第123話
「しっ」
「グギャ」
まず動いたのはダークエルフの小娘だった。
自分の得意分野であるスピードを最大限に活かした戦い方で次々に取り巻きのゴブリンたちを屠っていく。
このままあの子の独壇場となってしまうかと思ったけど、やはり敵もただの馬鹿ではないようで一定の連携を取り始めた。
さて、このままあの小娘に死なれたらご主人様の命令が遂行できないから、ちゃちゃっと片付けちゃいましょう。
「【エレキバレット】、【サイクロン】」
目の前のゴブリンたち目掛け複数の敵を一掃できる範囲魔法を叩き込んでいく。いくら相手が上位種のゴブリンであっても、所詮はゴブリンであることに変わりはなく、私の放った魔法の餌食となっている。
それでも敵の総数は百を優に超えており、二人で戦うのは些か荷が重い。だけど、あの人の命令は絶対に遂行してみせる。そして、頭をなでなでしてもらうのよ!
「ギャ、グガガ」
「ギギギィ」
私たちを取り囲んでいる、ゴブリンの指揮官であろうエルダーゴブリンアーチャーとエルダーゴブリンウォーリアーがついに動き始める。
エルダーゴブリンアーチャーはその名の通り弓を携えた遠距離攻撃主体の上位ゴブリンであり、ゴブリンアーチャーたちを従えている。
同じようにエルダーゴブリンウォーリアーも下位種であるゴブリンウォーリアーを従えており、巨大な大剣を装備している近距離タイプのゴブリンだ。
下位種のゴブリンとの違いは、体格の大きさと所持している武器の質が高いという二点だろう。それに加え、他のゴブリンたちの指揮ができているところを鑑みるに、下位のゴブリンたちよりも知性があるようだ。
「……数が多くて、うっとおしい」
「仕方ないわね。まずは取り巻きのゴブリンたちからやるわよ」
このままでは二体のエルダーゴブリンとの戦いに集中できないと判断し、この場にいる唯一の味方である彼女に協力を要請する。
彼女もまた同じ結論に達していたらしく、私の提案を了承するため頷いた。
「……邪魔、【円空斬】!」
彼女は手に持つ双剣を、左右交互に横に薙ぎ払う動作を四回連続で取った。すると彼女が薙ぎ払う度に彼女の周囲から斬撃が放たれるように飛来し、取り囲んでいたゴブリンたちに襲い掛かる。
どうやら高威力・広範囲系のスキルらしく、技を使用した彼女の額から汗が滴り落ちているのが見て取れる。
蛙の潰れたような醜い断末魔の叫び声を上げながら、ゴブリンたちが光の粒子となって消えていく。彼女の放った技の威力は凄まじく、一つの技で数十匹のゴブリンたちがお亡くなりになってしまった。
(あの子、見かけによらずなかなかやるわね……私もうかうかしてられないわ)
先ほどまで本気の戦いを繰り広げていた相手の実力を知ったことで気を引き締める。今になって思えば、味方同士で争っている場合じゃなかったわね……反省、反省。
あの子もかなり本気みたいだし、私もこの場の状況を変えるべく少し本気を出すことにした。
「舞い散りなさい、【ブラストウインド】!」
現在FAO内において上位に位置する風属性の魔法である【ブラストウインド】を唱える。MPを60も消費するためなかなか連発することはできないが、その効果は抜群だったようでほぼすべての取り巻きであるゴブリンたちを一掃する。
(……っ!? あの女、もしかしてかなり強い?)
彼女が内心で私の実力に驚愕していることとは露知らず、次の戦いに向けてMP回復のポーションを使う。MPが回復するのとほぼ同時に残った二体のエルダーゴブリンが襲い掛かってきた。
エルダーゴブリンアーチャーが、私に照準を合わせ弓を射る。何かのスキルを使用しているようで、その弓は禍々しいオーラに包まれていた。
「【ストーンウォール】、【ストーンウォール】、【ストーンウォール】、【スローイングブロック】!!」
すかさず、【ストーンウォール】を三連続で唱え自分の前方に三枚の壁を張り、その壁に投擲系の攻撃の威力を弱める魔法【スローイングブロック】を使用する。
エルダーゴブリンアーチャーの放った矢は、一枚目の壁を容易く貫く。しかし、頑強な岩の壁と威力減少の魔法の効果により二枚目の壁を貫いていくも、完全に勢いを失った矢は三枚目の壁に突き刺さる形で止まった。
「ふう、危ない危ない。まさか二枚目まで貫いてくるなんて、かなり威力が高いみたいね」
敵の矢の威力が予想以上に高かったことに内心焦りを覚えたが、気を取り直して反撃に転じた。発動速度の速い魔法でエルダーゴブリンアーチャーを牽制しつつ、隙ができたところに高威力の単体魔法をぶち込むべく隙を窺う。
ちなみに、あの小娘はもう一体のエルダーゴブリンウォーリアーと接近戦を繰り広げている。あのゴブリンもなかなか強いらしく、相手の攻撃を躱しつつ少しずつ体力を削っている戦法で戦っていた。
「足元がお留守ですよ? 【アイビーバインド】!!」
エルダーゴブリンアーチャーの意識が上半身だけに向いていることを確認すると、拘束系魔法である【アイビーバインド】を唱える。
地面から蔦が生えそのままエルダーゴブリンアーチャーの足に絡みつく。突然動きを封じられたエルダーゴブリンアーチャーはなんとか倒れないよう踏ん張っているが、その隙を見逃してあげるほど私は甘い女ではない。
「くらいなさい! 【チェインエクスプロージョン】!!」
爆発系魔法の中でもトップクラスの威力を誇る【チェインエクスプロージョン】は、消費MPが驚愕の120という高コストながらもそのMPに見合う威力を持ち合わせている。
それはまるでビルの爆破解体のように爆発が連鎖していき、爆発が一つ重なる毎にエルダーゴブリンアーチャーの姿が煙に覆われていき、爆発の回数が十を超えた辺りからその姿が完全に煙で包まれる。
その間も爆発の連鎖は収まることはなく、エルダーゴブリンアーチャーの姿は見えないが爆発の轟音に混じって奴の低い悲鳴のような叫び声が聞こえてくる。
爆発の連鎖が三十を超えると、ふいにエルダーゴブリンアーチャーの悲鳴が止み、最早周囲には爆発の轟音が轟くのみとなっていた。
最終的に爆発は五十回ほどで収まったのだが、すでにそこにはエルダーゴブリンアーチャーの姿はなく、敵を倒した時の光の粒子の残滓のようなものが辛うじて確認できただけであった。
「なんとか、勝てたわね。そうだ、あの生意気小娘は?」
戦いが終わり一息つく間もなく、あの子の安否を確認するため彼女の戦っていた場所に目を向ける。そこにいたのは、エルダーゴブリンウォーリアーに止めの一撃を食らわせた彼女の姿だった。
「……終わった?」
「ええ、あなたよりも先にね」
「……早さは関係ない」
私の言葉にむっとした表情で反論する。とにかく、この小娘を守るというご主人様の命令も達成できたし良しとしましょう。
(うふふふ、この子を守ったんだから、これでご主人様に頭なでなでしてもらえるわね)
(……ふふふ、この女の子守りができたから、ジューゴに頭をなでなでしてもらえる)
こうして、私がご主人様との妄想に耽っている間に、ゴブリン軍の本隊と冒険者の本隊が本格的にぶつかり始めるのであった。
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