(三)-2

「あんた、今度こそ絶対に金賞取りなさいよ」

 寝ぼけ声ではなかった。きっと僕に何か言いたいことがあり、ウトウトしつつも眠気を押さえてこの時を待っていたのだろう。

「あんたはピアニストにならなきゃいけないの」

 何を勝手なことを。僕は生まれて一度もそんなこと望んだことないのに。

「あんたは私の希望なの。私はね、ピアニストになりたかったのよ」

 これで何度目だろう。酔っているとよくそう言っていた。だったら何なのだ。


(続く)

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