ディナード、そして、ソシエよ。よくぞグラスローの塔を奪還してくれた。感謝する。昨夜中に塔内を整理したのでな、今朝から兵士が常駐するようにしてある」

「了解です。お待たせして申し訳ありませんでした」

「なんの…なんの…相手は魔物だからのう。我々の常識は通じぬ。よくやった!」

 王様も嬉しそうでよかった。

「では我々は魔王討伐の旅に出ようと思います」

「よろしい! 勇者協定をすべての国家に対し発動する。これで各地の協力も得られよう。必ず倒してまいれ!」

 あごひげを撫でながら王様は力強く命令を下された。

「はっ!」

「承知いたしました」

 私たちは王の間を後にして背を向けた。すると兵士が慌てた様子で飛び込んできた。


「大変です! グラスローの塔から伝令です。ルドウィッチの町に魔物が押し寄せています! 町の警備隊が防衛にあたっていますが突破は時間の問題です!」

「なんじゃと!」

「ディナード、ソシエ、すまぬが聞いての通りだ。ルドウィッチに大至急向かってくれ!」

 こうして私たちはルドウィッチの町に向かうことになった。すでに町の入り口の前で馬が2頭用意されていた。

「さあ2人ともこちらに乗ってください! 先に救援をお願いします。我々兵士も準備が整い次第向かいます!」


「ソシエ、馬には乗ったことあるか?」

「はい、大丈夫です」


 私は馬に飛び乗った。しかし馬が鳴きだして落馬してしまう。いたた…馬は逃げてった。

 勇者様が手を掴んで起こしてくれた。

「だが…急がなければ! ソシエこっちに乗れ!」

「勇者様はどうされるのですか?」

「もう1頭を用意する時間も惜しい。ふたり乗りだ。もう少し前に詰めてくれ」

「え? は、はい!」

 勇者様も飛び乗り、手綱を握りしめて急ぎ馬を走らせた。


 そういうことですか…ふたり乗りか…ちょっと恥ずかしい。


「勇者様、ルドウィッチの地形はどうなっていますか?」

「あの町は漁業が盛んな町で森に囲まれている。腕利きの戦士と魔術師数人が守っている。あと城壁のように煉瓦の壁で街を囲っているので少しは持ちこたえられるだろう」

 なるほど…私は、脳内をフル回転させて作戦を考え始めた。

 ………

 ……

 …


「勇者様、作戦を考えました。私は町の近くの森に潜みながら魔法で攻撃をします。勇者様も最初は私についてきてください。敵の数を減らして防衛の負担を減らしましょう。それから勇者様は指揮官を探して一騎打ちを挑んでください。たぶん指揮官の救援に何匹か駆け付けるでしょう。入口にいる敵を分断し、さらに防衛の負担の軽減ができます」

「なるほどな」

「そうすれば衛兵だけでもなんとかいけると思います。指揮官の救援に駆け付ける敵は私が背後から襲います。そのあとふたりがかりで倒しましょう。指揮官を失った雑魚は統制もとれず混乱になります。そのころには兵士の救援で一掃できるかと」

「わかった。いい考えだと思う。よし、あと1分走ったら馬を降りて隠密行動だ」

「はい」


 私たちは馬を降りてそっと近づいた。あれはゴブリンか…ティリマス港町付近のゴブリンよりは強いな…。


 戦闘力は約200〜250。


 どの魔法を使おうかな。たぶん竜巻は駄目だ。防壁に登って戦っている衛兵もいそうだ。竜巻の巻き添えになる。火球や業火も…今の私では手元からしか発射できないのでコントロールは難しい。氷結もまだ私のレベルでは射程距離が短い、近づいて詠唱なんてしたら見つかる。そうすると…地面から土属性の鋭い槍を出す魔法、土槍を中心に戦うことにしよう。幸い、レベルが低くても射程距離は長い魔法だ。


「勇者様、土の攻撃魔法は使えますか? ゴブリン達の足元に魔力を集中させて槍をイメージしてください」

「うむ…試したことはないが…なんとかやってみる」

「勇者様ならできますよ! 自信を持ってください!」

 勇者様の目を真っすぐに見据えた。

「う…わかった…」

 なぜか慌てて顔を背けた勇者様。なぜだろうか?


