13

 引き止めたいけれど、息が上がってしまい、声が出ない。肺が痛くなってきた。頬を伝うのが汗なのか、涙なのか分からない。ただ、がむしゃらに彼女を追いかけた。


 僕は彼女が手を引いて外に連れ出してくれるのが好きだった。彼女が誘ってくれるのが好きだった。


 彼女に向かって手を伸ばすけれど、手は届くはずもなく空を切る。


 今度は僕も一緒に連れて行って。置いていかないで。ミイの居ない世界なんて耐えられないんだ。


 急に目の前に茶色いタイルが迫る。僕は足が縺れて転んでいた。


 待って、待って、待って、置いていかないで。お願いだから、僕の名前を呼んで。僕の手を引いて。


 デパートで迷子になって、母親を求める小さい子供のようにうずくまり、泣きじゃくっていた。


「大丈夫? りーくん」


 姿を認めるよりも早く、僕は声の主に縋り付いていた。


 ああ、ミイだ。ミイが僕の所に戻ってきてくれた。


「ど、どうしたのりーくん?」


 息切れと嗚咽が混ざって、上手く声が出せない。


 もうどこにも行かないで。


 ごめんなさい。僕は謝りたかったんだ。あの夏の日にミイを拒絶してしまったのを、僕の意味の無い強がりのせいでミイが死んでしまったのを、ミイに戻ってきて欲しいと願ったのに、戻ってきてくれたミイを拒絶してしまったのを。


「大丈夫だよ。もう、大きくなったのに昔から泣き虫なんだから。ほら、男の子なんだから、泣いてたらカッコ悪いよ」


 小さい頃から僕は泣き虫だった。中学生になってからはマシになった。でも、心の根っこの部分は変わっていない。


「ごめっ……っ……あり……」


 拒絶してごめんなさい。強がってごめんなさい。手を引いてくれてありがとう。戻ってきてくれてありがとう。そんな言葉が頭の中で浮かんでは、ぐちゃぐちゃに混ざり合い、口から出てゆく前に消える。


「こんな所で泣いてたら、みんなに見られるよ。さ、立って」


 僕は言われるがままに立ち上がった。


「ん」


 言いながら彼女は僕に手を差し出した。

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