154 突入
姿を見せたウェイケル一行は山裾から鉱山坑口に向かって歩いていく。こちら側からそれほどはっきりとは見えないが、ウェイウェイ言いながら山を登ってるに違いない。ううん、知らないけど絶対そう。
俺たちは椅子から立ち上がり平地の端まで近寄り、ウェイケル一向の様子を眺める。ちなみにニコラは一応は回復したものの、鉱山の方に顔を向けたままテーブルに頬をくっつけ、身動きひとつ取らずにじっとしていた。
しばらくして、ウェイケル一行が鉱山坑口までたどり着く。
俺たちが向こうの様子を眺めていると、ラックらしき人影がこちらに気づいて手を振ってくれたので俺とネイが手を振り返す。隣のジャックはこちらを一瞥しただけだったが、ラックに手を掴まれて無理やり手を振らされていた。そういうのを照れちゃう年頃なんだろうね。なんとも微笑ましい。
そしてウェイケル一行は坑口にいた見張りとひとしきり話をした後、まずは見張りのうちの一人が鉱山へと入って行った。
「ネイ、今一緒に入って行ったのは?」
「ああ、今のは鉱山の親方のジムザだよ。魔石坑道まで案内するんじゃないか?」
「なるほどー」
そんな会話を交わしている間に続々とウェイケル一向は鉱山へと入って行き、二人の見張りを残すのみとなった。
「入っていったね」
「だな……!」
俺が呟くとネイが力強く頷く。
「……なーなー、マルク。それでこの後はどうするんだ?」
ネイが両手で拳を握り、待ちきれないようにそわそわしながら問いかけた。
「どうって? 出てくるまで待つんだけれど」
「そ、そりゃそうかもしれないけど……。そうじゃなくて、待ってる間になにかあるのか?」
「なにもないけど……」
「そ、そうなのか……。思っていたよりもつまらないな」
見るからにガッカリとしたネイは握った拳をほどき、俺から目線を外しながら呟いた。
「僕らが近づいたり何かしたら冒険者の邪魔になっちゃうからね。ここで無事を祈るだけだよ」
見学と言っても外から眺めるのみだ。向こうがカメラを片手に実況してくれるわけでもなし、ここでじっとしているしかない。それでも何か得られるものがあるだろうと、セリーヌにわがままを言ったのだ。
「私は見てるだけでも、なんだかワクワクしてくるし嫌いじゃないわ!」
デリカが爛々と目を輝かせ、鉱山の方を見ながら声を上げる。
「ちょっと素振りしてくるわね!」
そう言うや否や、剣を片手に少し離れたところまで駆け出して素振りを始めた。やはり冒険者を目指していただけあって、なにやら血が騒ぐんだろう。
「そっか……。それもそうかあ……。それじゃあ待ってる間、お前の土魔法見せてくれるか? 少し興味があるんだ」
「いいよー」
気を取り直したネイが俺に土魔法の実演をリクエストした。やっぱり鍛冶は物作りが好きでないと務まらないだろうし、そういうのは土魔法と通じるところがあるのだろう。土魔法に興味を持ってくれるのは嬉しいね。
「何が見たい?」
「うーん。何って言われても、お前みたいに一人でテーブルや椅子を作るヤツは初めて見たからなあ……。とりあえずお任せするぜ」
「わかった。それじゃあ町の空き地で近所の子が遊んでる遊具を作るね」
俺はファティアの町の隠れ家で土魔法で作っていた滑り台やシーソー、動物の形をした乗り物をこちらに再現した。動物は馬とトカゲだ。
「へえええ。シーソーって言うのか? こんな形の遊具初めて見たぞ。こうやって遊ぶのか?」
ネイはひょいっとシーソーの真ん中に飛び乗ると、そこでバランスを取ってピタリと動きを止めた。なかなかのバランス感覚だ。俺ならすぐにシーソーから転げ落ちそう。でも違う、そうじゃない。
「違うよ。シーソーの端っこに座ってみて?」
「こうか?」
ネイが端に座ったのを確認すると、俺はもう片方に乗りこむ。そして体重をぐっと後ろにかけるとネイ側のシーソーが浮いた。
