第54話

「オアアアアアアッ!」


 ミスリルゴーレムがルーチェを睨み、彼女へと掴み掛かろうと動き出した。

 〈ダイススラスト〉の大ダメージで、俺より彼女を警戒すべきだと踏んだらしい。


 ルーチェが狙われては敵わないが、無論その対策は考えてある。

 俺は素早くミスリルゴーレムの影を踏み、〈影踏み〉を発動した。


 ただ、ステータス差が開きすぎていて、ミスリルゴーレムの動きに強引に足が引き摺られる。

 俺は腰を落として地面に〈黒鋼ソード〉の刃を突き立て、強引にその場に留まった。


「よし、止まった……が」


 俺の〈影踏み〉を力技で振り切るのを諦めたミスリルゴーレムは、素早く俺へと振り返って突進してきた。


「俺ばかり注目されるのも、これはこれで厄介なんだよな。一難去ってまた一難だ」


 俺は〈影踏み〉を解除し、背後へと跳んだ。

 尻目に地面を確認するのも忘れない。

 ここは地面の凹凸が激しいため、後ろ跳びを繰り返していたら転倒しかねない。


 ミスリルゴーレムは、両腕をぶん回し、壁を崩しながら追い掛けてくる。

 俺はすぐに距離を詰められ、俺の身体目掛けて大きな右腕が掴み掛かってきた。


 俺はその腕の一撃を盾の表面に滑らせて受け流し、辛うじて地面へと落とす。

 ミスリルゴーレムの身体が、大きく前のめりに傾いた。


「ここだ!」


 俺は〈影踏み〉を再発動し、ミスリルゴーレムの影を踏む。

 そのまま力いっぱい、地面に足を擦ってミスリルゴーレムの影を引いた。


 ミスリルゴーレムは武器として特化した両腕にかなりの重量があり、姿勢によっては重心が不安定になる。

 大振りを外して重心が崩れた今は、体勢を崩す絶好の機会であった。

 元よりミスリルゴーレムのこの弱点を突くために、敢えてこの足場の悪いところまで誘導していたのだ。


 ミスリルゴーレムが前に倒れ、膝を突いた。

 一瞬の隙だ。

 だが、一撃入れるには充分過ぎる隙だった。


「行けっ、ルーチェ!」


「〈ダイススラスト〉!」


 ミスリルゴーレムの背を追って駆けてきたルーチェが、真っ直ぐにナイフの刺突技を放った。

 再びミスリルの大きな背にナイフが突き立てられる。

 宙に刻まれた数字は……【三】だった。


「う、うう……外しちゃいました……」


「オオオオオオオオオオッ!」


 ミスリルゴーレムが身体を捻り、背後のルーチェを振り飛ばす。

 ルーチェはその勢いを利用して跳び、壁を蹴りながら反転し、間合いを取ったところで素早くナイフを構え直す。


 外すのは仕方がない。

 連続で〈ダイススラスト〉の【六】が出るなんて、端から俺も期待していなかった。


 だが、ここからが正念場だ。

 一度ミスリルゴーレムが立ち上がってしまえば、もう二度と膝を突かせるような真似は成功しないだろう。

 そうなれば、次の一撃を入れる前に〈自動回復〉でHPを回復され、もう一度〈ダイススラスト〉を叩き込んでも倒しきれなくなる。

 そうなれば、俺達の勝算はほぼ潰えるといっていい。


 ルーチェがもう一発〈ダイススラスト〉の【六】を引くまで……死力を尽くして、ミスリルゴーレムを地面に釘付けにしておかなければならない。

 立て直されたらそこまでだ。


 かなり強引に攻める必要がある。

 ここは一発もらうのを覚悟して攻勢に出るべきだ。

 となると、攻撃を受けても崩れないように〈ライフシールド〉を張っておいた方がいい。


「〈ライフシールド〉!」


――――――――――――――――――――

〈ライフシールド〉【通常スキル】

 HPを最大値の20%支払って発動する。

 支払ったHPと同じ耐久値を持つシールドで全身を覆う。

――――――――――――――――――――


 俺の生命力が実体化し、俺の身体を光の膜のように覆う。


――――――――――――――――――――

【エルマ・エドヴァン】

クラス:重騎士

Lv :46

HP :47/110

MP :27/45

――――――――――――――――――――


 【HP:22】を支払い、〈ライフシールド〉を展開した。

 

