126 トマトソースパスタ
セリーヌとニコラが寝た後も何事もなく馬車は進み続け、気がつけば昼食時となった。
俺はぐっすりと眠っていた二人を起こし、相変わらず景色の変わらない草原に若干呆れながら馬車から降りる。そしてデリカが馬に飼葉と水をやっている間に土魔法でテーブルと椅子を作り出した。
ちょっと日差しが眩しいから、屋根も付けちゃおうかな。ふんふんふ~んっと土魔法を発動させると――みるみるうちに前世の公園に設置されていたような
……うーむ、やっぱりヌシと戦う前より魔法のノリとでも言うのか、マナの練り込み具合が力強くなっているように感じる。これがヌシを倒したことで得た魂の力なのだろう。妹の乳首を見ること以外にも役に立ったことは喜ばしい。
ヌシとの戦闘を丸投げされた時はセリーヌに抗議をしたい気持ちで一杯だったが、今は逆に感謝しかない。こうして借りがまたひとつ作られていくのだ。いつか借りが返せるときがくればいいんだけどね。
せめて昼食はセリーヌの好きなものを食べさせてあげよう。寝起きで腕をぐっと上に伸ばして背伸びをしているセリーヌに声をかける。
「セリーヌ、何食べたい?」
「んー、そうねえ~。さすがに連日テンタクルスは遠慮したいわね。それ以外なら何でもいいわよ」
「うん、わかった」
もうっ、何でもいいってのが一番困るんだからねっ! なんて俺は言わないのだ。粛々とテーブルの上に昼食を取り出した。
アイテムボックスから取り出したのは、父さんに作ってもらったシンプルなトマトソースのパスタを一皿ずつ。白パンは中央のカゴに山盛りして取り放題に。飲み物はニコラがおねだりして買ってもらっていた果汁たっぷりのよく冷えたジュースをそれぞれのコップに注いだ。半日馬車に乗っていただけだし、軽めの昼食でいいだろう。
「じゃあこれでいいかな」
「十分よ~。それじゃあみんなで食べましょうか」
四人でテーブルを囲み、一斉に食べ始めた。
自家製の魔法トマトから作られたソースは別格だ。前世でも生トマトは嫌いだったがトマトソースは普通に食べられた。つまり嫌いなトマトもソースにすると食べられるようになるというなら、最初から生でも美味しい魔法トマトなら? そりゃもう美味しいに決まってるのである。
「出来たての料理が旅の途中で食べられるってのは本当にいいわね~」
セリーヌが満足げにフォークにパスタをクルクルと巻きつける。普段の移動中はろくなものが食べられないのもあって、シンプルなパスタでも十分に気に入ってもらえているようだ。
「お兄ちゃん、ジュースおかわりー」
ニコラはパスタよりも飲み物が気に入っているらしい。スッとコップを俺の方に突き出し、お代わりを要求する。
「飲んでばっかりだな……。ちゃんと食べなよ」
自分でおねだりしただけあって、好みの味なんだろう。三杯目も注いでやると同時にクピクピと飲み始めた。
『やれやれケチくさいお兄ちゃんですね。仕方ないから次の一杯で終わりにしてあげます』
くっ、こいつ……。そんなに飲んで後で知らないぞ。
「前もこんな場所で食べたわよね」
デリカが周囲を見渡して口を開く。前にセカード村に行った時もここに似た草原にテーブルを作ったなあ……。って、なんだかピクニック気分になってるな。
気を引き締め、念入りに空間感知を行うが結局何事もなく。穏やかな空気に包まれたままランチタイムは終了した。
「ふうー、満足満足。美味しかったわ。夕食も期待しておくわね」
セリーヌが皿に残ったソースをパンで拭い、ひょいっと一口で頬張ると席を立つ。
「さてと、ちょっと腹ごなしにお散歩するわね。すぐ戻ってくるから」
「あっ、私も行く!」
「はいはーい。それじゃデリカちゃんも行きましょうか。ニコラちゃんはどうする?」
「……んーん。ここで待ってるー」
「そう? それじゃあちょっと行ってくるわね」
セリーヌがデリカを伴い散歩に出かけた。俺を誘わないってことはお花を摘んでくるのだろう。
そしてニコラだが、セリーヌたちが席を離れると途端に小刻みにプルプル震えだし、いつも愛想を振りまいている町のアイドルとは思えない苦悶の表情を浮かべた。……だから言ったのになあ。
「……俺に何か言いたいことでもあるのか?」
ニコラは青白い顔でお腹をさすりさすり、震える声で力なく答えた。
「……やさしいイケメンお兄ちゃん、E級ポーションをひとつ私に恵んではもらえませんか……? そろそろ私のお腹の中の門番が『よし、通れ!』って、言いそうなんです……」
なんだかまだ余裕がありそうだな。だからといってうっかり門番に職務放棄させると後で色々と大変そうだ。俺はため息をつきながらも素直にE級ポーションをニコラに手渡した。
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