第49話

「早速アタシの武器が見つかっちゃいましたね! 後は軽くスマイルを狩って、レベル上げとアイテム収拾ってところですか?」


 洞窟を進む道中も、ルーチェはずっと嬉しそうに〈黒鋼のナイフ〉を握り締めていた。


「そうだな……まずは軽くスマイルを十体くらい狩って、レベル上げとアイテム収拾を行っておきたい。その後は、HPやポーションの減り具合……時間を鑑みて、臨機応変にってところか」


「じゅっ、十体ですか!? 確かに先のスマイルはノーダメージで倒せましたけれど……結構エルマさん大変そうに見えていましたが、大丈夫なんですか?」


 大変そうに見えた……か。

 確かに壁際に追い込んで盾で殴り続けて動きを封殺する必要があるので、少し忙しく見えるかもしれない。


 ただ、命の危険はほとんどない上に、スマイルの動きは単調であるため、読み切るのはそう難しくない。

 エンブリオ戦やマリス戦に比べれば、半ば流れ作業のようなものである。

 むしろ物足りないくらいだ。


「黒鋼装備の市場価値が一本四百万ゴルドと少し……。四本集めて、ようやく〈輝くラーナの飾剣〉と同程度の金になるんだ。確定ドロップというわけでもないし、十体くらいは倒しておきたいな」


 最低でも〈輝くラーナの飾剣〉二本分くらいは稼いでおかなければ、わざわざ冒険者の都ラコリナまで移った甲斐がないというものだ。


「……それって黒鋼装備が安いんじゃなくて〈輝くラーナの飾剣〉がとんでもなく高価なだけじゃないですか?」


「だとしても前回の探索に比べて大きく儲けが減るのはちょっとな」


 前回が上手く行きすぎたのは承知の上だが、それでもレベルが上がって実入りが下がるのは少ししょっぱい。

 目標は高めに設定し、積極的にドロップアイテムを狙っていきたい。


「あのぅ……エルマさんの金銭感覚、壊れてきてませんか?」


「レベルが上がれば、扱うアイテムの価値も指数関数的に上がっていく。もっと上のレベルの冒険者になれば、数千万ゴルドのアイテムを売買するなんて珍しいことでもなんでもなくなってくるぞ」


「何のためにそこまでお金を……?」


 今更ルーチェは何を言っているのだろうか。

 その答えは決まっている。


「強くなるには金が必要だからな」


 高価な武器を揃えれば冒険者として有利になることはいうまでもない。

 ただ武器もできれば、状況に応じて使い分けるために数本は用意しておきたいところだ。

 他にも回復用のポーションに、簡易的に魔法を発動できる魔石なんかも、高額のものを所有しておけばいざというときの保険にもなる。

 アイテムは高ければ高いほどいい。


 〈技能の書スキルブック〉だってそうだ。

 ある意味、装備以上に大事である。

 だからこそ俺は〈破れた魔導書堂〉で五千万ゴルド分のアイテムを用いて〈燻り狂う牙〉を購入したのだ。


 ふざけた値段設定ではあったが、仮に〈燻り狂う牙〉があの十倍の値段にされていても俺は購入を諦めなかっただろう。

 〈マジックワールド〉では、お金の使い道など無数にある。

 いくらあっても困るものではない。


「目的と手段が逆転していませんか……?」


 ルーチェがやや引き攣った顔でそう口にする。

 俺は咳払いを挟んで誤魔化した。


「と、とにかく、スマイル自体はそう苦戦する相手じゃない。数を倒すのも、そう難しいことではない。動きが単調だから、相手の強みを潰して封殺するのは簡単だ」


 見つければ壁際に追い込み、盾で殴って動きを抑える。

 これを十体分繰り返せばいいだけだ。それだけでノルマ達成である。


「数が出てきて囲まれでもしない限りは、決して苦戦する相手じゃない。特に群れる性質のある魔物でもないから、不安要素は……」


 前方からドン、ドン、ドン、ドンと音が聞こえてきた。

 通路の先から四体のスマイルが転がって来る。


「言ってた傍から来ましたよぅっ!? 明らかに群れてますよっ!!」


「……珍しいな、スマイルが群れるなんて」


「け、結構危なくないですか? 逃げた方がいいんじゃ……」


「いや、スマイルには〈加速〉がある。素直に迎え討った方がいい」


 逃げ切れないわけではないが、背中を複数のスマイルに狙われ続けながら走り続けるくらいならば、戦った方がまだ安全だろう。


「それに……これくらいの敵が、一番張り合いがある。地道にスマイル狩りもいいが、少し物足りないと思っていたところだ。ここで一気にレベルとアイテムを稼がせてもらうことにしよう」


 俺は剣をスマイルの群れへと向ける。

 丁度ルーチェの武器も強化されたところだ。

 

「ルーチェ、ここからは〈ダイススラスト〉で頼む。とにかく奴らの数を速攻で減らすことを第一にするぞ」


「は、はいっ!」


 普段群れないスマイルが群れているということは、そこには何かしらの理由があるはずだ。

 俺はスマイル達の顔付きを一体一体確認し、内の一体が目の傾きが違うことに気が付いた。


 通常のスマイルは笑顔を浮かべているのだが、極端に目尻が下がっており、まるで泣き顔のようになっている個体がいた。

 あれはスマイルではなく、希少種のクライだ。

 通常は群れないスマイルを束ねて指揮する能力を持つ。


 スマイルが群れで出てきた時点で可能性を考えてはいたが、確証を持てると、自然と笑みが零れてきた。

 クライは出現率こそ低いものの、倒せば高確率でレアアイテムをドロップしてくれる。


 幸運力の高低は、レアな魔物の出現率にも影響する。

 クライが出てきてくれたのは、恐らくルーチェの〈豪運〉の幸運力上昇効果によるものだ。


「ルーチェのお陰だな」


「もっ、もしかしてあの群れ、アタシのせいなんですかぁっ!?」


 俺の言葉を勘違いしたらしいルーチェが、戸惑い気味に声を上げる。


「いや、そうなんだが、そうじゃないというか……」

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