第55話
「す、すっごい大きい魔石……」
ルーチェはミスリルゴーレムの残骸から土属性魔石を見つけ出し、それを手に取っていた。
「エルマさん……これ、魔石だけで二百万ゴルドになるみたいです……。上級冒険者ってミスリルゴーレムより強い魔物をいっぱい狩ってるはずですけれど、いったいどれくらい貯め込んでるんでしょう……?」
魔石の市場価値を確かめたらしいルーチェが、俺へと恐々とそう口にする。
俺はミスリルゴーレムの残骸の胸部の部分を漁っていた。
命を失ったミスリルゴーレムは、マナの塊に戻って気化していく。
そんな中……胸部の奥に、大きな直方体の金属塊が、しっかりと残っているのが目についた。
俺は手に力を込めて金属塊を引っ張り出す。
青緑に輝く、美しい金属の鋳塊。
表面には〈ミスリルインゴット〉の刻印がなされており、デフォルメ化されたゴーレムのマークまで彫られていた。
「なんだか気が抜けちゃいますね。ミスリルゴーレム……こんな可愛らしい魔物じゃ絶対になかったのに」
ルーチェが苦笑しながらそう零す。
「まあ、値段は可愛らしくないんだが」
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〈ミスリルインゴット〉
【市場価値:二千五百万ゴルド】
ミスリルの鋳塊。
強いマナの輝きを帯びた魔法金属。
魔法銀と呼ばれることもある。
高価な稀少金属であり、ミスリル装備を有しているだけで冒険者として一目置かれること間違いなし。
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「にっ、二千五百万ゴルド!? こっ、この〈
「ミスリルゴーレムは本当にレアな魔物だからな。だからこそ俺も、少し背伸びをしてでも挑んでおきたかったんだ」
ミスリル系は、俺達の装備できるレベル帯で最強格の装備だと思って間違いない。
黒鋼装備よりずっと性能が高い。
武器にすれば、この先長く使える相棒になる。
売却するのも美味しいのだが、ここは素直に武器にしてしまいたいところだ。
都市ラコリナに戻ったら、腕のいい鍛冶師を探して依頼したい。
いい武器を打ってもらうには、それなりにレベルの高い鍛冶師に依頼する必要がある。
だが、ここは冒険者の都ラコリナだ。
きっと適した鍛冶師が見つかることだろう。
問題は、ミスリルで剣を造ってもらうか、ナイフを造ってもらうか。
一応、盾か鎧かという選択肢もあるが……まあ、ここはナイフだろう。
動きが速く、ステータス不足の相手にも〈ダイススラスト〉で食い下がれるルーチェが持っていた方が、戦い方が安定する。
……それに〈燻り狂う牙〉の五千万ゴルドの件もあるので、できればちょっとでもルーチェに高額アイテムを流して釣り合いを取っていきたい。
俺の心情として。
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〈ミスリルインゴット〉:2500万ゴルド
〈破壊の
〈黒鋼ハンマー〉:460万ゴルド
〈黒鋼ソード〉:450万ゴルド
〈黒鋼ナイフ〉:430万ゴルド
〈黒鋼インゴット〉:400万ゴルド
〈ミスリルゴーレムの魔石〉:200万ゴルド
〈クライの魔石〉:90万ゴルド
〈スマイルの魔石〉:80万ゴルド×4
――――――――――――――――――――
現時点で、六千八百五十万ゴルド。
ついに〈天使の玩具箱〉での成果を上回った。
やはり幸運ピエロの効力は凄まじい。
前回は成金ラーナとレアドロップのお陰で跳ね上がったので次で超えるのは厳しいかと考えていたのだが、あっさりと上回った。
この調子なら、ルーチェのための〈死神の凶手〉の〈
「それにしても……結構奥まで来ちゃいましたね。戻るときに厄介な魔物に襲われなければいいんですが」
「まあ、ミスリルゴーレムを討伐できた時点で、〈百足坑道〉に厄介な魔物はいないかもしれんな。ミスリルゴーレムは、下手したらここの〈夢の主〉より危険かもしれない」
ミスリルゴーレムとここの〈夢の主〉のレベル差はさほど大きくない。
それにミスリルゴーレムは、あのリーチとタフさ、攻撃力の高さを前面が噛み合っているため、レベル以上に対処し辛い、凶悪な魔物である。
俺達はミスリルゴーレムを倒してレベルが上がっているため、あっさりとここの〈夢の主〉に勝ててしまってもおかしくはない。
「ルーチェ、来た道を延々歩かなくても、〈
「え……そんな方法があるんですか? 初めて聞きましたけど」
「既にルーチェも一度体験している。〈夢の主〉を討伐することだ」
俺の言葉を聞いて、ルーチェの表情が引き攣った。
「だ、大丈夫なんですか……それ?」
「〈夢の主〉はドロップアイテムが美味しい上に……ここ〈百足坑道〉の〈夢の主〉は、そこまで強くないんだ。正直ミスリルゴーレムでもう少し消耗させられると思っていたんだが、意外と余力を残せたからな」
ミスリルゴーレム戦で、俺は〈死線の暴竜〉を使うつもりだった。
ただ、かなりごり押し気味だった〈影踏み〉と〈シールドバッシュ〉のコンボによる行動阻害が効果的に機能してくれたことと、ルーチェがきっちり〈ダイススラスト〉の【六】を引いてくれたことで、俺のHPがそこまで削られなかったのだ。
〈ヒールポーション〉があるとはいえ、ダメージと回復を繰り返せば身体や精神への疲労として蓄積される。
もし〈死線の暴竜〉発動まで追い込まれれば素直に帰還しようと考えていたのだが、今の状態であれば、わざわざここの〈夢の主〉相手に引き下がる理由がない。
「さくっと倒して、おまけのお宝をもう一ついただくことにしよう」
「ここの〈夢の主〉って、どんな魔物なんですか?」
「どんな……というと、〈百足坑道〉の名前の通りだな。ロックセンチピード……通称、岩蜈蚣だ」
「……岩蜈蚣」
ルーチェが露骨に嫌そうに表情を歪めた。
「やっぱり止めておくか? 結構長い距離を歩いて来たし……ミスリルゴーレムも、かなり骨の折れる相手だったからな」
「いっ、いえ! やりましょう! 大丈夫ですよ! 今更その……ちょっと大きい虫くらい! ええ!」
ルーチェは自身を鼓舞するようにそう言った。
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