第25話 スーパー懺悔タイム その3
エリクサー?
あの……伝説の回復薬?
「瀕死の状態の余でも全開させる薬だ。貴様のような低次元の魔術師であれば、グチャグチャの状態から死んでも1000回以上は蘇ることができるだろう」
まさか……と、僕の表情はどんどんと青ざめていく。
「つまり……?」
「だから、この短剣は余の慈悲だ。自害するか……エリクサーを飲んでケルベロスの群れの中に放り込まれるか。どちらかを選べ」
「な……」
「四肢を食われても、内臓を漁られても、ミンチにされても貴様は死ねない。死にたくなっても、苦痛から解放されたくなっても、エリクサーの効力が切れるまで、それまで貴様は死ねんのだ」
何を冗談を言っているのだと思ったが、クラウスの表情を見て……僕のズボンが温かいモノで濡れた。
それは、一切の感情をこめていない表情だった。
怒りでも悲しみでもない、僕を路傍の石ころ以下として……あるいは、ただ決められた刑罰を執行する熟達した死刑執行人かのように。
その瞳には、何らの喜怒哀楽の色もなく、ただただ深い闇色しか見えない。
「それと……決闘の前におかしなことを言っていたな? 戦闘の優劣を決めるのは血統……だったか?」
「あ……ぁ……クラウス……ゆる……ゆるし……て……」
「かつて、余が未熟だったころの話だ。余はエリクサーを大量に服用し、地獄の深淵――冥府をさまよい歩いたことがある。魔神どもに好きなようにやられ、臓腑が飛び出し、腕がもげ、怪物の胃酸の海の中で長時間遊泳したこもな。まあ、何度も何度も絶命したものだ」
そうして、クラウスは小さく頷きこう言葉を続けた。
「だから、余は強くなれた。戦いの優劣は確かに才能だけが決めるものかもしれんが、常軌を逸した修練は時に才能の壁を超えることもあるのだ」
「ゆる……許して……許して……ください……」
「まあ、貴様にも第三の道は残されている」
「第三の……道?」
「余と同じことをすれば良い。チャンスは1000回以上あるぞ? 見事ケルベロスを打倒した暁には、その功績を認めて無罪――現世に戻してやろう」
「む……む……無茶だ! そんなの無茶だ! 辞めてくれ! もう――辞めてくれ!」
「そう言われて、貴様はクラウスを許したのか?」
そこで、クラウスの表情に初めて……小さな、本当に小さな怒りの色が見えた。
「――弱者を苛める輩は余は好かん」
「あ……」
「立場が入れ変わっただけで簡単に命乞いとは――笑止千万。そもそも、クラウス少年は弱者ではない」
「……え?」
「自分の実力と才能を見極め、挫折を乗り越え、その上でクラウス少年は転科を選んだのだ。騎士学院で生き抜くために、必死に勉学に勤しんだそんなクラウス少年に――貴様は何をした?」
「クラウス少年って……クラウス……お前は……いや、お前に……何が起きた!? お前は……何者なんだっ!?」
「貴様のようなゴミに名乗るには、余の肩書はいささか高貴に過ぎる。そしてタイムオーバーだ。慈悲を受け取らぬのであれば、もう良い」
そうして、ルシウスはパチリと指を鳴らし――
「――不愉快だ。消え失せろ」
そして気づけば、僕は飢えたケルベロスの群れの真ん中に佇んでいたのだった
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機神学院の落第操者 ~虐げられ続けた無能少年は、実は更に強くなるために400年前から転生してきた魔王でした~ 白石新 @aratashiraishi
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