第73話



 ――テッテレー。



『クエックが仲間になりました』



 突如頭の中で鳴り響いた聞き慣れた効果音と共にそう告知される。

 そんなことをわざわざ言われなくても分かっていると頭の中で悪態を付きつつも、とりあえず仲間になったクエックの詳細を確認していく。



 【モンスター名】クエック(♀)  愛称:なし



 【取得職業】


 【クエックレベル22】


  パラメーター上昇率 体力+242、魔力+70、力+113、物理防御+91、俊敏性+132、命中+73、賢さ+40、精神力+80

 



 【基本パラメーター】


 HP (体力)   120

 MP (魔力)   100

 STR (力)    30

 VIT (物理防御) 25

 AGI (俊敏性)  35

 DEX (命中)   15

 INT (賢さ)   10 

 MND (精神力)   20

 LUK (運)    30






 【各パラメーター】            

 HP (体力)   120 → 362

 MP (魔力)   100 → 170

 STR (力)     30 → 143

 VIT (物理防御)  25 → 116

 AGI (俊敏性)   35 → 167

 DEX (命中)    15 → 88

 INT (賢さ)    10 → 50

 MND (精神力)  20 → 100

 LUK (運)     30 



 スキル:縮地、身体能力向上、気配感知、隠密、サマーソルト蹴り



 称号:魔物の本能、冒険者の友





「なんじゃごりゃああああああ!?」



 え? ナニコレ、めっちゃ強いんですけど……。

 仲間になったばかりなのにレベル22もあんのかよ。今まで生きてきた分も加味されるってことなのか。

 それよりもコイツ……雌だったのか、意外な新事実発覚だ。……ん、待てよ、こいつが雌って事はだ。



「お前雌ってことはさ、卵産めるんだよな?」


「クエ? クエ! ……クエッ!? クエ~~~」


「何だそのリアクションは?」



 最初は「何を当たり前の事を言っているんだ」という感じで返事をしたのだが、何かに気付き両の羽を頬に当てる仕草をしながら、目を瞬かせるというリアクションを取っていた。

 心なしか顔を赤らめながら、こちらを窺うように視線を送っている。



「……ハッ! いやいや、そういうんじゃないからな!? 俺にそんな特殊な性癖はねえぞ!!」


「クェェェ……」


「だからなんだそのリアクションは? なんでそこで項垂れる?」



 どうやら自分をそういう目で見ているのかと勘ぐった事による期待に満ちた眼差しだったようで、俺が完全にそれを否定すると落胆の表情を浮かべてテンションが駄々下がっていた。



 こちらとしては卵が産めるなら、わざわざベルデの森まで取りに来る必要が無くなるという時間効率が良くなるから聞いたことだったのだが、なにやら期待させてしまったようで悪いことをした。

