115 イカイカフェスティバル
カーンカーンカーンカーン!
かがり火代わりに発動させた光魔法の光球が俺の頭上で眩しく光っている。俺は知らずに生唾を飲み込みつつ、じっと湖面を見つめた。するとふいに湖面が揺らぎ――
「ギュピエエエエ!」
激しく波打つと同時に、奇声を上げながらテンタクルスが飛び出して宙を舞った。
最初のエンカウントは俺の持ち場のようだ。触手まで含めると全長2メートル、もちろん俺よりずっと大きい。俺に向かって飛びかかるテンタクルスの迫力は、以前遠くから見た時とは段違いだ。
一瞬足が竦みそうになったが、湖からしっかり距離を取っていれば、いきなり攻撃を食らうことはないはず。……多分。
俺は心を奮い立たせ、湖面からミサイルのように飛び出し回転しながら落下してくるテンタクルスを
ドンッ! っと鈍い音と共にテンタクルスの胴体が吹き飛び、触手だけが地面に落ちた。弾け飛んだ欠片が時間差で湖に降り注ぎ、パシャパシャと音を立てる。
「――やっちゃった」
近くで見るテンタクルスの迫力にビビって、思わず全力で撃ってしまった。地面に投げ出されてビクビクと震えるゲソを見ながら、俺は思わず足元から崩れ落ちそうになる。
下半身だけしか残らなかったので、食材として半分も無駄にしてしまった。これでは無理言って参加させてもらった漁師の皆さんに申し訳ない。まずはもう少し落ちつこう。
胸に手をあてながら少し早くなった鼓動を静めていると、周辺から男たちのざわめき声が聞こえた。
そちらに顔を向けると、隣の集団どころか見える範囲全ての男たちが俺の方を見ていた。いきなり失敗したのでかなり恥ずかしい。
「ごめんなさい、せっかくの獲物を痛めすぎてしまいました。次からは気をつけます」
「お、おう……」
一番近いデリカたちの集団の男が言葉を返す。俺はペコリと頭を下げるとすぐに湖面に向き合った。湖面を見続けていないと出てくるタイミングが掴めないので、あまり視線を切るのはよくない。
またすぐに湖面が揺らいだ。次に湧いたのも俺の担当区域だ。今度は落ちついて、飛び上がった瞬間に狙いを定め、
音も立てずに一発でテンタクルスの眉間を貫くと、地面に落ちたテンタクルスはすぐに動かなくなった。よし、今度は成功したぞ。なかなかの命中精度だと自画自賛したい。
しかしホッとする間もなく、またしても俺の担当区域からテンタクルスが飛び出てきた。
なんだか俺のところにしか湧いてきていない気がするけど、どういうこと? 次も同じようにテンタクルスを貫くと、親分格から気の抜けたような声が届く。
「お~い坊主! 照明の魔法に引き寄せられて全部お前のところに行っちまいそうだ。俺たちにも出番をくれよ!」
「あっ、ごめんなさい」
どうやらかがり火に比べて光球の光が強すぎたらしい。すぐさま光量を落とすと、ようやく他の場所にもテンタクルスが湧き始めた。
「こっちにも来たぞ!」「うおおおお! 坊主に負けてらんねえぞ!」「ぶっ殺せ!」
相変わらず物騒な叫び声を上げながら、男たちがテンタクルスに群がる。それに混じってデリカが槍を振るうのが見えた。
おっと、こっちも集中しないとな。湖面のゆらぎに意識を集中させる。――少し大きく湖面が揺れたと思うと、テンタクルスが二匹同時に飛び出してきた。
ストーンバレットを同時に発射することは出来るが、別方向に狙いを定めて同時に撃つのはまだ難しい。まずは片方の眉間を貫き確実に仕留めた。
「ピギュウウウウウ!」
残ったもう一匹は地面に着地すると奇声を発しながら、こちらに向かって砂浜を這ってきた。ひえっ、俺からまだ距離は離れているけど、すごく怖いぞコレ! 漁師さんやデリカはあんなのによく近づけるな。俺は絶対に無理だと思う。
近づくテンタクルスを停止させるべく、普通の
それをテンタクルス目掛けてぶっ放すと、ドスッと地面に突き刺さる音と共にテンタクルスを貫いた。
二匹同時に相手にしたことで張り詰めていた緊張を少しほぐし、改めて湖と俺との間の光景を見る。
俺には倒したテンタクルスを引き上げる係が居ないので、テンタクルスの死骸が点在して酷いことになっていた。後でまとめて回収すればいいのかなあ。今からアイテムボックスに収納するために前に出るのは怖い。
とりあえず回収は後回しにすることにして、再びデリカたちの集団の様子を見る。
今相手にしているのは通常よりもしぶといらしく、全員で槍でボコっているものの、なかなか仕留めきれていないようだ。男たちの怒号が飛び交う中、テンタクルスが触手を振り回して暴れ回っている。
すると俺の見ている前で、その触手がデリカの身に迫り――
パァン!
――乾いた音を立てて触手が吹き飛んだ。
近くの男たちが一瞬固まってデリカを見つめ、デリカも何が起きたのか分からず目を見開いている。そしてハッと何かに気付くと胸元に手をあてた。
胸元からはほのかに立ち上るマナの残滓が見える。どうやら今のが護符の効力らしい。変態領主から貰った護符はセリーヌの言うとおり、かなり良い物だった様だ。あれならデリカの方は安全だろう。俺は自分の目前に意識を集中させた。
そうしてしばらく狩っていると、ふいにテンタクルスの強襲が途切れた。男たちも倒した獲物を後方に引っ張り上げ湖面を見つめ続ける。
今夜はこれで打ち止めなんだろうか? カーンカーンと拍子木が鳴り響く中、身じろぐこともせずに一分ほど待っていると――
――ふいに今までよりも大きな湖面のゆらぎが見えた。周囲の男たちのざわめきが聞こえる。
「……おい、アレって」
「最近は姿を見せなかったが」
「あ、ああ……」
すると親分格の怒声が響いた。
「ヌシだ! ヌシが出るぞ!!!」
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