263 マルクカッターは丸太砕く
「フハハハハ! これで終わりだ!」
ディールのバカ笑いと共に最後の丸太が四等分の薪へと変わった。これで一時間以上続いた作業は終了だ。
ディールは薪をアイテムバッグに入れると、広場の片隅で薪割りをしていた俺へと近づく。そして俺が適当に並べた薪の横でアイテムバッグの口を下に向け、ドカドカと薪を放り出しながら話しかけてきた。
「子供よ、ご苦労だったな! どうだ、風魔法の方はうまくいったか?」
「はい、なんとか三枚まで同時に出せるようになりました」
「フハハ! ウソはいかんぞ子供? この俺をもってしても刃を三枚出すには五年の歳月がかかったのだからな!」
「本当ですよ。ほら」
俺は
「……フ、フハハハ! さすがは俺の天才的指導力と言ったところだな! それに俺は五つまで出せるしな! 今後も俺の領域を目指し励むがいいフハーッハッハ!」
なんだか負け惜しみのように聞こえなくもないけれど、素直に五つはすごいと思う。しかしニコラから冷めた声の念話が届いた。
『指導って言ったって、向こうでひたすらフハハハ笑いながら丸太を割ってただけだと思うんですけど』
『まぁ確かにアドバイスは貰ってないけどさ。でもディールを手本にして練習したら上手くいったしな』
見て技を盗むというヤツだ。だからまぁ、間違いではない……のかな?
十字に切る方は、最初は二つの刃を十字に重ねるようにイメージして上手くいかなかったのが、最初から十字をイメージすればいいんじゃないかと考えを改めたところ、あっさりと成功した。
しかし二枚同時にウィンドエッジを出す方は上手くできなかった。二つ同時に風の刃を作ろうとマナを注いでも、マナの濃度にムラが出来て威力や速度が安定しないのだ。
偏ってしまったマナの影響で、丸太をスパッと切りたいのに丸太が砕け散ったりもした。
かつて前世の俺は「デビ◯カッターは岩砕くって何だよ、岩を切るじゃないのかよ」と、したり顔でツッコミを入れていたけれど、ようやく答えを得た気分だったよ。カッターでも岩は砕けるし、何もおかしくなかった。きっとデビ◯チョップはパンチ力にも、俺では届かなかった深淵に真実が眠っていることなのだろう。
それでしばらく手を休めてディールの作業を見学していたのだが、よく見てみると腕を掲げた瞬間、各指の先からそれぞれ風属性のマナが具現化させているのが見えた。
さっそくそれをマネて、チョキの形で人差し指と中指それぞれからウィンドエッジを出すようにイメージしてみたところ、なんとあっさり均等にマナを注ぐことに成功した。そこから更に指を増やして三枚までは上手くいくようになった。
それでとりあえず三枚で慣らしているうちに丸太が無くなってしまったのだけれど、もう少し練習する時間があれば刃の数を増やすことはできたと思う。
でもたくさん刃の数を増やしたところで、丸太を切る以外には役に立たなそうな技なんだよね。刃の数を増やすよりは、あまり刃の数を増やさずに威力と命中精度を高めたほうがいい気がする。
それでも自称天才でギフト持ちのディールが五年かかったと言う三枚刃を一時間ほどで習得できたことは正直嬉しい。そんな達成感を味わいつつディールと薪の整頓をしていると、森で斧を振るっていた男たちも広場の方へと戻ってきた。
先頭を歩いているのはノーウェルだ。ノーウェルは額に浮かべた汗をタオルで拭いながら俺に向かって手を挙げた。
「やあ、マルク。君も手伝ってくれたんだな。ありがとう」
「うん。お陰でいい魔法の練習になったよ」
「はは、相変わらずだな。この後は少し余興があるから、もうしばらくゆっくりしていくといい」
「え~、なになに~? ノーウェルおじちゃん、何があるの~?」
ニコラが白々しく問いかけるが、ノーウェルははぐらかすだけだ。
「内緒だよ。今はトリスたちが準備してるから、後のお楽しみだ」
そう言えばいつの間にかトリスとタイランとレギオンシープがこの場から居なくなってるね。しっかりお手伝いもしたし、堂々とゴチになります。
「ええー、ニコラに教えてよ~。もうっ、おじちゃんのいじわる!」
「ははは、内緒だ内緒」
ニコラがぷく~と頬を膨らますとノーウェルが困ったように眉を下げながら笑いかけ、他のおっさんズもニコラを微笑ましそうに見つめては口元をニヤけさせている。みなさん、騙されてますよ。
「おっと、それじゃあ今のうちに薪を片付けるかな」
話を変えるようにノーウェルは懐から紐を取り出すと、手慣れた様子で薪を束ね始めた。おっさんズもそれを続いて手伝い、散乱していた薪はあっという間に綺麗に整頓され、大きな薪の山ができあがった。
「ノーウェルさん。この薪はこの後どうするの?」
「このままじゃ使えないからな。村の備蓄庫で寝かして来年の冬に使うんだ」
「ああ、そっか。すぐには使えないんだったね」
伐採してすぐの薪には多くの水分が含まれている。乾燥させて水分を飛ばさないと燃料としては使えないのだ。
「そうだ、乾燥させないとな。まあ今年は去年伐採した分の薪が備蓄庫にあるから今年の冬は問題ない――」
するとここでディールから爆弾発言が飛び出した。
「フハハハ! 備蓄など無いぞ!」
「――え?」
俺たち全員が目を丸く見開きディールを凝視した。皆の視線を独占したディールは胸を張りながら答える。
「今年はセリーヌが戻ってきたからな! 二度と村から出たいと思わせない為にも、例年以上に豪華絢爛な収穫祭を開く必要があったのだ! その資金を集めるために、収穫祭前にきた行商人に全て売っ払ってやったわ! フハハハハッ!」
それを聞いた戦斧男が口から唾を飛ばしながらディールに怒鳴る。
「んなっ!? おまっ、バカか!? 今年は予算や資材がやけに多いし、祭壇も豪華だと思っていたけどよお~! どうすんだバカディール!」
「フハハ! 俺に考えはある! この俺が毎日薪に風魔法で風を当ててやるのだ。そうすれば本格的に冬が訪れる前に薪は完成する!」
「ああ!? それって本当に大丈夫なのか……?」
「フハハハハ! この天才を信じろ!」
「……はぁ~。信用できねえ……」
ディールの一片の曇りのない自信溢れる表情を見て、それでも戦斧男が頭を抱えて大きくため息を吐いた。するとここまで黙っていたノーウェルが静かに口を開いた。
「ちょっといいか。マルク、君は以前フォレストファンガスの特殊個体を倒しただろう?」
「おう、俺も聞いたぞ。やるじゃねえか、さすがセリーヌの弟子だな!」
「フハハ! さすがは我が弟子よ!」
「お前は黙ってろい!」
「ぐぬぅ……」
戦斧男に怒鳴られてディールが口を噤む。それを見たノーウェルが話を続ける。
「奴が闇魔法を得意としていたのは、殺されかけた私が身をもって体験している。それならマルク、君が奴のエーテルを得たのなら、闇魔法も随分得意になってるんじゃないか?」
「確かにアレを倒して以来、闇魔法は得意になったと思うけど……」
グプル酒造りはとても捗るようになった。やっぱり魔石の色が黒なだけあって、闇魔法にブーストがかかったのかなとは思ってはいたけれど。
「それならドレインであの薪から水を吸収してみてくれないか? 君ならきっと使えるはずだ」
え? ドレインっていうと体力吸収したりする、いかにも闇魔法なアレですよね?
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