 ……だからと言って、そういう目で見るつもりは毛頭ないがな……。



 少し話が脱線してしまったが、再びパラメーターの話に戻るとしよう。

 現在の彼女の強さは常軌を逸していた。

 今の俺には遠く及ばないとはいえ、一つの職業のみでこれだけの強さを持っているのは驚嘆に値する。



 どうやら【クエック】というのは種族名がそのまま職業扱いになっているようだ。

 確か某有名RPGの職業システムにもモンスター職なんてものがあったからその手の類の職業だと推察する。



 さらに脅威なのはどうやら修得できる職業枠があと二つ残っているようで、これによりさらに強化ができるようだ。

 それにしてもクエックという種族職業単一で、これだけ有用なスキルを覚えられるなんてチート甚だしいぞ……。



 今こいつが覚えてるスキルをプレイヤーが覚えようと思ったら、【剣士】と【盗賊】と【蹴術士】の三つ修得しないと無理だぞこりゃ。

 それをたった一つの職で賄えてる時点で、【クエック】という種族職業のぶっ壊れ加減がお分かりいただけるだろう。



 次に俺は称号について見てみた。

 【魔物の本能】という称号はどうやら、持っているだけで戦闘時に全パラメーターが5%上昇するものらしい。

 俺の持つ【勇猛なる者】の下位互換的称号みたいだな。



 次に【冒険者の友】というのはこちらも持っているだけで発動するらしく、各職業の成長率に補正が掛かり、パラメーターの上昇率がさらに上がるというものだった。

 ……なんだよそれ、その称号俺が欲しいのだが……。



 ――テッテレー。



『特定条件を満たしましたので、称号【魔物の友】を獲得しました』



 どうやら俺の願いが届いたらしく、新たな称号【魔物の友】を手に入れた。

 効果は冒険者の友と似たもので、レベルアップ時にパラメーター上昇率の数値が通常値にプラスαされるというものらしい。



「こりゃ確実にチートだな、ははは……」



 これは俺の勘違いではないと思うのだが、クエックが仲間になったことで元々凄かったものが、さらに化け物並みになってしまった気がする。

 それでは皆さん、ご一緒に。“どうしてこうなった?”――。



(とにかく、これは他の連中に知られるわけにはいかんぞ……)



 レベルが上がる度に上昇値にプラスαされるとか、反則だろ。

 もしこの事がバレれば俺に安息の地は無くなると言っても過言ではない。

 ただでさえ、監視者に目を付けられて行動を監視されているこの状況下ですら不快なのに、これ以上プレイヤーに纏わりつかれたら溜まったもんじゃないぞ。



 ああそうそう、これは後になって知ったことなのだが、俺が感じているこの不快感は盗賊スキルの【気配感知】によるものだということが最近分かった。



 監視者と呼ばれる連中が「プレイヤーのプライバシーを侵害しているのではないか?」という旨をGMに送ってみたところ、「彼らが行っている監視行動はこのゲームの概念に則って行われているものであるため、運営側としては規約違反に当たらない」と返答があった。



 その際にさらに「ではこの不快感をどうすればいいのか?」と送ると、「その不快感は盗賊の【気配感知】が原因なので、安全な場所では【気配感知】を解いておくといいのでは?」と返ってきたため、この不快感の正体にたどり着くことができたのだ。



 確かに気配感知を解けば、嫌な視線などの直接的な不快感はだいぶ薄れることは確認できたが、それでも自分の行動を監視されているという間接的な不快感は拭えずにいた。

 誰だって、他の誰かに常に見られているのを感じながら生活するのは精神的にもかなり負担のかかるものだろう。



 だが運営側の意見としては正当な手順を踏んでの監視行為のため、摘発するのは難しいというのが正直な感想なのだろう。

 ストーカー被害に遭っているのに事件性が無いため動いてくれない警察に対し、イライラする被害者の気持ちがなんとなく理解できてしまった。



 まあとにかくだ。この問題はいずれ何とかするとして、今はクエックに残り二つの職業枠を取得してもらう事にした。

 基本的に俺ができないことを彼女にやってもらうというのを基本方針にするためまずは回復職を取らせよう。



 選択肢は【僧侶】か【治療師】の二つだ。

 この二つの職業での違いは、僧侶は味方の身体能力を上げたり、敵の攻撃を防いだりする魔法やスキルを覚えることができるが、回復魔法の回復量が少ない。

 一方治療師は、先ほど説明した二つの能力を覚えられない代わりに回復魔法の回復量が多い事とスキルなどの他の回復手段を覚えることができる。



 どちらを選択しても基本的に損はないが、回復を主軸に戦うならば治療師、味方の援護をしながら戦うならば僧侶という具合に、目的に応じて選ぶ必要がある。



「そうだな、こいつのパラメーター的には接近戦メインに戦ってもらうだろうから、自分や俺に援護魔法を掛けながら戦うスタイルの方がいいかもな。……お前は僧侶か治療師どっちがいい?」


「クエー?」


「だよな、聞いた俺が馬鹿だった」



 いくら強力な魔物とはいえ所詮こいつは鳥なのだ。

 自分の戦闘スタイルを客観的に捉えることなんてできるわけがない。いや、鳥如きにできてたまるものか!



