第15話 初スカウト!



今日は4月7日の春休み最後の日。



俺は今日もスカウト活動をしていた。

ここまで1回もスカウトをしていなかった。



俺が想定していたのは、スカウトをしに行っても全く相手にされないということは数多くあるとは思っていた。

今の現状は俺の理想が高いのか、一切スカウトしたいと思う選手にすら会えていないという厳しい現実が俺に重くのしかかる。




「はぁ…。どうしよう。」




スカウトは俺が入学する来年までできる訳では無い。

女子野球クラブチームの3年生は基本的に8月中旬のの最後の大会で引退する。


あと五ヶ月間しかスカウト活動が出来ないのだ。

しかも、あまりノロノロしていると有望な選手は他の高校に決まってしまう。




俺は弱いチームから回っているため、どうしてもいい選手に会える可能性は低くはなる。


精査して気になる選手は全部で30人位ピックアップしたが、ここまで見に行けたのは4人だけだった。



その4人も俺が思ったような選手ではなく、スカウトをするという基準まで到達していなかった。




そう考えると一番最初に試合を見に行った中田さんは結構いい選手だったのかもしれない。

個人的に話をして内野手でもいいという言葉が聞けるのであれば、スカウトしたかった。



最近、あの選手のここさえ良ければとかそういうことばかり思うようになってしまった。

無いものねだりをし始めるとどうしようもないので、考えないようにしているがふとした時にはそんなことばかり考えていた。




今日はPrincessリーグのチームの練習試合を見に来ていた。




たまたま今日の試合は見たい選手がお互いのチームに1人ずついた。

どちらも内野手で、ポジションもどちらもサードという偶然が重なっていた。



試合が開始された早々今日はお互いに打ちまくった試合だった。

5回まで11-8の完全な打ち合いになり、投手もお互いに3人ずつ新しい選手がでてきた。



俺のお目当ての選手は、福津プリンセスの


3番サード椎名暁美しいなあけみ


今日は3安打猛打賞で長打2本で打点4と打撃で大活躍していた。

守備では1つエラーがあったが、今日はこのまま勝てればこの試合のヒーローだろう。



もう1人の選手は、芥屋プリンセスの


5番サード戸根律子とねりつこ



今日は1安打しか打てていないが、あわやホームランという当たりを2本打っていた。

パワーは十分だが、気になることもちょこちょこあった。




俺のつけた点数表はこのような感じになった。

左側の点数が椎名さん、右側が戸根さんのものになる。




総合点


打撃能力


長打力 65 85

バットコントロール 65 55

選球眼 60 40

直球対応能力 50 80

変化球対応能力 75 30

バント技術 どちらとも不明。



守備能力


守備範囲 40 30

打球反応 40 30

肩の強さ 60 75

送球コントロール 65 40

捕球から投げるまでの速さ 50 35

バント処理 不明 25

守備判断能力 45 40

積極的にカバーをしているか 80 20



走塁能力


足の速さ 35 15

トップスピードまでの時間 30 10

盗塁能力 どちらも不明

ベースランニング 30 15

走塁判断能力 40 10

打ってから走るまでの早さ 30 0

スライディング 50 30




この表を見てもわかるように、椎名さんは打撃のレベルもそこそこ高く、守備や走塁面は少し良くないところも目立つが中学生でこのレベルの選手はあまりいない。

守備もしっかりと守ろうという意識は伝わって来るから、練習さえすればもうちょっと上手くなれると思う。



逆に戸根さんは長打力だけでいえば全国レベル。

だが、女性の体のことをいうのはあれだが少し太り過ぎている。

とにかく足が遅く、守備もあんまりよくない。

肩はかなり強いのでサードは適正だろうが、強烈な打球に反応が鈍く記録はヒットだが、ピッチャーとしてはエラーだろと思うようなプレーもあった。




俺はどちらをスカウトするかを迷った。

個人的には打撃だけ見るのであれば戸根さん一択だった。

あの長打力があれば高校に入って確実性をもっと追求すれば九州県内でも1.2を争うスラッガーになる可能性はある。

だが、守備の意識があまりにも低いのが気になった。




俺はどちらか結局決められず、物は試しに両方にスカウトをしに行くことにした。



特待のランクはどうしようかな。

もし話が出来たら何を話したらいいのかな。

どうにか上手くいくといいな。



不安は勿論あるが、成功させて見せるという気持ちの方が強かった。




「あの、すいません。今、ちょっとお話大丈夫ですか?」



俺は、まず椎名さんのいる福津プリンセスの監督に話をしに行った。

監督さんと保護者たちが話していたが、1人になるのを待っていても仕方が無いので、話に割って入るように話し掛けに行った。




「はい?どうしました?」




「いきなりなんですが、僕は来年白星高校の女子野球部のコーチになる予定の東奈龍です。今日福津プリンセスの試合を見せてもらい、椎名暁美さんを白星高校にスカウトさせてもらいたいと思ってお話をさせてもらいました。」




日本語はおかしくないか?

