第24話 スーパー懺悔タイム その2

「慈悲をくれてやる。選べ」


「……選ぶ?」


「その短剣で自害か、それとも――」


 パチリ。


 クラウスが指を鳴らすと同時、僕がさっきまで見ていた全身鏡の表面が漆黒に包まれた。


「……これ……は……?」


「第9階梯:地獄門(アビスコーリング)」


 良く見ると……鏡には、薄暗い荒野の光景が映っていた。


 いや、これは既に鏡ではない。


 全身鏡サイズの亜空間への入口というシロモノとなっていて、向こう側から異質な臭いと風すらもこちらに吹き込んでいたのだ。

 

 と……そこで、向こう側の遠くに、10体ほどの巨大な狼がいることに僕は気が付いた。


「あれは……狼? いや……違う」


 そう、あれは狼ではない。


 古代の魔物の文献で見たことが……ある。


 頭が3つで……巨大な……そう、あれは確か――


「……地獄の番犬……ケルベロス?」


「博識のようだな? まあ、ご察しのとおりアレはケルベロスだ。何、心配することは無い……。鏡を通してこちらからあちらにはいけるが、あちらからこちらに来ることは叶わん」


 どういうことなんだ?


 何故、冥界と現世がつながっている?


 大がかりな儀式も人数も時間もなしに……クラウスは一人で冥界と現世をつないだとでもいうのか?


 そんなことは神代の魔術師……9階梯でもないと……。


 いや……違う。言っていたぞ。


 ルシウスは確かにさっき、第9階梯と言っていた。


 しかし……そんな……馬鹿な……。


「ク、クラウス? 何を……何を考えている……? いや、何をする……つもりなんだ?」


「クリートよ、知っているか?」


「……な、な、何をだ?」


「あの日――。貴様らに暴行を受けた後、クラウスは狼の群れに襲われたのだ」


「自身のことをクラウスだと? 何を他人事のように……」


「実際に他人だからな。しかし、余にも義理がある。故に余は今まで貴様らのようなゴミクズの相手をしてやっていたのだ。まあ、つまりはクラウスは狼に襲われたわけだ。そして、だからこそ、余はこういう趣向を考え付いたという次第だな」


 そう言うと、続けざまにクラウスは懐から瓶を取り出した。


「ええと、それで……貴様が余に使う予定だったのは毒だったかな?」


「その瓶の中身……毒? それを使って僕に自害しろと?」


「いいや、これは薬だ。それも……とびっきりのな」


「……薬?」


「今の余には貴重な物資だが、虎の子をくれてやる。エリクサーだ」


 エリクサー?


 あの……伝説の回復薬?


「瀕死の状態の余でも全開させる薬だ。貴様のような低次元の魔術師であれば、グチャグチャの状態から死んでも1000回以上は蘇ることができるだろう」

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