第36話 円城寺さん!



俺は野球部の情報を元に、軟式野球部で城南中央中学校という私立の中学に円城寺という珍しい苗字の選手がいたと教えてもらった。




こーちゃんは名前は覚えてなかったが、他のチームメイトは覚えてたみたいだ。

野球の腕を聞いても結構上手かったと思うと言うだけで詳しいことはわからなかった。



みんな口を揃えて言うのはとにかく派手な女の子で、野球のユニホームよりもドレスとか着てた方がいいと言っていた。



俺は中学生でそんなやついるのかと思いながら、近くの試合場で大会の予選をやっているのを大会関係者に聞いて負けていないのを祈って急いで会場に向かった。




「あー。もう6回か。」




今日第4試合目の試合みたいで、ギリギリ間に合ったがこれはまた後日に来るしかないかもしれない。



俺はどの選手が円城寺さんかグランドを見回した。

いや、見回す必要なんてなかった。




金髪で縦ロール?いや、印象でそう見えるだけなのか。

金髪でふわっとくるくると巻いているゆるふわ系?俺は女の子の髪型の名前なんてピンと来なかったが、そんな感じの選手がベンチでティーカップでスポーツドリンクらしいものを飲んでいた。



俺はこんなやつほんとにいるのかと思いながら彼女を見ていたが、どう見ても野球選手には見えない。

ドレス着ていて方がいいっていう印象は間違いなかった。



オレも間違いなくどんな印象か聞かれたらそう答えるだろう。




こういう風変わりな選手というかワガママそうな選手が男子の中にいると、チームがおかしくなる原因にもなると思っていた。



城南中央にはそういう感じの雰囲気を微塵も感じないし、彼女のことを普通のチームメイトてして受け入れていると思う。



俺は見た目で何処ぞのわがまま娘かと思っていたが、ここまでチームに溶け込んでいるということはこのチームの完全な支配者か、ちゃんと実力があって1人のプレイヤーとしてスタメンなんだろう。




「2番セカンドか。いい選手がセカンド多い気がするな。」




6回に彼女の打席が見れたが、ヒットエンドランを敢行して内野ゴロで一応進塁打を打っていた。



アウトコースに外したボール球の変化球をしっかりと打てていたのはいいと思う。



守備も少しだけ見れたが、悪くはなさそうだった。

だが、とにかくキャッチボールやウォーミングアップやノックから分かることが多いし、試合途中から見ても分からないことだらけだった。




「んー困ったなぁ。試合も城南中央が5-2で7回で負けてるし、このままもし負けるとなると試合も練習も見に行けないのは困るな…。」





俺はいい選手かもしれない彼女をこれから見ることが出来なくなるのが残念で仕方なかった。


試合は1点返したが5-3で城南中央は敗退した。




試合後ベンチ裏で監督が選手一人一人に声をかけていた。



みんな泣きながら監督の話を聞いていた。



俺は辞めたので、引退というのは味わえなかったが感慨深いんだろう。



小学生の時は全国大会優勝したから満面の笑みで終わった記憶しかない。





円城寺さんも涙を流していたが、泣き崩れたりすることなく真っ直ぐ背筋を伸ばして堂々していた。



見た目の印象で人は分からないもんだ。

プレーも人となりも知らないのに勝手に先入観で考えるのは良くないと思った。




どうにかして彼女のプレーを知りたかった。

どうにかならないかと思いながら、その機会を伺うためにじっと様子を見ていた。



俺が彼女のことをずっと見ていたことで、流石に視線を感じた円城寺さんとそのチームメイトがヒソヒソとなにかを話している。




「ねぇ、そこのお兄さん。あたしのことジロジロと見てなんでしょう?そんなに熱視線飛ばされると恥ずかしいのですが。」




向こうから俺の方に歩み寄って来た。

喋り方と声色はとてもおしとやかな感じだ。



全く高圧的な感じも受けないし、見ていた俺が悪いと思うくらいには申し訳なさを感じる。





「大変申し訳ないです。ずっと見ていたのは否定しません。信じられないと思いますが、白星高校のスカウトをしている東奈龍です。円城寺さんのプレーを見に試合に来たんですが、来たのが遅くてどんなプレイヤーか分からずに後悔してたのです。」




俺は自分が出来る最大限の敬語を使ったが、相手に伝わったのだろうか?




「初めまして、あたしは円城寺緒花(えんじょうじおはな)です。あたしにスカウトですか…。」




少しだけは伝わったのか、ちょっとだけ考えてもらえる余地はあるのだろう。

クラブチームならだいぶ監督達の間で俺の存在が知られているが、軟式野球だと俺のことを知らない選手も多くて1からやるしか無かった。




「実は…。」




俺は来年コーチになること、その為の試練でスカウトをしていること。

2人だけスカウト成功してること、さっき王寺さんをスカウトしてきたこと。




「というわけです。それで是非円城寺さんの実力も見てみたいと思ったんです。円城寺さんがいい選手ならスカウトしたいと思ってはいるんですが、円城寺さんが望んだスカウトでもないのにテストをさせてもらいたいなんておかしな話ですよね。」




「いえ、そういう事情ならテストをお受けしても構いません。それでスカウトされなければそれまでの選手ということ。スカウトされてもお受けするかは分かりませんがそれで良ければ。」




「本当ですか!ありがとうございます。テストの場所はお任せします。」





「それなら1週間後の午前9時に城南中央中学校にいらっしゃってください。私達を下級生達が送り出してくれる試合をやりますので。」




「わかりました。1週間後の9時にそちらに向かわせてもらいます。」





俺はふと視線を感じた。

黒髪の少しだけ髪の毛が長く、とても大人しそうな子が俺の事を見ていた。




『彼女も城南中央の選手か?ベンチ入りしてたみたいだが、全然気づかなかった。』



その女の子は俺から視線を外すことなくじっとこちらを見ていた。



俺の目からも彼女の雰囲気が掴めなかった。

少し影があるというか人に心を読ませない何かがある。



俺も彼女を見ているとぺこりという感じで頭を下げてとことこと後ろを向いて、去っていった。




背番号は16番。

もしかしたらまだ1度もスカウトしていないショートかもしれない。

控えだから完全にそうとは言えないが、背番号的には内野手なのかも?




俺は彼女が何者かよく分からなかったが、とりあえず今日は疲れたので球場を後にすることにした。






「彼は確か…東奈くん…。」





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