第28話
カエデさんとおっぱいオバケことアカネと共に俺たちは北にある鉱山に向かっていた。
オラクタリア大草原を北上しながらモンスターとエンカウントする度にそいつらを蹂躙していく。
俺一人でも勝つのに苦労しない相手を三人ともなれば、余裕のよっちゃんってやつだぜ。
大草原エリアを歩いている道中、アカネを先頭に5メートルほど後ろの距離から俺とカエデさんが追従する陣形で歩いている時不意にカエデさんが話しかけてきた。
「ジューゴ君、こういうことをいきなり言うのはなんか変かもしれないが、その、ありがとう」
「え? 突然なんですか?」
「いや、実は君からアカネの事をどう思っているか聞くまでは君がアカネの事を嫌っているんじゃないかって思ってたんだよ。だからアカネが君に殴りかかっていったときは正直焦った。あれでGMに悪質行為として報告されたらもうアカネと一緒にゲームできなくなるんじゃないかと。だから君の口からアカネの事を嫌っていないってわかった時ホッとした」
そう言いながらカエデさんは本当に安心した顔を浮かべた。
どうやら俺がGMに悪質プレイヤーとしてアカネを報告し、ペナルティでアカウント消去されてしまうんじゃないかと心配していたらしい。
確かにアカネのしたことは実際やられたら腹が立つし許されることではないだろう。
だがどういう形であれ彼女が俺を追いかけ回す原因を作ったのは俺にも責任の一端がないわけではない。
俺はあの時用事があるからと有無を言わせず彼女から離れようとした。
もう少し相手のことを考えるのならば、「答えたくないからごめん」とか「聞かないでくれると助かる」とか言えたはずだ。
にも関わらず何も答えずに一方的にアカネから離れたのは俺の失態と言えなくもない。
まあその後周りのプレイヤーを巻き込んで俺を捕縛しようとした時は流石にイラっと来たが、今となっては笑い話の一つくらいの感情でしかなかった。
だが俺がアカネを許した主な理由としてはやはりカエデさんの存在が大きい。
一宿の恩があるカエデさんの親友であるアカネをこのゲームから追い出してしまったら、恩を仇で返すことになる。
それに男たるもの女がしたことをネチネチといつまでも蒸し返すのははっきり言って女々しいことこの上ない。
俺は金色のボンバーみたく女々しくて辛くはないのだ。
俺が許すことでカエデさんがこのゲームを楽しめるのなら俺の憤りなど吐き捨てようじゃないか。
「確かに最初はイラっとしましたけど、いつまでもそれを引きずるなんてなんか子供っぽいし、何よりカエデさんの親友を俺がこのゲームから追い出すことになったらカエデさんに合わせる顔がないですから」
「ジューゴ君、君はとても優しい人なんだね」
「そんなんじゃないですよ。 ただ俺は誰かを恨んだり怒ったりしているよりも、自分の好きなことをしている方が充実した日々を送れる。 そう思っているだけです。人の人生なんて長いようで意外と短いんですから……」
実際人の人生なんてよく言うがあっという間だ。
一生が80年として日数で換算すると約29200日しかない、30000日を切っているのだ。
その短い人生の中で誰かのために振り回されるなんて無駄だとは思わないだろうか? 俺はそう思う。
だからこそ誰かのことを考えるよりも自分のために人生を送った方が無駄なく人生を謳歌できるだろう。
「ところで今思ったんですが、あの時俺がアイツの攻撃を食らってたらPK行為と見なされてたんでしょうか?」
「あのラリアットかい? さてどうだろう。PK行為の具体的な判定基準は発表されてないからね。こうすればPK行為になるがこれはセーフっていうものが曖昧なんだよ。そういうシステム的なもので討論されてるのは掲示板でもよく見るけど詳しいことはまだわかってないみたいだよ」
「ちょっと見てみますね」
そう言って俺はメニュー画面から掲示板に接続しPK行為についての情報を調べた。
