第11話 クソ眼鏡、裏家業の大人を数十人集めたのに瞬間で壊滅させられました。

 サイド:ルキア




 その日の晩――



 リチャードに山奥に呼び出された余は30人の山賊に囲まれていた。


 ちなみにこの場所はクラウス少年が命を失った場所でもある。


「これは何のつもりだリチャード?」


「ふふふ……しかし、まさか呼び出して本当にホイホイついてくるとは思いませんでしたよ。まあ、おかげで他の手荒な方法を使わなくて済みましたが」


「だから、何のつもりだと言っている」


 そこでリチャードは眼鏡の腹を人差し指で押さえ、冷たい声色でこう言った。


「だって貴方……先祖返りして力を手に入れたのを良いことに復讐の戦争を始めちゃってるでしょ?」


「戦争……とな?」


「カリーナも消えて、アドルフも背骨を破壊された。そして貴方の覚醒――私も身を守る必要があるのです」


「……」


「なので、私も戦争の準備をさせて貰いました。私の親は暗黒街の裏ギルドの元締めで――荒事に精通していましてね?」


 まあ、大体の状況は把握した。


 しかし、戦争か……と、余は思わず笑ってしまった。


 たかだが30人程度の人数を集めて、戦争の準備とな?


 かつて数十万の軍勢を率いていた余からすると、失笑を禁じえん。


「で、結局のところ、余をどうするつもりだリチャード」


「え? 私は何もしませんよ」


「何もせん……とは?」


「私はただここで貴方がひどい目に遭うのを眺めているだけです」


 冷たい微笑を浮かべながら、リチャードは更に言葉を続ける。


「殴られ、蹴られ、監禁され、尻を掘られ――徹底的にやります。そう……復讐なんて気を起こさない程度にね」


「なるほどな。しかし、それをしては余が死んでしまうとは思わないのか?」


「ああ、殺す気はありませんよ。ただし――」


 リチャードはニコリと笑い、静かな口調で続きの言葉を言い放った。


「――不可抗力で死んでしまうかもしれませんが。しかしご安心ください、そこはプロにお任せしているので死体処理はお手の物ですよ」


「正気かリチャード? たかが30人程度で――余をどうこうできるとでも思っているのか?」


 余の問いかけにリチャードはおどけた様子でクスクスと笑い始めた。


「ああ、そうそう5階梯のデコピン……でしたっけ?」


「うむ」


「この山賊団は有名な賞金首集団でしてね?」


「……何が言いたい?」


「この場には貴方と同じく5階梯に達している人間が総数2名いるのです。更に言えば7階梯に達しているS級賞金首……虐殺鬼:バラッドが首領です」


「ふむ……7階梯の術者はこの場には見当たらぬが?」


「アレを使うには流石に値段が張りますからね。山賊団の本体はこの山のアジトで宴会中ですよ」


 さて、これ以上の問答は無用だな。


 余は降りかかる火の粉は容赦なく振り払うのが信条だ。


「この私を貴方は一時的にも恐怖させてしまったのです! さあ、泣いて謝りなさい! 泣き叫びなさい! 土下座しなさい! そうすれば少しはこの後の地獄が楽になりますよっ!」


 ハハハと腹を抱えてリチャードが笑い始める。


「やってしまえお前たち!」


 そうして、余を取り囲む山賊たちはゆっくりと歩を進めてくる。


 それぞれがニヤけ面で、緊張感の欠片もない様子だ。


「さあ、泣け! 叫べ! 泣きわめけ! 命乞いをし――――ろ?」


 パチリと余が指を鳴らすと同時、5階梯の術者という二人がその場にドサリと崩れ落ちた。


「な、な、な……何を……したんです……?」


「指をパッチンしただけだが?」


「指パッチンをしただけで……人は倒れないでしょう? しかもこの二人は……ご、ご、五階梯の実力者なのですよ?」


「ああ、そのことか。これはただの指パッチンではない。今のは――」


 余はしばしの間押し黙った。

 そして大きく大きく息を吸い込んで余はリチャードにこう言ったのだ。


 

「――第6階梯の指パッチンだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る