「おおお……。ふわっとして気持ちいいな!」
「今から下に落ちるから気をつけてね?」
下にタイヤのクッションはないからね。俺が軽く足を跳ねさせるとネイ側のシーソーが下がり、ネイは地面に足を付けてゆっくりシーソーを地面へと着地させた。
「これを交互に繰り返すわけか! なるほどなー。浮いたり沈んだりする感じが面白いな!」
町の子供たちが狂ったように毎日ひたすら乗り続けている自慢の一品だが、ネイも気に入ってくれたらしい。そうしてしばらくの間シーソーを楽しんだ後、次にネイが興味を引いたのは動物の乗り物だ。
「これは?」
「これはただ座るだけだよ」
「ふーん……。たしかに形は良く出来てるな」
ネイは馬の像にまたがると、馬の頭をペシペシと叩いた。
「なあなあ、これって固いのか?」
「これはそんなには固く作ってないけど」
本気でマナを込めて土を固めるのは、崩落が怖い建物の屋根を作る時くらいだ。
「……殴って試してみていいか?」
「え? 殴ったらさすがに痛いと思うよ? その、痛かったらまた……」
さすがに言葉を濁したが、また泣いても困る。ネイには俺の考えは伝わったようで。
「あっ、バッ、バカッ! もうあんなことにはならねえよ! これでもドワーフだからな。力の強さには自信があるんだ」
「そう? それじゃあ殴ってみてもいいよ」
「じゃあ遠慮なく……」
ネイは馬の像から飛び降りると腕をぐるぐる回し、馬の像の腹に狙いを定め――
――腰の入ったパンチを繰り出した!
ゴンッ!
鈍い音が周囲に響く。ネイは殴ったままのポーズで固まり、しばらくすると拳を抑えながらしゃがみ込む。
像の腹を見ると、拳の跡がくっきり残っていた。
「ここ、へこんでるよ! すごいね!」
俺が拳の跡を指し示すと、ネイはしゃがみ込んだまま、
「く~~~~っ! 思ってたのと違う! ぶっ壊すつもりで殴ったのに! なんでそんなに固いんだよ!」
恨みがましく俺を見上げるネイの瞳には涙が溜まっていた。
「ええ……。そんなこと言われても」
子供が乗るんだし、崩れないようにそれなりの強度は必要だろう。ちょっとやそっとで崩れるような物を作るつもりはない。
「……ああ、手が赤くなってるね」
俺は手を取ると回復魔法をかけてやる。すると赤くなっていたのがスッと消えた。
「はい元通り」
先日のようにポンと背中を叩いてやった。
「うー! なんなんだよお前は~!」
立ち上がったネイは顔を赤くしてダンダンと足踏みをした。ちょっといいところを見せようとしたのかな。そうだとすればかわいいなあ。
周りを見ると俺だけではなく、セリーヌもニコラも、デリカさえも、ネイのほうを見てほっこりと笑顔を浮かべている。そして見られてるのに気付いたネイが顔を真っ赤にしたまま黙り込んだ。
◇◇◇
そんなことをしながら小一時間ほど過ごした。少し前に案内を終えた親方が戻ってきていたんだが、鉱山の状況はさらに変化を見せる。
ウェイケルらしき人影が慌てて坑口から飛び出してきたのだ。膝をついて肩で息をしているように見える。マザーストーンリザードを倒して意気揚々と凱旋してきたようにはとても見えない。
「おいっ! これなんだかマズくねえか?」
ネイが緊迫した口調でセリーヌに尋ねる。
「……んー、どうやら何かが起きたみたいね。向こうに行ってみる?」
俺やネイ、デリカがすぐさま頷く。
そして再びニコラの目から光が消えた。
――後書き――
本日いもてんコミカライズ最新話が更新されました!
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https://seiga.nicovideo.jp/comic/50124
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