第29話



 ――ドンドンドン。



 木造の掘っ立て小屋のドアを三回叩いてからしばらくして小屋の中にいた人物が出てきた。

 見た目は身長が百六十センチ後半の上背に立派な長い顎髭を蓄えた五十代くらいの男性だった。

 俺たちの姿を認めると怪訝な表情を浮かべるも用向きを聞いてきた。



 「兄ちゃんたち一体ここに何の用だ?」


 「お騒がせして申し訳ありません。俺はジューゴ・フォレストというものでこっちはカエデとおっぱ――もといアカネという者なのですが、街の北にある鉱山で鉄が取れるという事を聞いてこちらにやって来たところ、小屋を発見したのでこの辺りの人であれば何か知っていると思い訪ねてきました」


 「そうかい、それはわざわざご苦労な事だがタイミングが悪かったな。今は鉱山の出入りを禁止してんだよ」


 「詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?」



 小屋の中に入れてもらい詳しく男から話を聞いたところ、なんでも数週間前から鉱山に強大なモンスターが棲みついてしまい採掘作業ができていないらしい。

 モンスターが現れるまでここはそれなりに作業員もいて多少の賑わいを見せていたらしいのだが、モンスターが鉱山に出るようになってからは、残った作業員は今いる男一人になってしまったそうだ。



 「モンスターさえいなくなれば、すぐにでも作業を再開できるのによ。あの忌々しいモンスター野郎め!」


 「そのような情報は街の方には届いていなかったのですが?」


 「元々この鉱山は長年採掘し続けてきただけに残りの鉱石の数がそれほど多くねえ。地質学者の話だと数年後には鉱石を採掘できなくなるってぇ話だそうだ。そのことを街に報告してモンスターを討伐してもらうより他の採掘場に行った方が早いって判断した奴がほとんどだったからな。掘りつくしてしまった鉱山に棲みつくモンスターを討伐したところでどの道この鉱山は数年後には閉鎖されることになるだろう」



 なるほどそういう事になっていたのか。

 だがそれならモンスター云々関係なく街に報告すべきじゃないのかな?

 鉱山の鉱石が取れなくなるとかっていう情報は街にとっても俺たちプレイヤーにとっても重要な事だと思うのだが?

 



 「そんなことになってたんですね、親方も知らなかったわけだ」


 「親方? ひょっとして兄ちゃんたち市場の先にある工房の髭を生やした男から話を聞いて来たのか?」


 「そうですが、親方を知っているのですか?」


 「知ってるも何もアイツは俺の弟だ」


 「そうだったのですか。言われてみれば確かにどことなく親方に似てますね」



 俺がそう言うと「ワシの方がアイツよりも男前だわ!」と返してきたが、実際他人である俺からすれば違いは全く分からない。

 二人とも長い髭を生やしてるし、背も低いし、お腹もポッコリしてるし、典型的なおっさんだぞどっちも。

 そう言えば親方も俺のことを“兄ちゃん”って呼んでたな、そこは兄弟で同じといった所か……。



 閑話休題、本題に戻るとしよう。

 とにかく鉱山に棲みついたモンスターをどうにかしなければ採掘することはできない、これが問題となっている事だ。

 RPGではお決まりのパターンではあるが果たしてどうしたものか?

 親方のお兄さん、いやこの呼び方だと若いイメージがあるから仮に“棟梁”と呼ぶことにしよう。

 本当なら親方と呼びたいのだが、それはもう工房の親方に使っているのでそれとの差別化を図るためここは敢えて“棟梁”と呼ぶ。



 「それで棟梁、鉱山に棲みついたっていうモンスターはどんなやつなんだ?」


 「棟梁? 確かにここでは責任者だったが、棟梁……棟梁か……ふふっ」



 どうやらまんざらでもなさそうなので敢えて突っ込まないが、俺が話の先を促すと話し始めた。

 棟梁曰く、岩に顔のある岩石のモンスターで転がって攻撃してきたらしい。

 一瞬某有名RPGホニャララクエストに出てくるば〇だん岩を想像したがそれに近いモンスターのようだ。



 「そのモンスターって爆発とかはしないよな?」


 「爆発? はははっ、そんなことされたら鉱山が崩壊しちまうよ」



 思わずタメ口になってしまったが、大事な事だから聞いておく必要があった。

 さて、どうしたものか……。



 「二人ともどうする?」



 俺は今回の同行者でもあるカエデさんとアカネに相談した。

 流石に二人に断りもなしに次の行動を決めるわけにもいかないからな。

 二人ともお互いに顔を見合し、一つ頷くとカエデさんが俺に返答する。



 「今のままでは鉱石が取れない状況を打破することはできない。そのモンスターがどれくらいの強さか未知である以上誰かが調べないといけないだろう。

 私たち三人で鉱山に入ってモンスターの生態を調査するというのはどうだろう? あわよくばそのまま討伐できればいいが無理なら街のギルドに報告してクエストを出してもらうことにしよう。それでどうだろう?」



