30 万有引力
「えっ、やれるの? ……ほほーう、それじゃあやってみて」
セリーヌは思ったよりもあっさりと許可をしてくれた。そして少しワクワクしたような顔でこちらを見ている。
「い、いちおう万が一のときは守ってね」
「まっかせなさい!」
セリーヌが胸を張り、胸がポヨンと揺れた。これワザとやってんのかな。
とにかく万が一の場合はセリーヌに何とかしてもらおう。安全マージンを確保してひとまず安心した俺は自分の目の前の地面を柔らかくする。
自分の命がかかってるので念入りに柔らかくしようとマナを込めまくる。地面の見た目はさほど変わらないが、土はフッカフカのサッラサラに柔らかくなったはずだ。
次に手を上に伸ばしてマナを練り、「武器」を作り出す。
外れても大丈夫なようになるべく大きく。絶対に倒せるようになるべく分厚く。
そうして完成した空中に浮かぶ「武器」を見たセリーヌは……なんとも言えない顔をしていたが、とりあえずは無視だ。
準備は完了だ。後はゴブリンを呼び込むだけだな。
俺は石ころを拾い、ゴブリンの方へと投げつけた。当たりはしなかったがこちらに気付いたようだ。
「ギギッ!」
俺に気付いたゴブリンが木の棒を片手にこちらへとやってくる。すぐに俺とゴブリンとの距離が縮まるが、五メートルほど手前でゴブリンの膝まで地面に埋まった。
「ギュゲッ!?」
すぐさま地面を硬化させて簡単には抜けないようにする。そしてゴブリンがジタバタもがいてるところで、浮かんでいる「武器」をマナの力でゴブリンの頭上へと運んでいく。
木々の少ない場所を選んだので、ほとんど音も立てずに「武器」がゴブリンの頭上へと迫る。そして急に足元が影に覆われて不審に思ったゴブリンが頭上を見上げるが、その時にはもう手遅れだ。
――ドシンッッ!
武器――縦横三メートル厚さ五十センチほどの巨大な石壁を真上から落とされたゴブリンは、そのまま石壁の下敷きになった。硬化した地面にゴブリンの血が少し滲んでくる。なんだか「シーーザーーー!」と叫びたくなってくるシーンだね。
それはともかく、石が魔物に届かないなら魔物を呼びこんで下に落とせばいいじゃない作戦、大成功である。
「どう?」
俺は振り返りセリーヌを見上げた。多少ドヤ顔だったことは否定しない。
「はー、なんともまぁ力技ねえ」
セリーヌが呆れ顔で呟く。
『マジでセンスゼロすぎて笑えますね』
脳内にニコラの声が響く。お二人からは不評のようだ。
「そ、そう……」
「これ、ラックの弟に使っちゃだめよ?」
「使うわけないでしょ。僕をなんだと思ってるの」
「なんでしょうね? むふふ。それじゃあマルク、初めて狩った記念すべきモンスターなんだから、しっかり討伐証明を切り取らないとね」
「あっ、そうだ。耳を切らないと」
ゴブリンを倒した満足感ですっかり忘れていた。しかしコレの耳を切るのか……大変だなあ。
石壁のマナを分解すると石壁はさらっとした砂になった。そして砂山をかき分けるとぐっちょんぐっちょんのゴブリンが現れた。大半がまだ砂で隠れているが、この時点で既に本日ナンバーワンのグロ映像である。自分でやったことながらエグい。
耳の位置を探るために、ゴブリンの頭部らしきところに積もった砂を払っていると、セリーヌの声が頭上から届く。
「危険な状況なら仕方ないけど、なるべく討伐証明は取りやすいように仕留めるのも、冒険者として大事なことよ」
なるほど、その通りだ。この方法は封印しないといけないなあ。そもそも足止めをしてから石を落とすのは二度手間だし、ゴブリン一匹に対して魔力を使いすぎだと思う。
まぁちょっと意地になってたところもあったからね。本気でこの方法が有効な手段として使えるとも思ってなかったよ? ほんとだよ?
しばらくしてペシャンコのゴブリンの耳を探り出した。ナイフで切り取った後、砂だらけの耳を水魔法で洗い流しセリーヌに渡す。ふう、グロ耐性がゼロのままだと腰が抜けていたかもしれないな。
セリーヌが耳を革袋に入れる直前、急に思い出したように言った。
「あ、そうそう。冒険者の中には、人生初の討伐証明を記念に取っておく人も結構いるんだけど、いる?」
「いらないよ!」
「あはははは! そう言うと思った。それじゃあそろそろお昼だし、少し移動して休憩しましょうか」
革袋にポイッと耳をしまい込み、セリーヌがさらに森の奥へと歩き出した。
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