第10話 再会
ヴェノムと呼ばれている化け物たちを倒して回った。
最後の一匹を倒して、すぐ近くのビルの屋上に飛び移り、現場の様子を眺めていた。
被害を出さないように立ち回ったが、既に起きてしまった被害はどうしようもない。幸いにして人的な被害こそなかったものの、民家が一件半壊していた。
半壊した民家の元にパトカーがやってきて、警官たちが手慣れた様子で立ち入り禁止のテープを貼って区画する。
どういう扱いになるのだろうか。拾った新聞を読む限り、ヴェノムや魔法少女という存在は公のものにはなっていないように思う。
さっきの野次馬少年は何かを知っているようだったが、近くにいる者たちは「何を言っているんだ?」という顔をしていた。こんな化け物が公になっていたら、皆が知っていなければおかしい。
おそらく今回の被害はガス爆発か何かが起きた事故として処理されるのだろう。現場の処理をしている警官たちがヴェノムのことを把握しているかどうかは不明だが、上の立場にいる者はヴェノムの存在を知っているに違いない。
この世界の事情を知る必要がある。ヴェノムのことを、ヴェノムと戦う者たちのことを知るために。
いっそ警察本部に突撃してみるべきだろうか。
警察本部への侵入経路を考えていたとき、一つの気配を探知した。
その気配はこちらに近づき、同じマンションの屋上へと飛び移ってくる。
「あなたは何者なの?」
屋上に降り立った少女はフリフリの白い衣装を身にまとい、杖のようなものを所持していた。
俺がイメージする魔法少女そのままだ。
当たり……か。
事情を知っていそうな少年が魔法少女と言っていた。目の前の少女は渦中の人物だろう。
どうやら警察に突撃する必要はなくなったらしい。
「あえていうなら、俺は魔法おっさんだ」
魔法を使いヴェノムという化け物を倒す少女たちを魔法少女と言うのなら、同じ魔法ではないだろうが、俺も魔法を使ってヴェノムを倒すことができる。
であればおっさんの俺に相応しい呼称は魔法おっさんに他ならない。
「ふざけないで」
「そういうお前こそ随分とふざけた格好を……ん?」
コスプレの様な恰好をまじまじと見つめると、少女は恥ずかしそうに腕で身体を隠す仕草をする。どこかで見たような動きだ。
俺は彼女とどこかで出会っている……?
少し考えて、思い出した。
「あのときの裸少女じゃないか」
こっちの世界に戻ってきたときに、目の前で裸になっていた少女だ。
やはり彼女は訳アリの人物だったらしい。
「なんのこと?」
少女は困惑している。
俺が着替え中に突然出現した変質者だとは気がついていないようだ。
そういえば仮面をしたままだった。
仮面を外して、「よっ」と手をあげて挨拶する。
「あ、あなたはあのときのッ!」
顔を真っ赤にしながら驚いている。
初々しい反応が微笑ましい……かと思えば、急に警戒心をあらわにする。
「どうして認識阻害が効いていないの?」
「認識阻害……?」
「こっちが正体を明かさない限り、元の私と魔法少女の私は繋がらないはずなのに」
「そんなものがあるのか。仲間の魔法少女同士にも認識阻害が働くなら不便じゃないか?」
「魔法少女には認識阻害が効かないよ」
どうやら魔法少女という存在は複数いるらしい。
「じゃあ魔法おっさんの俺にも認識阻害が効かなかったってことだ」
「あり得ないよ。男の人が魔法を使えるなんて聞いたことがない」
「あり得ちゃうんだな、これが」
手から雷を発生させる。
ただの自然現象でも、ただの手品でもないことは一目瞭然だろう。
「うそ……本当に魔法おっさん、なの?」
「現にあれを見ろ」
半壊した家を指さす。
「もしかしてヴェノムが?」
「俺が来たとき、あの家の人たちはヴェノムとやらに殺される寸前だった。ぎりぎり間に合って魔法を使って倒した。魔法少女のお前が間に合わなかった分を、俺がしりぬぐいしたようなもんだ」
魔法は男が使えないらしい。突然魔法おっさんの俺が現れたなら、不審に思うことは仕方のないことだ。
でも一方で、俺は彼女たちが取りこぼしかけた命を守った。
「感謝してくれてもいいんじゃないか?」
「……ありがとうございます」
素直な子だ。
前に着替えを見てしまったときにも思ったけれど、相当性根の真っすぐな少女のようだ。
「俺の名前はウラシマだ。お前の名は?」
「スノーラビット」
「それは魔法少女としての名前だろう。普段の名前は?」
「……壱牧くるみ」
「俺に聞きたいことはたくさんあるだろう?」
くるみちゃんが頷く。
俺も尋ねたいことは色々とある。魔法少女のことをもっと知る必要があった。
話すべきことは多い。おそらく長い問答になるだろう。どうせなら座ってじっくり話したい。
「くるみちゃんの部屋に行くか」
「へっ?」
予想外の言葉だったのか、ぽかんと口を開けた。
「だ、駄目だよ! 男の人をあげるなんて……」
「一度あがってるから大丈夫だ」
「そういう問題じゃ……」
「一度も二度も変わらないだろう?」
「そうなの、かなぁ?」
顔を傾げながら困惑している。しかし強く拒否はできないようだ。押されると弱いタイプらしい。
悪い男につけこまれないだろうか……。
現在進行形でつけこもうとしている俺が言えた義理じゃないが。
「早く行くぞ。ついてこい」
家がある場所は覚えている。
彼女の意思を無視して強引に移動を開始すれば、「えぇ!?」と驚きながらも後ろをついてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます