第13話 犠牲者二人目:クソ眼鏡、夜の山賊団に菊が散る 後編
「その団長とやらはソレのことか?」
暗がりの洞窟内。
クラウスの指さす方向に目を凝らしてみると――そこには地面に突っ伏し、横たわる団長の姿がありました。
「あ……」
「貴様らの目論見は分かっていたからな。先回りしてここを壊滅させておいた」
一足先に……壊滅?
このアジトには100人を超える山賊……第5階梯以上の猛者も10人じゃきかないはずで……。
「無論、全員殺害している。余が今後支配する世界には犯罪者などは必要ないからな」
恐ろしいほどに静まり返っている洞窟内。
よくよく考えてみれば、そんなことが有り得るのだろうか?
連中は今は酒盛りをしているはずで……バカ騒ぎの声がここまで聞こえてこない……なんて。
まさか……まさか……こいつは本当に……?
「あ……あ……」
「弱肉強食……力で奪われるは必然だ。されど――そこには美学がなくてはならぬ」
「あ……あ……あ……」
「公正にして適正な力の認定、そして競争により選別された優れた者による規律に乗っ取った支配と搾取……それこそが自然の姿であり、歪み無き美しき黄金律となる」
「本当に……壊滅させたのですか?」
「阿呆か貴様は? 余は宣告そう言ったであろう」
「で、で、では……先ほど私たちを追いかけていた黒い影は?」
「分身影(ナイトメア)だ」
「分身影(ナイトメア)……?」
「余の分身――第5階梯程度の雑魚だが、貴様ら程度を屠るには十分だ」
「そ、そ、そんな馬鹿な! 第5階梯の影を作りだすなど……っ!」
「さて、貴様への因果応報は……どうしようか」
「い、い……因果応報?」
と、そこでクラウスは「はてな?」と小首を傾げた。
「まさか貴様――このままタダで済むと思っているのか?」
何を当たり前のことを……という風にクラウスは真顔で応じた。
「ふむ……ここに山賊団の躯がたくさんあるな」
そうしてクラウスはパチリと指を鳴らす。
すると、山賊団の団長が起き上がり、奥からゾロゾロと山賊たちがやってきた。
ただし、全員の瞳には精の色はなく、首が180度曲がった者や、四肢を欠損しているものもいる。
「こ……これは……アンデッド……?」
「うむ。そして、生前のこやつらの記憶を少し改ざんさせてもらった」
アンデッド作成?
使役屍霊の記憶を改竄?
何を言っているのだこいつは?
そんなこと……第9階梯の屍霊術師で……それは最早、この時代を生きる人間の業ではない。
「つまりだ……リチャード。この者たちは、余が貴様であり、貴様が余である……という風に考えている。そういう風に設定したからな」
ゾクリ。
その言葉を聞いて、私の全身が粟立った。
それは……それはつまり……さっき私が彼らに下した命令を、私に実行されるということ。それはつまり――
――殴られ、蹴られ、監禁され、尻を掘られ、徹底的にやられるということだ
「ああ、そうそう。言い忘れていたことがあった」
「言い忘れていたこと?」
「余は何もせんぞ? ここで貴様がひどい目に遭うのを眺めているだけだ」
先ほどクラウスに言った言葉を……そのまま返された。
そしてクラウスは一切の感情の色を込めずに言葉を続ける。
「――まあ、不可抗力で死んでしまうかもしれんが。しかし安心しろ。死体の処理に余は手慣れている。これでもかつては数万の不死者(アンデッド)を率いていたこともあったのでな」
と、そこでクラウスは「話はこれで終わりだ」とばかりにパンと掌を叩いた。
「まあ、眺めているというのは嘘だ。余も暇ではないのでな……貴様はこのままこやつらに好きにされるが良い。運良く生きていれば……連れ帰ろう」
スタスタとクラウスは洞窟の入口から外に出ていく。
「待って、待って……謝りますから! ごめ……ごめんなさい! 許してください!」
私の懇願を受け、クラウスは後ろ手を振りながらこう言った。
「詰んでいるのだよ貴様は。泣いても叫んでも容赦せんと言ったのは貴様だろうに?」
「あ、あ、あ……悪魔だ……」
「悪魔? 何を勘違いしている」
少しの間、クラウスは押し黙る。
そして凄惨な笑みと共にこう吐き捨てたのだ。
「――余は魔王なり。悪魔呼ばわりとは……不敬である。こちらも生憎と……少年の慟哭を聞き届けておるのでな」
そうして、山賊団の団長が私の腕を掴んできた。
万力のような力で腕を締め付けられ「ひいっ!」と肺から小さい悲鳴が上がる。
次々にアンデッドたちが私の四肢を掴み、地面へと引きずり倒し――
「あ、あ、あ、アアアアアアアアアアアアアっ!」
そして終わらぬ悪夢が始まり――。
私の心は、24時間と持たずに壊れたのだった。
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