第66話
「ということで、以上ハヤト選手のインタビューでしたー」
彼がそう締めくくると、会場中に割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こる。
俺がチョビマツのインタビューを受けた後、レイラとハヤトの戦いが執り行われたが、結果としては二人とも負けで終わった。
プロセスを重視するのなら二人とも大健闘をしたのだが、一歩及ばず途中で体力が尽きてしまったのだ。
全力を出し切った上での結果だったため、二人とも表情は清々しいものとなっている。
だがそれとは別に問題点があるとすれば俺だ。
二人が敗北してしまったことで、三人の中で唯一勝利を収めた俺の実力が浮き彫りになる形となってしまった。
この結果に何か嫌な予感を感じざるを得ないのは仕方ない事だろう。
「さぁー、それでは皆さんこれにて三人のデモンストレーションが終了しましたぁー。それではここで三人の結果を発表させていただきます」
そう言えばそんな内容のイベントだったな、戦うのに必死で忘れてたわ。
確か、戦いの内容によって評価ポイントが変わり、そのポイントに応じた報酬が支払われるという事だったな。
「まずは初戦を見事勝ち抜いたジューゴ・フォレスト選手のポイントは……なななんとぉぉぉー、15768ポイントだあぁぁぁぁぁぁ!!」
うん……まあそうなるよね……倒しちゃってるしね、相手をさ……。
その結果を受け会場中も大歓声を上げる。ぶっちゃけうるさいのだが、それに文句を言うほど俺は空気が読めない男ではない。
「続きまして、レイラ選手のポイントは……8699ポイント、ロックバードに敗れはしましたがこちらも高得点です」
確かに結果はどうであれ彼女の戦いはかなりの盛り上がりを見せていた。
これはこの場にいる誰もが納得のポイントだろう。
「最後にハヤト選手のポイントは……9268ポイント、彼もまた負けてしまいましたが、その奮闘ぶりは評価に値するものでした」
これも彼の戦いの内容に見合った評価ポイントだ。
なんせ、負けたとはいえマンティコアの脚の一本を切り落としたのだから。
それぞれ戦ったプレイヤーの結果が中央部に設置されたスクリーンに表示される。それと同時に再び会場中が歓声と拍手に包まれた。
「くっそぉー、やっぱジューゴには敵わなかったか」
「全力で戦ってこの結果だったのだからそれは悔いはないけど、あんたに負けたのはなんか悔しいわね」
そういいながら、恨みがましい目で俺に視線を送る。
……いやいやいや、俺はただのソロプレイヤーだからね? 最前線で戦ってる君たちとは見据えてる先が違いますから!?
「今回はたまたま勝てたってだけさ、一歩間違ったら二人みたいに負けてたしね」
そう言い訳すると、二人とも呆れた視線を向けてきたが、俺が顔をあさっての方向に向けることでそれを全力で無視した。
そうこうしているうちに司会進行役のチョビマツが説明のため口を開く。
「さて皆さん、三人の結果が発表され盛り上がっておりますが、ここでご説明させていただきます。今回のイベント【冒険者たちの武闘会】では、評価ポイントに応じた報酬が支払われることになっておりますが、公式サイトの情報では9999ポイント以下の報酬しか記載されておりません。10000ポイント以上獲得した場合の報酬が不明となっております。そして、今回10000ポイント以上獲得したプレイヤーが出ましたので運営の特別処置により今この場で発表させていただきます」
チョビマツがそう言い終わると同時に会場がざわつき出す。
それは俺も気になっていたことだったので、そのまま黙って彼の言葉を黙って待つ。
「それでは発表させていただきます。評価ポイント10000ポイント以上獲得したプレイヤーには報酬として賞金50万ウェンと職業書、そして蘇生アイテム【不死鳥の心臓】、さらに称号【武闘会の覇者】と記念品の首飾りが送られます」
「え?」
そう思わず言葉が漏れてしまった。
賞金はいいとして、職業書ってなんだよ聞いたことねえぞ。
蘇生アイテムとかゲームとかでよく出てくるけど、このFAOでどれだけの価値があるのかわからんな。
称号は別に問題ないとして、記念品の首飾りってなに? ただのお飾りってこと?
いろいろ分からない単語が出てきたため困惑している俺だったが、会場にいるプレイヤーも同じ心境なのか、怪訝な表情で首を傾げている。
「初めてお聞きになる単語も多々あり、皆さまが困惑するのも当然と思いますので、ご説明いたします。まず職業書ですが、こちらは任意の職業に就くことができるアイテムとなっており、現在の取得可能枠とは別に職業を獲得することができるアイテムです。例えば現在修得可能枠が三つだった場合、新たに四つ目を獲得しなければなりませんが、この職業書を使えば枠を獲得していない状態でも新たに職業を修得することができるアイテムなのです」
それを聞いた途端に困惑の色が浮かんでいた会場が驚愕の者へと変貌する。
このFAOでは職業のレベルによって強さが決まるため、修得している職業の数が多くなればなるほど強くなる。
新たに職業を増やしたい場合、特定の条件を満たさなければ修得できる枠が増えないためなかなか強くなることは難しい。
だがこの職業書を使えば新たに枠を獲得しなくても、新しい職に就くことができるという訳だ。
ちなみに先のキメイラとの戦いで新たに職業の枠が一つ増えたので、俺の場合だと新たに二つ職業を増やすことができるようになったみたいだ。
「続いて蘇生アイテム【不死鳥の心臓】ですが、こちらは死んだ人間を再び生き返らせることができるといった用途で使用するものではなく、NPCに対して使用するもので、効果は冒険者と同じように死んでしまっても再び蘇ることができるというアイテムとなっております」
なるほど、確かにFAOの場合死んでも再び蘇ることができるため、あまり蘇生アイテムというものはそれほど価値が高いものではない。
死んだ場合のペナルティは存在するものの、所持金の二割消失と最大二段階の職業レベルの低下というそれほど重くないものだ。
まあ人によっては重いと感じるのだろうが、掲示板や情報サイトを見る限りは比較的軽いペナルティだと言える。
一方このゲームの登場人物であるノンプレイヤーキャラクター、通称NPCは一度死ねば二度と蘇ることはない。
キャラクターによってはプレイヤー並みに強いNPCもいるし、特殊な能力を持っている者もいるため、彼らを救済する手段があるというのは実に心強い。
「最後に称号と記念品の首飾りですが、こちらはただのお飾りのものでございますので、特別な能力やステータス補正が掛かるといったものはございません」
ふむふむ、さすがにそこは記念品扱いにするという訳ね、そうじゃないとゲームバランスが変わってしまうからね。
ただそれを差し引いても、職業書だけでもかなりのプラスになるだろう。
なんせ職業枠が無条件で一つ増えるようなものだからな、まさかそんなアイテムがあるとは驚きだ。
もしこのゲームにPK行為があったら俺真っ先に狙われてた自信があるぞ……。
……まああの戦いを見せて挑んでくるプレイヤーがいるかという疑問が浮かんでくるが、その疑問は黙殺するとしよう。
こうして、10000ポイント以上の報酬の発表も終わり、今回の俺の役目も無事に果たすことができた。
だが、まだイベントは始まったばかりなので、余裕があれば他のモンスターにも挑戦してみたいなと思う。
後になってそんな余裕がなくなる事を、この時の俺はまだ考えていなかったのであった。
先に言っておく、“どうしてこうなった?”と――。
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