 結局クエック自身が接近戦で戦うことを考慮し、俺は彼女に【僧侶】の職を取らせることにした。

 さて、残った枠はあと一つだが、今の俺にできないことは何だと言えば……。



「木工職人は……その羽でできるわけないよな?」


「クエー?」


「うん、無理だな。すまん、今のは忘れてくれ」



 物凄い我が儘を言うのであれば、彼女には木工職人か革職人のどちらかを取ってもらって、装備生産を手伝ってもらいたい。

 だが工房で魔物のクエックが出入りするのは現実的に無理だろうし、何よりあんな羽みたいなというか実際は羽なのだが、あれで細かい作業ができるわけがない。いや、できてたまるもの――コホン、失礼。



 となってくればだ。彼女の魔物としての特性を活かせる職業を選択すべきだろう。

 実質的に肉弾戦を得意とする【武闘家】や【蹴術士】がベストだと俺は考えた。



 魔物だからおそらく魔力が高い事は予想できるので【魔導師】や【錬金術師】なども考えたが、鳥如きに高度な魔法や錬金術はできないだろうと結論付け、この二つは最初から選択肢から除外している。

 ……鳥如きにできるわけがない、いや、できてたま――コホン、いい加減しつこいな。



 であれば、【武闘家】と【蹴術士】のどちらを修得させるべきか……その答えは後者だろう。

 以前見たクエックの戦い方は、嘴によるつつき攻撃と強力な蹴りによる打撃が主な攻撃手段だ。



 ならば拳がメインの攻撃手段となる【武闘家】よりも蹴りがメインの【蹴術士】の方がより彼女の蹴りの能力を高めてくれるのではと考えたのだ。

 ということで残り一つの枠も埋まり、ようやくクエックの能力確認が完了したのだが、一つ決めていなかった事があった。



「これから一緒に冒険するんだし、魔物名のクエックっていうのもな……よし」


「クー?」



 だがコイツの名前は見た瞬間に決まっていた。しかし、明らかにそれは雄の名前なのだ。

 その名も【スラッシュ】、名前の由来は額にある剣で斬りつけられたような痣があったからだ。



 他の候補があるとすれば、体毛の色が緑だから【グリーン】とか宝石のエメラルドにちなんで【エメル】とかか。

 いや、鳥如きにエメルなどという――コホン、しつこいね。



「クエック……クエ……クー……クーコ」


「クエッ!」


「よし、今日からお前はクーコだ。ちょっと安直な名付け方ではあるが、お前に【エメル】は似合わないからな」


「クエ?」



 こうして無事に(?)クエックの名前も決まり、次の目的地に旅立つ準備が整った。

 クエックだからクーコなんて本当に安直だが、シンプルイズベストっていう言葉もあるしな、ポチやたまよりかはマシだろう。

 そう自分に言い聞かせるように、肩を竦め苦笑いを浮かべる俺であった。






 ※今回の活動によるステータスの変化



 【プレイヤー名】ジューゴ・フォレスト



 【取得職業】


 【剣士レベル37】

 

  パラメーター上昇率 体力+228、力+160、物理防御+148、俊敏性+87、命中+68




 【鍛冶職人レベル35】


  パラメーター上昇率 体力+217、魔力+85、力+138、命中+52、賢さ+60、精神力+111、運+8




 【料理人レベル33】


  パラメーター上昇率 体力+165、魔力+107、力+72、命中+60、精神力+66




 【盗賊レベル31】


  パラメーター上昇率 体力+145、魔力+68、物理防御+85、俊敏性+142、命中+107、賢さ+67




 【魔導師レベル7】


  パラメーター上昇率 体力+14、魔力+47、命中+10、賢さ+34、精神力+27




 【鑑定士レベル8】


  パラメーター上昇率 体力+24、魔力+24、物理防御+24、命中+24、賢さ+24、精神力+24、運+2


        


 【各パラメーター】              【補正後(20%)】

 HP (体力)   848 → 881        → 1057

 MP (魔力)   341 → 401       → 481

 STR (力)    380              → 456(+82)

 VIT (物理防御) 248 → 269(+125)  → 323(+125)

 AGI (俊敏性)  238              → 286(+75)

 DEX (命中)   300 → 329(+48)   → 395(+48)

 INT (賢さ)   147 → 195        → 234

 MND (精神力) 195 → 238        → 286

 LUK (運)     28 → 30         → 36


 



 スキル:時間短縮、鍛冶の心得、十文字斬り、身体能力向上、縮地、気配感知、隠密、盗賊の心得、地竜斬、天空斬、魔法【ファイヤー、アイス】



 称号:勇猛なる者、武闘会の覇者、魔物の友 

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