その結果いろいろとわかったので確認していこう。
まず基本的にこのFAOではフレンドリーファイアつまり味方への直接攻撃は有効になっている。
だが致命傷に至るほどの攻撃を与えようとするとセキュリティーシステムが発動し、その攻撃を無効化する。
システムに引っかからない程度の攻撃例えば頭をはたくやほっぺを抓るといった行為はこのシステムには引っかからないようだ。
その反面致命傷にならない攻撃を続けて体力を減らし止めを刺すという行為も当然考えられるが、頭をはたいたりほっぺを抓った程度では痛みはあるがダメージはほとんどないためこれについては問題ない。
掲示板の情報ではPK行為ができるゲームもありプレイヤーから所持品を奪い取るといったユーザーもいるらしいが、このFAOでは所持品を奪い取る目的でPK行為をしてもPKした相手から所持品を奪い取ることはできない。理由としては3つある。
一つ目はこのFAOではアイテムは全てデータ化されているが、そのデータの中にプレイヤーのアカウントIDが組み込まれているためそのIDが合致しないと所持品を収納空間に入れることができない。
仮に奪ったとしても時間が経てば元の持ち主の収納空間に戻ってしまう。
ちなみに自分のアイテムを相手に与える場合、このIDの記述部分が一旦白紙となり新たに受け取った相手のIDに書き換わることでアイテムを贈与することができるようだ。
二つ目はPKをした相手から所持品自体がドロップしない。
モンスターを倒すとドロップ品としてアイテムやお金などが手に入るが、プレイヤーを倒してもそもそもアイテム自体がドロップしないのだ。
そして最後の三つ目はこのFAOにはPKの概念が存在しない。
プレイヤー自体を攻撃するフレンドリーファイアは有効だがそれも致命傷になりうる場合攻撃は無力化されるからだ。
モンスタートレインを使ったMPKなどの場合だと直接攻撃する対象がモンスターであるためプレイヤーを倒すことはできるが、全てのプレイヤーはGMの監視下にあるためいくら巧妙に仕掛けても100%バレてしまう。
神はすべてを見ておられるのだ的なものでGMはすべてを監視しているのだ。
「てな感じですね。 以上の情報を踏まえるとアイツのラリアットを食らってもPK行為として認識されないかもしれませんね。まあアイツが物凄い馬鹿力でラリアットすれば俺に致命傷を与えられるかもしれませんが……」
「相手があのアカネだから否定できないのが悲しいところだね……」
そう言ってお互い苦笑いを浮かべているとアカネが何かを見つけたのかこちらに向かって声を掛けてきた。
「おーい、この先にモンスターがいるみたいだちょっと来てくれー」
アカネが俺たちに声を掛けたのをきっかけにカエデさんとの話はそれで終わったものの彼女の本音を聞けた気がして少し嬉しかった。
その後もアカネがモンスターを先んじて見つけていき三人で討伐するという流れのまま俺たちは大草原を抜けることができた。
アカネ本人に聞いてはいないがおそらく敵の気配を察知する類のスキルを修得しているのだろうことは予想できた。
就いている職業としては盗賊か狩人といったところかな?
とりあえずオラクタリア大草原を抜けた俺たちは現在草原と鉱山の麓部分と思われる森入り口の境目にいた。
ベルデの森ほどではないが、それなりの数の木が覆い茂り俺たちの視界を遮る。
覚悟を決めた俺たちは森の中に足を踏み入れたが、入ってすぐの事突如そいつは現れた。
それは見覚えのあるモンスターだった。
「グリズリーベアー……ベルデの森にしか出てこないんじゃなかったのかよ」
そう、かつてベルデの森に初めて訪れた際、ベルデウルフの群れと戦っていた最中に乱入してきたあのグリズリーベアーだった。
あの時はベルデウルフの対処に追われて直接対決することはなかったが果たしてどれほどの力を持っているのだろうか?
