第39話 遠征!


遂にリミットギリギリの8月に突入した。

今俺は何しているかというと新幹線に乗っています。



向かっている先は広島県です。

何故こうなったかというとお察しの通り、天見監督が行けと命令されたので大人しく行くことにしました。



というのは半分冗談で、天見監督の高校時代のチームメイトの西さんという選手のはとこが広島で野球をやっているらしく、いい投手らしいので見てきてスカウトしてきてとお願いされた。



そこまでいうなら監督が行けばいいのにと思ったが、さすがにそんなことを言える立場でもない。


軽い旅行と思えば気分も楽なんだが、このくそ暑い夏の炎天下でわざわざ野球を見に行きたくはない。




天見さんは投手ばかりピックアップしている。



確かにいい投手は何人いてもいいし、双子の投手の結衣さんも悪くない投手だったが、投手はどうしても怪我が付き物なので、エース1人だけだと怪我した時にもうチームとしての力がガクッと落ちる。



一学年余裕があるなら4.5人はいてもいい。

だが、それは一学年30人とかいる場合で15人のうち5人の投手はさすがにやりすぎだ。



野手兼用ならそれでもいいが、投手としてのプライドもあるだろうし先発できずに野手としてのモチベーションが下がられても困る。



俺もさすがに1人くらいは自分で投手を見つけてもいいかなと思っていた。

と考えながらももうスカウト出来るのは1ヶ月だけだ。



「あちぃ。広島だろうが福岡だろうが夏は暑いよな。」




広島の呉にその選手がいるらしい。

呉まではバスに乗って行くが、途中高速道路を通ってバスの窓から見た海がとても綺麗だった。



バスで呉について、そこからまたバスを乗り換えて教えてもらった練習場に向かうことにした。




練習場に行くと誰もいなかった。

夏休みとはいえこんな暑い中真昼間に練習しているチーム自体少ない。



大体朝早くから昼前に終わらせるか、それか夕方の5時から8時過ぎとかまでが多い。




俺は呉に来ても特にやることもなかった。

しかも少し離れた野球場に来てしまって、また街中に戻るのもめんどくさい。



俺は球場の周りを散策して、日陰と風通しが良さそうな海の見える場所を確保して昼寝することにした。



たまには土日なにも考えずに昼寝するのもいいなと思いながらゆっくりとしていた。

そうやってぼけっとしているといつの間にか昼寝していた。



起きたら朝!ということは無く、ちょうど午後4時くらいになっていた。



そろそろ早く練習に来る選手たちはランニングやトレーニングを始めててもおかしくない。



俺は練習場に選手たちが来ていないかを確認しに行った。

やっぱり思った通り早めにきて少し練習をしている子達がいた。



みんな体格が小柄で少し幼い気がしたので、多分下級生が早めに練習をする為に集まっていたのだろう。



練習はどうしても上級生優先となるので、下級生は早めに来て練習をしないと少し練習量が足りなくなる。



トスバッティングをしたり、バント練習をしたり、投手らしき子はピッチング練習をしたりもしていた。




「こんにちは。君たち呉オーシャンガールズの選手だよね?ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」




俺は練習前に他の選手からの評価を聞けるなら聞いておこうと思った。

チームメイトの話はどんなスカウトの話よりもわかりやすいし、1番は性格がすぐに把握できるのでそれが助かる。




「こんにちは!そうですよー。」




「3年生の西さんっていう選手のこと教えてもらいたいんだけど…。」




「西先輩ですか…。」




西って名前を出した瞬間顔が曇ってしまった。



この反応は多分言いづらいことがあるのだろう。

それは本人からなにか口止めをされているか、本人にもし聞かれたらまずいことがあるか。




「最近よく聞かれるんですが、西選手が直接聞きに来いって言えって言われてて。」




直接聞きに来いか。

相手がそう言うスタンスなら俺もやりやすいし、最初から相手を拒否するようなタイプなら俺にはどうしようもなかった。




俺は彼女の到着を待つ間、彼女達の練習を見ていた。



質問に答えてくれた1年生らしき女の子に簡単な指導をしてあげて、スイングを矯正する方法を簡単に教えてあげると次々に自分の元に女の子が集まってしまい、ちょっとした野球講座をやることになってしまった。




練習開始時間になると上級生達も集まってきたが、1年生たちはまだ聞きたいことがありそうだったが練習の用意を開始しに行った。




上級生にも西さんのことを聞こうと思ったがやめた。

下級生が怖がっている感じなので、同級生に聞いても同じような答えが返ってくるような気がした。




5時から練習開始したが、どの選手が西さんか分からなかった。



しかも天見さんからはいい投手としか聞いていないので、他のことはわからなかった。



もし投球練習をしなかったらどう判断したらいいのだろうか。



練習が始まってキャッチボールとかを見ている感じ分からなかった。

そしてやっと実践的な練習が開始したなと思ったタイミングで1人の女の子が現れた。




「絶対あの選手だ…。面倒くさそうな選手だから俺に行かせんだな。」




俺は心の中で天見さんを少しだけ恨んだ。




呉オーシャンガールズは青を基調としたスカートタイプのユニホームで、爽やかさと可愛さを兼ね揃えた人気の出そうなユニホームだった。



練習ではズボンやパンツの選手もいるが、西さんはくるぶしまでの長さの案外ピタッたとしたストレートズボンに、上のユニホームをズボンの中に仕舞わずにだらっと出してグランドに現れた。



練習が終わって家に帰る男子選手のような感じだ。

帽子を後ろ向きに被り、少し短めの前髪に耳周りはすっきりしていて襟足は結構長めに残している。



確かウルフカットとかいうやつか?


スッキリした耳周りには何色か分からないがピカピカ光るピアスが良く目立っていた。



髪の毛まで金髪だったらどうしようかと思ったが、髪の毛の色は少しだけ明るい茶色だった。




口元が動いてるのでガムを噛んでいるっぽいが、プレーするのにガムを噛むのは俺は悪くないと思っている。

試合場に吐き捨てたりしなければだが。





一言でいうと不良そのものだ。

監督がなにか叱りつけているが、全然聞く気がない。



これを見てよく分かった。

スカウトにきたが多分獲得を断念するのだろう。

男子選手で不良とかはよくある事だが、女子選手で不良はあんまり聞いたことがない。



かなり自由が効く女子野球だが、暴力とかそういうことには少し敏感なのか?



俺はそこら辺の事情を知らないので、どんなヤンキーだろうが実力が伴ってさえいればスカウトする。



学校での生活態度は俺の知ったことではない。

同級生の学校態度の改善までは流石に仕事内容に入っていない。



入っていないよね?



俺の近くを通った西さんだが、いまさっき来たが髪の毛もしっとりしてるしちょっと息が上がってる気もする。




多分走ってここまで来たのだ。


野球道具の入ったリュックを背負って走ってきたのだろう。

なぜみんなとウォーミングアップをしないのか分からないが、練習はしっかりとしているっぽい。




そんなことを思っていると、ふと俺の前で西さんは立ち止まった。




「お前、さっきからワシのこと見ちょるけど言いたい事あるんやったらなんか言ったらどうなんや?」




話し方も思いっきり喧嘩腰で油断してると殺られそうだ。

挑発に乗ろうか迷ったが、ちょっと上から目線で話してみることにした。




「どーも初めまして。西さんですよね?あなたの実力をはからせて貰いに来ました。」




「ふーん。ならよく見ていくとええわ。」





俺は田舎のヤンキー娘のスカウト作業が始まった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る