 そのまま俺はミスリルゴーレムへと斬り掛かる。

 ミスリルゴーレムは腕を伸ばし、迎撃の構えに出る。

 俺はその前に出た腕を剣で殴って弾き、一気に距離を詰めた。


 ここは強引に攻撃し続ける。

 一撃もらっても立て直せるよう、〈ライフシールド〉がある。


 俺は再び〈影踏み〉を発動し、〈シールドバッシュ〉の体当たりを仕掛けた。

 〈ステータス〉負けの反動で、俺の身体が大きく背後へ弾き飛ばされる。


 俺は腰を落とし、地面から……ミスリルゴーレムの影から、足を離すまいと構えた。


 〈シールドバッシュ〉の勢いでミスリルゴーレムの影が引き伸ばされて張った。

 影に引っ張られて、ミスリルゴーレムの動きも静止する。

 俺側に引っ張られているため、背後から向かってくるルーチェの方を振り返れないでいる。


 かなり強引だが、〈シールドバッシュ〉で自分を吹き飛ばせば、〈影踏み〉でこういう使い方もできる。

 もっとも、相手とのステータス差を緻密に計算する必要はあるが。


 三度目の〈ダイススラスト〉をルーチェが放つ。

 だが、浮かび上がった数字は【四】だった。


「こんな窮地に限って、二度外すなんて……!」


 ルーチェが悔しげに零す。


「ルーチェ、どんどん行け!」


 俺も再度、ミスリルゴーレムへと飛び掛かっていった。

 影の張力を利用して勢いを持たせ、ミスリルゴーレムへと突進する。


 ミスリルゴーレムが両腕を俺へと構える。

 腕を不用意に伸ばしてこない。

 確実に俺を迎え撃つつもりらしい。


 俺が充分に接近したところで、ようやく右腕を俺へと繰り出してきた。

 俺はミスリルゴーレムの腕の逆側へ跳びながら、手の甲目掛けて剣を振るう。


「〈パリィ〉!」


 手が痺れる。

 剣越しに、奴の馬鹿力が伝わってきた。

 辛うじて成功した〈パリィ〉によって、奴の右拳が壁へと弾かれ、洞窟内を大きく揺らした。


 五分五分だったが、成功した……!

 だが、剣を握る指に、力が入らない。


 素早くミスリルゴーレムの左腕が俺へと伸びる。

 避けられない……!

 俺は盾を構え、身体を縮めた。


 ミスリルゴーレムの怪力が、俺の〈ライフシールド〉を呆気なく一撃で粉砕した。

 続いて俺の盾を殴打する。

 俺の身体は衝撃で宙に浮き、地面に身体を打ち付けることになった。


 本当に恐ろしい攻撃力だ。

 〈ライフシールド〉の盾の二重の緩衝材があって、それでようやく受けきることができた。


 ミスリルゴーレムも、明らかに俺の動きに対応してきている。

 無暗に腕を伸ばさなくなったのもそうだが、〈影踏み〉にも明らかに警戒意識を見せ始めていた。


 俺の後もどんどんなくなってきている。

 もうさっきまでのような戦法も、これ以上は通用しそうにない。


「今度こそ……ここで決めますっ! 〈ダイススラスト〉!」


 四度目の〈ダイススラスト〉が放たれる。

 ミスリルゴーレムに亀裂が走り、ついにその巨体が崩れ落ちた。

 ルーチェの手許に【六】が浮かんでいたのが目に映った。


【経験値を1343取得しました。】

【レベルが46から49へと上がりました。】

【スキルポイントを3取得しました。】


 ついにレアモンスター、ミスリルゴーレムを撃破した。


「よしっ! よくやった、ルーチェ!」


「よかったですぅ……。アタシもう、二回連続で外したときは、どうしてこんなときに限ってこうなるのかと……」


 ルーチェが深く安堵の息を吐き、床へと力なくしゃがみ込む。


「四回中二回【六】を引けるのは、普通に恵まれてるからな……?」


 俺もルーチェの幸運力があっても、運の偏り次第では五回、六回〈ダイススラスト〉を引いてもらうことになるだろうと覚悟していた。


 これでミスリルが手に入る上に……俺のレベルも、かなり上がってきた。

 スキルポイントにちょっと余裕ができてきた。


 そろそろ〈マジックワールド〉の重騎士らしい戦い方ができるようになってくる頃合いだ。

 爆発力のある〈燻り狂う牙〉を先に延ばすか、不安定な〈燻り狂う牙〉を安定化させる〈重鎧の誓い〉を先に延ばすのかは、なかなか悩み所だが。

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