171 似ている双子

 セリーヌは俺の隣に座るエステルを見ながら声を上げた。


「あら? あなたはもしかしてエステル?」


「そうだよ、セリーヌ久しぶり!」


 エステルは大岩から飛び降りるとセリーヌの元へと走っていった。俺もそろりそろりと大岩から降りてそれに続く。


「あらあら~。随分と背が伸びたのね~」


「セリーヌは三年くらい戻ってこなかったじゃない。そりゃあボクだって成長するよ!」


 三年か。セリーヌが俺たちと知り合った時くらいからかな。どうやらそれまでは度々戻っていた様だ。


『お兄ちゃん、また新しい美少女と知り合ったんですか? しかもボクっ娘!? いい仕事してますねえ』


『そんな仕事はないからね』


「そっちの子はマルクの妹になるのかな?」


 エステルがセリーヌの隣に立つニコラに声をかけた。


「うん! 双子の妹のニコラだよ! エステルお姉ちゃんよろしくね!」


 いつものようにキラキラの笑顔で挨拶をするニコラを見て、エステルが納得するように頷く。


「ああ、なるほど双子なのか。道理でよく似ていると思った。よろしく、ボクはエステルだよ」


 俺とニコラが似てるって? そんなの初めて言われたんですけど。そのことに少し驚いていると、エステルとセリーヌが会話を再開したタイミングで念話が届く。


『お兄ちゃん、どうやらエステルは只者じゃないようですね。洞察力が鋭いんでしょうか、姿形にとらわれずに気配とか魔力といった私たちの類似点を感じ取っているみたいですよ。クッ、これだけ勘がいいとセクハラも一苦労しそうですね……』


 そう言いながらニコラが汗を拭う仕草をした。俺としてはセクハラはないに越したことはないと思うので別に構わないです。


 それより珍しく似てないと言われなかったと思ったら、そんなオチがついていたことが少し残念だ。いつもやたらと似てないと言われるから気になるだけで、別にニコラに似たいわけじゃないけどね。



 それからしばらくの間、セリーヌとエステルは思い出話に花を咲かせていた。どうやらエステルはセリーヌに憧れているらしく、セリーヌみたいな冒険者になりたいと言いながら目を輝かせている。俺と話していたときよりは月明かりの雰囲気もあってか大人っぽく感じたが、今は人間の15歳相応に見えるね。


「――ああ、ごめんね。ちょっと長話をしすぎたよ」


 話し込んでいたエステルがハッと俺とニコラに振り返ると、申し訳なさそうに頬をかく。


「ううん、久しぶりの再会なんだし、僕らのことは気にしないで」


「ニコラも平気だよ!」


 そこでセリーヌがポンと手を合わせて一声。


「まぁこんな所で立ち話もなんだし、今日はこの辺で終わりにしましょ? エステルが良ければ明日ウチに遊びに来てもいいわよ」


「本当!? 絶対に行くね!」


 喜色を満面に浮かべたエステルがセリーヌの手をぎゅっと握ると、セリーヌは優しげな顔をしながら空いた方の手でエステルの頭をポンポンと撫でた。エステルは頭を撫でられ、少し恥ずかしそうにはにかんだ笑顔を見せる。


『おやおや~、ちょっと百合百合しくないですか? お兄ちゃんNTR耐性はあります? CDを真っ二つにしないでくださいよ?』


『何のCDを割ってどこに送りつけるんだよ……』


『丁度ここはハーフエルフの村ですし、送り先はここでもいいのでは?』


『おい、それ以上は止めろ』



 ――その後、別れの挨拶を済ませ森の中に入っていくエステルを見送った。


 何度もこちらに振り返りながら手を振るエステルを見ていると、緊急避難のためだったとはいえ、セリーヌが村に帰れたのは悪いことじゃなかったなと思う。そして同時に集落に残したデリカのことが気になってきた。


「それじゃ私たちも帰りましょうか~」


 帰路を歩き始めたセリーヌの背中に声をかける。


「セリーヌ。明日の朝、また共鳴石でデリカに連絡していい?」


「マルクが魔力を消費しても平気なら構わないわよ~。別に使ったら壊れるものじゃないしね、多分」


「そうなんだ。それじゃ使わせてもらうね」


『お兄ちゃんそういうところはマメですよね。釣った魚に餌をやるのはいいことだと思います』


『釣ったとか何いってんの。友達なら普通だろう?』


『あー、はい。そうでしたねー』


 こういうのを恋愛脳って言うんですかね。ニコラの気のない返事にため息を吐きながら、セリーヌの後に続いて家へと戻った。



 ◇◇◇



 セリーヌの実家に到着すると既にエクレインは寝ているようで、家の中はひっそりと静まり返っていた。


「さてと、それじゃさっそく寝ましょうか。とは言っても、あの母さんがベッドメイクなんかしてるわけないし……」


 セリーヌが諦め顔で呟きながらエクレインの寝室の隣の部屋へと入る。そこにはシーツもなにも敷かれていない木のベッドがひとつ置かれているだけだった。元々セリーヌの部屋なんだろうが、私物らしきものは何も置かれていない。


「やっぱりね~。まぁいつ帰ってもこんなかんじだったし、今更だけどね。たまに掃除してくれて埃がないだけでもありがたいわ」


 セリーヌが腰に手をあてながら部屋を見回す。


「……でもさすがにこのベッドじゃ三人は寝れないわよねえ。床に敷布団を敷いて寝ましょっか。マルク、ベッドを片付けてくれる?」


 それが一番手っ取り早いだろう。俺としても異論がない。ベッドをアイテムボックスに仕舞うと、随分と広くなった部屋の真ん中に野宿で使用していた厚い敷布団を敷く。


 すぐに敷布団の真ん中にセリーヌが陣取り、両サイドをポンポンと叩いた。それを見たニコラが左側にダイブ。水浴びをした時に着替えは済ませているので特になにもすることはない。俺はセリーヌの右隣に横たわった。


「それじゃあ寝ましょうか~」

「はーい」

「はーい」


 俺とニコラが声を合わせる。不意打ちでもないかぎり、添い寝で焦ることはない。なんだか変なところが鍛えられてるような気がするな……。


 セリーヌの傍らで目を閉じる。家の外からは虫の鳴き声、隣のセリーヌからは相変わらず森の中にいるような落ち着いた匂いがする。


 さっきまでの森の中を歩いた時に感じた匂いよりも、なおやさしい匂いだ。まるで森の中でうたた寝をするような心地になりながら、俺は眠りについた。

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