 確かにこのまま手ぶらで引き返してギルドにこのことを報告したとしてもクエストが発注され、そのクエストを他のプレイヤーが受注し目的地にまで到着、その後モンスター討伐をしてもと来た道を引き返すとなれば相当な時間が掛かってしまうだろう。

 であれば今現地にいる俺たちで先行調査隊としてモンスターの現状を調査し、討伐できるのならばそうしてしまった方が時間効率もいい。

 幸いというべきか現状デスペナを食らったとしても全ての職業のレベルが1しか下がらない。



 「棟梁、俺たちはこれから鉱山に入って棲みついたモンスターを調査してきます」


 「正気か? 言っておくが命の保証なんてどこにもねえんだぞ?」


 「いずれ誰かがそのモンスターの被害にあうかも知れません、その前に調査しておく必要があります」


 「止めても無駄みてえだな、わかった行ってこい!」



 こうして俺たちは鉱山に棲みついたとされるモンスターの生態調査に向かうことにした。








 「鉱山っていうだけあってやっぱこういう雰囲気なんだな」



 俺たちは現在作業員が掘っていた坑道を突き進んでいた。

 周りの岩が崩れてこないように木材で岩肌を補強しており地面にはトロッコを走らせるための線路が敷いてある。

 まさにRPGなどでよく登場する鉱山といった雰囲気を醸し出している。



 「例のモンスター以外はどうやらいないみたいだな」


 「それなら楽に見つけられそうね」



 カエデさんとアカネの会話をBGMに進んでいると開けた場所に出た。

 そこはどうやら蜘蛛の巣の如く張り巡らされている坑道の中心部分、詰まるところ交差点といった場所のようで今まで通ってきた所よりも広々としていた。



 「しぃー、カエデ、ジューゴ静かに、何かいるみたい」


 「棟梁の言ってたモンスターか?」


 「アカネ、ジューゴ君気を付けて進むんだ」



 確かにアカネの言った通り気配察知を持っていない俺ですら何かいる雰囲気を肌で感じ取れるほどどんよりとした空気が漂っている。

 そして、その空気をまき散らしている原因が姿を現した。



 「コイツが岩のモンスターってやつか? なんだコイツの顔は?」


 「うえーなんかいやらしい顔つきだなコイツ」


 「確かに下品な顔つきだ」



 俺たち三人が口を揃えて言うほど、現れた岩のモンスターの顔つきは悪かった。

 吊り上がった目じりに三日月いや半月というのが正確であろう口はいやらしい笑みを湛えておりとてもじゃないがお友達になれるような顔つきではなかった。

 名前表示を確認したところ【ロックフェルス】という名前が表示される。ロックは岩だがフェルスってなんだろうか?

 そんな疑問はさておいて、人間の顔が付いているのならもしかしたら会話できるんじゃないかと思い俺はその奇妙な生物にコンタクトを試みた。



 「あーそこの岩くん、すまないがちょっといいだろうか?」


 「……」


 「この鉱山に最近棲みついたモンスターがいるらしいのだがそれは君かな?」


 「……」


 「ジューゴ、いくら人間の顔だからってモンスターが喋るわけがないだ――」


 「だぁぁれが下品な顔つきやっちゅうねん! こんな色男捕まえといてよお言うわ姉ちゃんたち」


 「「「……」」」



 その瞬間その場を静寂が支配する。

 一瞬何が起こったのか分からなかったがそれを頭が理解した時全員が驚きの声を上げる。



 「ななな、も、モンスターが喋った!!」


 「マジかよこんなことあるのか?」


 「実際あるのだからこれはこれで現実として受け止めるべきではないかな?」



 鉱山にやってきていきなりモンスター調査に赴いて現場に来てみたら関西弁を喋る人面岩に出くわしてしまった。

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