「はあああああああ!!」
相手の出方を窺っているとアカネが気合の咆哮と共にベアーに向かって行く。
お前はどんだけ猪突猛進なんだとツッコミたいが相手の強さが未知数のため迂闊に手を出すのは得策でないと考え俺はアカネに任せてみることにした。
決してアイツを囮にしたわけじゃないぞ、うん……多分。
「アカネ気を付けるんだぞ」
カエデさんも一言アカネにそう注意を呼び掛けるがアカネの性格上それを素直に聞くとは思えない。
まあなんかあったら俺とカエデさんで救出すればいいだけだし今は見守ろう。
――BWOOOOOOOOOOO。
腹の底に響くような咆哮を周囲に放つと牙を剥き出しにし威嚇する。
これにはアカネも一旦立ち止まり様子を見るほかないようでお互い睨み合っている。
だがその均衡も長くは続かなかった。
「はっ」
短い気合の声と共に手にした剣を横に薙ぎ払いクマに攻撃を仕掛けるアカネだったが敵もさるもので彼女の攻撃を躱す。
あの巨体から出せるとはとても信じられないほどの素早い動きで回避行動を取ったベアーは反撃とばかりに前足をアカネに振り上げる。
だが彼女とてそれなりの戦いの経験を積んできているのだろう、直撃を避けることに成功する。
それでもあのスピードから繰り出される攻撃は当たれば間違いなくタダでは済まないのは明白だ。
「カエデさん、俺たちも行くぞ」
「ああ」
そう短く返事をしたカエデさんと共にアカネに協力するため一気に地面を蹴る。
二人と一定の距離を取りつつ、ベアーと対峙する。
敵が三人に増えたことにより、ベアーの警戒心が増していくのが分かる。
だがそれは逆を言えばそれだけ俺たちを脅威と見ているが故だろう。
「はああ!」
俺はアカネ同様ベアーの懐に飛び込むと下段に構えた剣を居合抜きの要領で逆袈裟斬りに切り上げた。
俊敏な動きができるベアーとてこれだけ接近して素早く攻撃すれば避けられまい。
予想した通り俺が放った一閃はベアーの肩を切り裂いたが致命傷には至っていない。
持ち前の素早い動きで急所となる部分を避け致命傷を防いだのだ。
「くそ、これも避けるのか」
「ジューゴ君、アカネ、少しの間奴の気を引いてくれ」
「あれをやる気ねカエデ」
「カエデさん一体何を?」
今は決め手に欠ける以上カエデさんがやろうとしてい事がこの状況を一変させるものであると信じ、俺はベアーの気を引くために大きな動きでベアーを牽制する。
アカネもそれに倣い俺とは逆の方向から剣での攻撃を仕掛けている。
そんな状態が三十秒ほど続いた後カエデさんが俺たちに向かって叫んだ。
「二人ともベアーから離れるんだ!」
そう言うと俺とアカネはすぐさまベアーから距離を取った。
そのすぐあとカエデさんのとっておきが炸裂する。
「くらえ、【ファイアージャベリン】!!」
そうカエデさんが呪文を唱えると一本の炎で模られた槍が顕現する。
そして、その槍が一直線にベアーめがけて襲い掛かった。
クマの急所と言われている眉間部分に炎の槍が突き刺さると瞬く間にベアーの体が炎に包まれる。
苦しそうな呻き声を上げながら、しばらく経つとそこには上手に焼けました的にこんがりと焼けたベアーの変わり果てた姿があった。
「「……」」
あまりの威力に俺とアカネは絶句し、こんがりとおいしそう――もとい死骸となったベアーを眺める。
この時なぜか俺は無意識に両手を合わせ黙祷していた。
そして、俺は思った。あの人を怒らせる真似はよそうと――。
その後しばらく森を突き進み襲ってくる……いやアカネが襲いに行っているモンスターを一緒になって倒しながら進んで行くと、鉱山の山肌に木材で補強された炭鉱のような入り口が姿を現す。
そのすぐ近くに木造の掘っ立て小屋のような建物を発見したので人がいると思いそこに行ってみることにした。
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