第六章 ダークエルフの村

第46話



 ――トン、テン、カン。



 今俺はいつもの工房、いつもの定位置の作業場でハンマー片手に鉄を叩いている。

 鉄と言ってもただの鉄ではございません。そう、お察しの通り【鋼合金】でございます。



 色々と紆余曲折あったものの、ようやく鋼合金を使った剣の作成に着手することにしたのだ。

 まず鋼合金を加工した手応えとしては、鉄と比べて加工自体容易な印象を受けた。

 だがしかし、そこには落とし穴があったことに俺はすぐに気づいたのだ。



 確かに加工自体は容易だった。そう“加工自体”は……。

 まあとりあえず俺が最初に作った剣を見てもらえばわかると思うので見せよう。これだ。




 【鋼合金で作られた剣のようなもの】



 その名の通り鋼合金によって剣の形に形成されたもの。

 剣の形になってはいるものの剣であって剣であらずな一品。



 攻撃力+28



 製作者:非公開   レア度:2.5等級(星二つ半)




 おわかりいただけただろうか? なんだか某恐怖映像番組のような語り口調になってしまったが、ご覧の通りの品が出来上がってしまったのだ。

 これでは【秀逸なシルバーソード】の方がまだ性能がいいので、そっちを使った方がマシという残念な結果になってしまっていた。



 だが剣でないと説明文にもあるのに、攻撃力は以前使っていた【卓越した鉄の剣】よりも高い。

 このことから鋼合金を使用して適切な加工方法で剣を製造することができれば、相当なものができるのではないかと俺は思っている。



 それと言い忘れたが、現在の曜日は水曜日だ。

 前回のログアウト以降日曜日から火曜日まで工房でひたすらハンマーを振るい続けており、時間数で言えば十五時間ほど経過しているが未だにまともな鋼の剣という完成品ができずにいた。

 まさかここまで鋼合金の作成に時間を取られるとは思ってもみなかった。先に色々やっておいて正解だったな……。



 ともかく鋼合金を使った剣の作成は、今日のログインを入れ四日目に突入していた。

 それだけ長くハンマーを振り回していれば、当然のことながら職業レベルも上がるというものだ。

 現在の俺の【鍛冶職人】のレベルは30代の大台に乗り、なんと32にまで上がっていた。新たなスキルは発現しなかったもののステータス補正の数値が確実に上がっていた。



 この四日で思ったことといえば、現実の世界でも汗水たらして働いているのにもかかわらず、なぜにゲームの世界でも同じような事を強いられているのだろうか?

 ふと気付けば俺はこの言葉を頭に思い描くことが多くなった。“どうしてこうなった?”と……。



 現実の世界が理不尽だらけなのは分かるが、いくら仮想現実だからってそういう所も同じにしなくていいだろうに……。

 俺はそんな事を考えながら次の加工方法を模索していたが、これといった加工法が見つからず完全に手詰まりの状態だ。



「気分転換にガッツさんが作ってくれた装備でも見てみるか……」



 これも言い忘れていた事だが、今日ログインするとガッツさんに依頼していた防具が完成したという報告をもらったため、俺はガッツさんの店に取りに行った。

 出来上がった防具はベルデビッグボアの鱗や皮を使用して作られた軽鎧で【ベルデボアシリーズ】という名の防具だった。

 俺は詳細を確認するためメニュー画面からベルデボアシリーズ一式をアイテム欄から確認していく。




 【ベルデボアスーツ】



 ベルデの森に生息するという【ベルデビッグボア】の素材を使用して作られたスーツ。

 軽鎧に属するため軽さや動きやすさを重視している。それでもちょっとやそっとの攻撃ではびくともしない。



 防御+13 俊敏性+10、力+5



 製作者:ガッツ(NPC)  レア度:3等級(星三つ)




 この他にもプレート、ベルト、ズボン、レギンス全てがベルデビッグボアの素材を使って作られていた。

 ちなみに他の防具はどんな感じなのかと言うと以下の通りだ。




 【ベルデボアプレート】:防御+35、俊敏性+15、力+7



 【ベルデボアベルト】:防御+27、俊敏性+8、命中+25、力+5



 【ベルデボアズボン】:防御+25、俊敏性+10、力+7



 【ベルデボアレギンス】:防御+25、俊敏性+20、命中+11、力+8

 