 あっ! ゴブリンが肩車をしはじめた。入口の鋼鉄の扉を乗り越えようとしている。これは急がなければ…。


 はぁああああ…土槍!


 地面から木が急成長するかのように魔法の槍が出現しゴブリン達を貫いた。

 ゴブリン達の悲鳴があがる。肉に鋭利な突起物が侵入するような音が響いた。なかなかえぐいな。


 ふぅ…10匹程まとめて倒した。この調子でいこう。残りはざっと40匹程か。

 足元から突然槍が出現して、びっくりしているようだ。町を襲うなんて許されることではないので容赦はしない。隣を見ると勇者様もいい感じで魔法を使えている。この短時間で魔力のコントロールも上手になっていると思う。結構魔法の才能もあるのでは…。

 なにはともあれ町の衛兵達も、勝手に倒れていくゴブリンを見て、加勢に気がついたようだ。「救援がきたぞー!」と士気が上がっている。


 ん? ゴブリン達から離れて指揮をしている魔物がいた。強行突破しろと命令をしている。魔物も高レベルになると人語を喋るのね。


「勇者様、あそこにいるのが指揮官ですね」

「わかった。一騎打ちをしてくる」


 勇者様はそっと指揮官の背後に近づき、町を襲っているゴブリンより一回り体格が大きいボスゴブリンを切りつけた。ボスゴブリンは痛みを感じて叫んだ。「ギッ?」と雑魚ゴブリン達も指揮官の危機に5匹かけつけた。

 私は雑魚ゴブリンが5匹目の前を通り過ぎた後、背後から業火の魔法をぶつけてやった。雑魚ゴブリンは何が何だかわからずに悲鳴をあげて倒れた。


 それを見たボスゴブリンは雄叫びあげた。

「貴様等ぁああああああ!」

 怒りに任せて力強い打撃を勇者様に繰り出してきた。勇者様も必死に剣でガードをする。しかし、一瞬の隙をつかれてパンチのラッシュがヒットして勇者様は吹き飛んでしまった。

 勇者様が危ない、助けよう。

 ボスゴブリンの足元に魔法の土の槍で身動きを封じた。


「勇者様は倒させません!」

 するとボスゴブリンは足元に槍がささっているのにも関わらず、強引に引き抜いて飛び出してきた。うわ…絶対にダメージがあるはずなのに魔物は痛みにはやはり強い。しかし、これも想定内。冷静に動きを見切って、大振りのパンチをかわした。

 そして、カウンターで威力絶大の業火を放った。


 ボスゴブリンは炎に包まれて倒れた。


 えっ…。


 次の瞬間、ボスゴブリンは炎の中から現れ、私に突進してきたのだった。

 私は血を吐きながら地面に転がった。そうか…倒れたように見えて…しゃがんでダッシュで私に体当たりをするために…力をためていただけか…炎で良く見えなかった。

 次の攻撃を避けないと…空へ…逃げる。


 しかし、集中力が切れて…魔法が発揮されずに魔力だけが霧散した。ダメージを受けすぎたのだ。


 ボスゴブリンは苦痛で顔を歪ませながらも、ゆっくりと私に近づいてきた。

 肩で大きく息をしているから、ダメージは大きいはずだ。賢者にしか使えない魔術師の「火球」上位魔法「業火」をまともに受けたのに。勇者様から受けたダメージもあったはず、しかし、耐久力がこんなにあるとは全くの誤算だった。拳を大きく振りかぶる。恐らく…即死だ。


 ごめんね、みんな。勇者様ごめん…私に力がないせいで……ベルスもごめんね。

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