第67話

 魔石の換金と、デスアームド騒動の報告。

 冒険者ギルドでこの二つを終えた俺とルーチェは、ラコリナの街を散策していた。


 腕のいい鍛冶師を見つけ、適正レベル帯の新しい装備を打ってもらうためである。

 元々〈百足坑道〉へ向かったのは、そのための黒鋼を集めることが目的であった。


「い、いいんですかぁ、エルマさん? アタシがこんな、高価な武器を装備しちゃって……」


 ルーチェは黒い小刀を手に、そう呟く。

 デスアームドのドロップアイテム……〈毒蜈蚣の小刀〉である。


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〈毒蜈蚣の小刀〉《推奨装備Lv:70》

【攻撃力:+28】

【市場価値:二千八百万ゴルド】

 蜈蚣の猛毒を帯びた小刀。

 高い攻撃力に加え、稀に敵に毒を付与する。

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 市場価値二千八百万ゴルド。

 推奨装備レベルは少々高いが、ルーチェも既にデスアームドの討伐でレベルは六十台になっている。


 推奨装備に届いていなければ少々自身のステータスにマイナス補正が掛かるが、この程度のレベル差であればそこまで大きな値にはならない。

 むしろしばらく装備入れ替えの必要がないため、気持ち上くらいの装備を入手するのが一番ありがたい。


「攻撃力が高く、おまけに実用性の高い付与効果まで持っている。こんな武器を売り飛ばす方が遥かに勿体ないぞ」 


 加えて〈毒蜈蚣の小刀〉の毒の付与はあくまでおまけ程度の低確率効果のはずではあるが……この書き方のアイテムは、なんと発動率が幸運力の値に依存するのだ。

 

 〈マジックワールド〉において、毒は耐性のない相手に対して非常に強力な状態異常となる。

 毒状態で激しく動けば毒が回り、最大HPから算出した割合ダメージが入り続けるのだ。

 おまけに素早さに対して【10%】のマイナスが付く。


「で、でも……エルマさん、聞いてください! これを売ったら、毎日おいしいものたくさん食べられますよ! お腹いっぱい、しかもデザート付きで!」


 ルーチェが彼女の考える、せいいっぱいのささやかな贅沢を口にする。


「……今度また、ラコリナのおいしい店でも探しに行こうか。これだけ発展している都市だ。またいいところが見つかるだろう」


 〈天使の玩具箱〉と〈百足坑道〉の魔石の総額と、エンブリオの討伐報酬。

 メインのドロップアイテムを計算に入れずとも、俺達には既に二千四百万ゴルドの貯金があるのだ。

 少しくらい贅沢をしても別に罰は当たるまい。


「それより俺の鎧用に黒鋼を……武器用にミスリルを使いたいんだが、構わないか? 鍛冶費用も考えると、むしろ〈毒蜈蚣の小刀〉の市場価値を超えてしまいそうなんだが」


 そう、〈ミスリルのインゴット〉も〈毒蜈蚣の小刀〉に並ぶ高額アイテムなのだ。

 加えてミスリルを扱えるような鍛冶師に依頼するには、それなりの金額が掛かることだろう。


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〈ミスリルインゴット〉

【市場価値:二千五百万ゴルド】

 ミスリルの鋳塊。

 強いマナの輝きを帯びた魔法金属。

 魔法銀と呼ばれることもある。

 高価な稀少金属であり、ミスリル装備を有しているだけで冒険者として一目置かれること間違いなし。 

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 ここに黒鋼鎧の材料費と製作依頼費まで乗ると思えば、かなりの額になってくる。

 〈ミスリルインゴット〉の時点で二千五百万ゴルドの材料費だ。

 黒鋼と合わせれば三千万ゴルドは確実に超えるだろう。

 そういう面では、むしろ申し訳ないのはこっちの方だ。

 ただでさえ〈燻り狂う牙〉の出費もあるというのに。


 盾はひとまず現状のままでいいだろう。

 今装備している〈狂鬼の盾〉も、〈黒鋼の盾〉も、そこまで大きな性能差があるわけでもない。

 ただ、初期レベルから装備している〈鉄の鎧〉のままなのはどうにかしておきたい。


「つ、つまり……アタシ達二人の装備の総額で、六千万ゴルドになるんですね……」


 ルーチェがごくりと息を呑む。


「ただ、ミスリルを加工できるとなると、それなりに高レベルの鍛冶師が必要だ。冒険者の都ラコリナと呼ばれるここでも、もしかしたら見つからないかもしれないな」


 〈夢の穴ダンジョン〉産の金属を加工するには、鍛冶師クラスの専用スキルツリーが必要になってくる。

 死ねばそれまでのこの世界では、レベルの高い鍛冶師は〈マジックワールド〉以上に貴重な人材となっているはずだ。


 その後、しばらくミスリルを加工できる鍛冶師を探して街内を散策していた。

 ただ、危惧していた通り、高レベルの鍛冶師は貴族に召し抱えられていたり、王都で大きな店を構えていたりすることが多いらしく、せいぜい【Lv:45】程度の鍛冶師しか見つけることができなかった。


 半日掛けて店を回って話を聞き……俺達はようやく【Lv:60】の鍛冶師の情報を得ることができた。

 ただそれも、頑固で偏屈な性悪老人であるため、あまりお勧めはできない、という話であった。

 面倒な性格で、一度機嫌を損ねれば、金をいくら積まれても仕事を引き受けないのだそうだ。


「一流の鍛冶師が住んでいるとは思えないところだな……」


 辿り着いたのは、表通りから離れたあばら家のようなところだった。


「大丈夫ですかねぇ。いきなり不安になってきたんですが」


 ルーチェが入口の扉を叩き、そうっと開く。


「あのぅ……すいません。ここに鍛冶師のベルガさんがいるって聞いたんですけども……」


「また来たのかクソガキがァ! どれだけ脅しを掛けられようとも、おどれのような性根の腐った奴に打ってやる剣なぞないわァ!」


 しゃがれた怒声が飛んできた。


「ひぃっ! ご、ごめんなさいごめんなさい!」


 訳が分からぬままルーチェが平謝りする。


「なんだお前らは? あのクソガキではないのか」


 店の奥から現れたのは、分厚い眼鏡を掛けた白髪の老人であった。

 ごわごわとした白い髭が生えており、手には大きな鎚を握っている。


 急に怒鳴られたので何事かと思ったが、さすがに人違いであったらしい。

 ……ただ、頑固で偏屈な老人だという前評判は、どうやら間違いではなさそうだ。





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【転生重騎士の質問返し】を近況ノートにて行わせていただきました。

また覗いてみてください。

https://kakuyomu.jp/users/necoco0531/news/16816452221153718032

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