第106話
「どーしてこうなったぁぁぁあああ、解せぬぅぅうううう、解せぬぞぉぉぉおおおお!!」
「クエクエクエクエクエ!!」
ダンジョン深層部である66階層では現在鬼ごっこが展開されていた。
牛人の怪物が鳥型モンスターに騎乗した人間を追いかけるという構図だ。
もはや口癖となってしまったセリフを大音声で絶叫しながら、クーコの背に跨るジューゴ。
クエックという種族の脚力から生み出される速度は馬よりも速く、それは優に100kmを超える。
音速よりかは幾分劣るものの、その速度で疾走すれば顔に当たる風圧も辛いものとなる。
そこまでの速度を出して走行する目的は、当然だが怪物から逃亡することだ。しかしその前にやらなければならないことを思い出したジューゴは、自身の持つスキルを使用する。
「【鑑定】」
そう、ジューゴは今追いかけてきている怪物に【鑑定】スキルを使っていなかった事を今しがた気付いたのだ。
突如として襲ってきたため、本能的に逃げを選択した彼だったが、逃げるにしても今自分達と鬼ごっこを繰り広げている怪物がどの程度の怪物なのか具体的に知る必要があった。
自分よりも強いスケルトンが鎧袖一触に打ち沈められたのを鑑みても、自分などお話にならないほどの強さであるのは間違いないが、はっきりとした数値がわからないため自分との実力差が明確には分からなかったのだ。
だからこその【鑑定】スキルでの調査が必要だったのである。
【ハイグレートミノタウロス】 レベル206
HP 2783
MP 867
STR 1123
VIT 806
AGI 467
DEX 439
INT 259
MND 689
LUK 77
「オーマイガー(Oh my God)!!」
「クエ?」
強いとは思っていたが、まさかのレベル200オーバーに謎の英語が口から出てしまったジューゴ。
その言葉にどうしたという態度でクーコが反応する。
「ま、まさかこれほどとは……あのスケルトンが一撃でやられるのも頷けるな」
圧倒的力量差とはよく言ったもので、まさに彼我の差は歴然だった。
少なくとも今のジューゴではどうあっても勝つことは不可能だろう。
となってくれば、残されている選択肢は二つに一つ、玉砕覚悟で突っ込むか、全力逃亡のどちらかだ。
だがジューゴはどこぞの逝き急ぐ愚かな人間とは違い、自分と相手との力の差を十二分に理解できるくらいの頭は持ち合わせている。
まかり間違っても本来の実力を出せば勝てるはずの相手に、わざとやられるという馬鹿しかやらないような愚行を犯すつもりは毛頭なかった。
――ガタッ。
話を戻そう。現在ジューゴは迫りくるハイグレートミノタウロスから逃亡するためクーコに乗って66階層を疾走している。
ちなみに奴とクーコの速さ自体はクーコに軍配が上がるものの、2メートルと少ししかないクーコの体格の一歩分の移動距離と、下手をすれば4メートルはあるのではないかという奴の一歩分の移動距離が同じなわけがない。
スピードはこちらが上でも、一歩で移動できる距離に差があるため実質的には若干クーコが速い程度の差しかなかった。
しかも奴は一歩で移動できる距離が大きいため、移動に使うスタミナ消費は少量で済んでいる。一方クーコは現在可能な限りのスピードで走行しているため、当然スタミナ消費が激しいものとなっている。
スタミナ消費の少ない奴と、スタミナ消費の激しいクーコのどちらが有利なのかは想像に難くない。
「クエッ、クエッ、クエッ!」
「大丈夫かクーコ?」
クーコの消耗は目に見えて色濃くなってきている。
このまま何も手を打たないまま逃げ続ければ、おそらく彼女のスタミナが持たずに追いつかれ悲惨な結果が待ち受けているだろう。
かと言ってスタミナ維持のためにスピードを緩めれば、どちらにせよ追いつかれてしまうことになり、同じ結末を迎えることになってしまう。
(それに、速度を落とせば他のモンスターに攻撃される可能性だってある)
そう、ジューゴ達の敵は何もミノタウロスだけではないのだ。
現在クーコは全力に近い状態で疾走しているため、ミノタウロス以外のモンスターの攻撃を受けずに済んでいる。
正確にはモンスターがジューゴ達に攻撃を仕掛ける前に、ミノタウロスの薙ぎ払いでお亡くなりになっているのだ。
だが、ひとたび速度を緩めようものなら、ミノタウロスとはいかないまでも自分たちに致命傷を与える一撃が飛んでくることも考えられる。
まさに今の一人と一羽の状況は、前門の虎後門の狼という絶体絶命一歩手前の状態と言えた。
「ブモォォォオオオオオオ!!」
そんなジューゴ達の行動に苛立ちを含んだ咆哮と共に、手にした両刃斧でダンジョンの地面を抉り取りそれを礫の様にして投げつけてきたのだ。
咄嗟にクーコが礫の軌道上から逃げることで回避する事に成功したが、食らっていたら間違いなく追いつかれていただろう。
「今のはヤバかったぜ……どうする? なにか、何かいい手はないの――イテッ」
この状況をひっくり返すことができる手が無いのか考えていると、突如ジューゴの頭に何か落ちてきた。
「これは……首飾り?」
ジューゴの手の中にあったのは少し古ぼけたデザインの首飾りだった。
そして、この首飾りがこの状況を打開する奇跡の一手となる。
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