第114話
「おう、久しぶりじゃねえか兄ちゃん、元気してたか?」
ジューゴがやって来たのは、かつて毎日のように入り浸っていた始まりの街の工房だった。
鉄を打つハンマーの甲高い音や、溶鉱炉から伝わってくる熱気がどこか懐かしかった。
と言っても、先日も間取りが全く同じであるバレッタ工房に赴いていたジューゴだったので、その懐かしいという感情が本物であるかどうかは甚だ疑問であった。
とにかく今目の前にいる親方とは久しぶりなため、ここは懐かしいとジューゴは思うことにした。
「ていうか拠点を移してから一か月も経ってないのに、久しぶりも糞もないだろ?」
「兄ちゃんも相変わらずみてぇだな、ところで今日は何しに?」
「ああ、前みたいに給仕室を借りられないかと思ってな」
以前ジューゴかこのFAOの世界で初めて料理をすることになった時、手ごろな場所が見つからず困っていたところ、ちょうどよく工房の給仕室が料理をできる設備が揃っていたため、親方にそこを借りたことがあったのだ。
「そりゃ構わねぇけどよ、もうあそこは兄ちゃんの貸し切りじゃないみたいだぜ?」
「そりゃ分かってるさ、ちなみに今人は?」
「ああ今はいないみたいだが、いつ給仕室を使いたいっていう奴が来るか分かんねぇぞ?」
「それで構わない、じゃあさっそく使わせてもらうからな」
ジューゴは親方にそう告げると、早々に給仕室へと向かった。
「マジで懐かしいな、まだそんなに時間経ってないんだけどな」
「クエ?」
“そうなの?”という感じで聞いてくるクーコに対し、ああとだけ短く答えるジューゴ。
「さて、さっそく今回の目的である料理を作りましょうかね」
「クエ!」
そう、今回彼がここにやってきたのかと言えば、新たな料理の開発だった。
料理自体は今まで作ったおにぎりやハーブステーキなどを量産し、フリーマーケットで出品するということをやっていたのだが、新たな料理を作るということは一切していなかったのだ。
今回はレベル上げが一区切りついたという事と、たまにはゆったりとした時間を過ごしたいという二点から新たな料理作りに挑戦する運びとなったというわけだ。
そして、今回調理する料理と言えば……。
「【うどん】だな」
「クエク?」
米を使った料理があるので、次は小麦粉を使ったパンの作製も行いたいのだが、残念ながらパン作りに重要な【酵母菌】を入手していないため、今回は断念することにしたらしい。
その代わりと言ってはなんだが、今持っている調味料で作れる小麦粉を使った料理となると、日本人であるジューゴが思いついたのが【うどん】であった。
「じゃあさっそく作っていくかね、クーコは邪魔にならないところで見ててくれ」
「クエ!」
そいうと、工房の従業員が使う皿や食器などが収納された棚の上に移動するクーコ。
通常サイズのクーコであれば、棚の上に乗ることはできない。だが【従魔の首飾り】を装備している彼女であれば、自在に体の大きさを変えることができるため、棚の上にも容易に乗ることができるのだ。
「とりあえず、材料と使う調理器具を出していくか」
そう言って取り出したのが、小麦粉とこねるために必要なボウルに塩、そして、念のために露店をうろついていた時に買っておいた麺棒だ。
今回は使う材料も調理器具も少なく済むためすぐにできあがるとジューゴは考えていた。
「うどん、うどん、うどんを作りましょう♪」
「クエクエクエー、クエクエクエー、クエクエクエッククエクククー♪」
ジューゴのご機嫌な歌に合わせて、クーコも同じようにリズムを刻む。
これほどジューゴが機嫌がいいのも、久しぶりのFAOでの新しい料理作りにわくわくしている証拠だ。
以前【焼きおにぎり】を作った時には、匂いでプレイヤーを呼び寄せてしまい、大変な事になったが、今回はその心配がないため気兼ねなく調理ができるのだ。
まずボウルに350グラムほどの小麦粉を入れ、水に溶かした150CCの【食塩水】を三分の二程ボウルの上から回しながら加えていく。
しばらくかき混ぜていき、全体がこなれてきたら残りの食塩水を加えてさらに混ぜる。
全体がそぼろ状になった生地を一つにまとめ、力いっぱい捏ねていく。
この時できるだけのし台と呼ばれる平らな場所で捏ねる。そうすることで全体的に力を伝えることができるため、コシの強いうどんができる。
その後ボウルに再び戻し、その生地を30分から1時間ほど寝かす作業があるのだが、料理人のレベルが上がったことで経験したことのない調理工程でも【時間短縮】が使えるようになったのはジューゴにとって有難かった。
それから再び生地をのし台に置き、少し捏ねたあと麺棒を使って平らに伸ばしていく。
なるべく厚みが均一になるように心がけ、できた生地を打ち粉を振りながら折りたたむ。
3ミリほどの太さになるよう均等に包丁で切っていき、振った打ち粉を払えば一先ず麺の完成である。
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