 補足情報だが、レア度は全て3等級だ。

 以上の情報を踏まえた上で、装備を変更するとこうなった。

 




 【装備品】



 シルバーソード

 ベルデボアスーツ

 ベルデボアプレート

 ベルデボアベルト

 ベルデボアズボン

 ベルデボアレギンス




 装備を変更したことでステータスの底上げが叶い、防御力と俊敏性、そして力が強化された。

 ガッツさんの話では、頭に装備するためのヘルムもあるらしいのだが、そうなると軽鎧に分類されず、重鎧と軽鎧の間の重さの装備になってしまうとのことだったので、今回ヘルムは作らなかったらしい。



 さらにガッツさんから重要な話を聞かされたのだが、なんとある一定のシリーズの装備を揃えると特定のスキルを獲得したり、ステータスに補正が掛かるとの事だ。

 今回作ってもらった【ベルデボア】シリーズをヘルムを加えて一式装備した場合、俊敏性が15%上昇するというステータス補正が掛かると聞いた。



 確かに戦闘において素早さは重要な要素ではあるが、ヘルムを装備したことによって動きやすさが無くなってしまうというデメリットも存在するため、今回はヘルムを装備することは見送った。



「おう、なかなか似合ってるじゃねえか、兄ちゃん」



 俺が新しい装備に着替えるとそれを見た親方がこっちに向かってきた。

 純粋に賞賛してくれる親方の言葉にむず痒さを感じながら、話題を鋼合金に変えた。



「親方は鋼合金を加工したことってあるのか?」


「ああ、あるにはあるが、かなり加工が難しいんだ。加工は問題ねえんだが、自分の思う通りのものにするのがすごく難しくてな、熟練の職人でも手を焼くほどのレベルだ」


「俺もここ数日挑戦してるんだけど、なかなか望んだものにならなくて今手詰まりなんだよな。だから気分転換にガッツさんが作ってくれた防具のチェックでもしようかと……」


「ふむ、そういう事ならあいつんところに聞きに行きゃあいい。鋼合金の加工に関しては俺よりもあいつの方が経験が豊富だからな。何かいいヒントでも貰えっかもしれねえぞ?」



 武闘会まで今日を入れてあと五日と迫っている。まだ職業レベルや戦術が不安なこの状態でいつまでも装備作成に時間を掛けている余裕はない。

 一縷の望みを掛け、俺は鋼合金の加工方法を教わるためガッツさんが経営する装備屋へと向かうことにした。

 







   ※今回の活動によるステータスの変化



 【プレイヤー名】ジューゴ・フォレスト



 【取得職業】


 【剣士レベル28】

 

  パラメーター上昇率 体力+174、力+115、物理防御+112、俊敏性+60、命中+50




 【鍛冶職人レベル32】


  パラメーター上昇率 体力+205、魔力+76、力+120、命中+46、賢さ+54、精神力+99、運+8




 【料理人レベル29】


  パラメーター上昇率 体力+149、魔力+91、力+64、命中+52、精神力+54




 【盗賊レベル22】


  パラメーター上昇率 体力+100、魔力+50、物理防御+58、俊敏性+106、命中+80、賢さ+49


        


 【各パラメーター】            【補正後(10%)】

 HP (体力)   666 → 716      → 788

 MP (魔力)   259 → 287     → 316

 STR (力)    281 → 309(+62) → 340(+62)

 VIT (物理防御) 182 →          → 200(+125)

 AGI (俊敏性)  175 →          → 193(+63)

 DEX (命中)   215 → 236(+36) → 260(+36)

 INT (賢さ)    85 → 113      → 124

 MND (精神力) 128 → 163      → 179

 LUK (運)     26 → 28       → 31


 



 スキル:時間短縮、鍛冶の心得、十文字斬り、身体能力向上、縮地、気配感知、隠密、盗賊の心得



 称号:勇ましき者 

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