まぁ少しおかしくても別にいいか。

とりあえずオドオドするのはだめだ。




「はぁ。君はまだ高校生?中学生?」




「僕は中学三年生です。」




「中学生がスカウトねぇ…。」




やはりかなり怪しまれている。

俺が中学生だから、犯罪とかそういうことでは無いと思われてるようだが、悪ふざけと思われている可能性が高い。



「一応、僕がスカウトだという証拠はありますので…。」




そう俺は自信なさそうに答えると、白星高校の関係者でないと持っていないであろう、理事長、校長、教頭、監督の天見さんの名刺がまとめられているページを相手に確認してもらった。



「んーなるほど。電話番号も書いてあるし、ここに電話をかければすぐに本物か偽物か分かるけど、誰にかけても大丈夫?」




「はい。問題ないです。」




そういうと福津の監督は理事長に電話をかけ始めた。



「あ、もしもし。福津プリンセスの監督の田中ですが、今スカウトの東奈さんという方が来ていて、はい。はい。そうですか。 わかりました。それでは失礼致します。」




「君はちゃんとしたスカウトみたいだね。それで椎名にスカウトをしに来たんだよね?」




「はい。出来れば椎名さんに白星高校に来てもらいたいと思って…。」




「椎名はもう行きたい高校がはっきりとあって、最近はスカウトが来ても断ってくれと言われてるんだよ。 一応スカウトが来たと伝えてみるけど、あんまりいい返事は期待しないで欲しい。」




「そうですか…。椎名さん位の選手だといい高校から声をかけられてても不思議ではないですからね。」




「東奈くん。中学生なのになぜスカウトしているかは分からないが、大変だろう?もし、うちのチームとかに気になる子がいたら気さくに話しかけて来てくれてもいいからね。」




俺は相手が俺に対して同情や応援しようという優しい雰囲気を感じた今がチャンスと思い、お願いをすることにした。




「あ、あの!こんなことお願いするのは悪いと思いますが、試合相手の芥屋プリンセスの戸根律子さんにもスカウトをしようかと思ってまして、相手の監督さんに僕のことを紹介して貰えませんか?」




「あはは!中々大胆だね。けど、それくらいなら問題ないよ。それじゃ一緒に行こうか。」




俺は心の中でしめしめと思いながら後を付いて行った。




「ということなんですよ。」




これまでの経緯を福津の監督さんは芥屋の監督へ話してくれた。




「なるほど。中学生で来年女子野球部のコーチが内定していて、スカウトまでやらされているのか。」




「やらされているというよりは、自分がやらないといけないことを自分なりに頑張っているだけです。」




「話はよくわかった。スカウトと選手を個人的に話させるのは禁止されているが、君はまだ中学生だし律子と話してみるといい。 彼女には有名高校からのスカウトも来ているから厳しいと思うが、頑張ってみなさい。」




監督をするような人はやっぱり頑張っている中学生とかには少し甘い気がする。



自分が教えている子供達と同じ歳の子供がスカウトを頑張っていたら手助けしてあげようという気持ちにもなるのかもしれない。




「こんにちは。白星高校のスカウトの東奈です。」




「どうも。監督から話は聞いたけど同じ歳なんだって?大変だろうね。」



「いや、そんなことは無いよ。それでスカウトの話なんだけど…。」



「スカウトねぇ。白星高校って女子野球部あったんやね。名前も知らないってことは強くないってことでいいよね? ウチは強い高校に行きたいんよ。」




初っ端から話を聞こうという姿勢になかった。

ここから興味を持たせるにはどうしたら…。



「今年から監督が変わって、女性の監督になるんだよね。高校では2回甲子園出て、大学でも全国大会準優勝してる実力のある監督が就任するからこれから強くなっていく高校だからこそ、戸根さんの力を貸してほしいと思って。」




「うーん。他には誰か有名な選手とかは来るの?いい選手がたくさん来ればチャンスあると思うけどどうなん?」




「それはまだ1人も決まってない…。」




かなりきつい所を責められた。

実力は確かにある。

だからこそ弱い高校に行く理由を探してくれてるみたいだが、ちゃんとした根拠を提示出来なかった。




「それじゃ、今のところは無理かな。 有名な選手とかをスカウト出来てその時にウチが高校決めてなければまたスカウトに来てくれたらまたそんときには考えるよ。」




「そうだよね。その時はまたスカウトさせてもらいに来るよ!」






あっさりと断られた。




けど、これが現実。

一回目のスカウトにしては選手と話を出来ただけ成功したと思うことにした。

ここでへこたれてたら、1人もスカウト出来ない。




俺は丁寧に両監督にお礼の言葉を伝えて、何度も何度も頭を下げた。




「なんにもしてあげられなくてごめんね。」




「いえ!そんな!とんでもないです!話を聞いてもらっただけでとてもありがたいです!」





「なにかしてあげたいけど…。なにか私達にしてあげられることとかは無いかな?」





俺は頭の中をフル回転させて、無理なく最大限の効果があるお願いはないかと考えた。




「あ、もしよければですが…。中学生のスカウトがいるという話を他のチームの方に話せる機会があれば、話してもらえませんか?1から説明するのとても大変で…。」




俺はとても恐縮したような、困ってるんですという雰囲気を醸し出しながらお願いしてみた。




「あぁ!なるほど!確かに大変だよね。わかった!今度大会があるから出来るだけ面識のある監督に君のことを伝えておいてあげるよ。その監督にも他の監督にも広げて貰えるようにお願いしてみる。」





「本当ですか!?ありがとうございます!」




今日一の大きな返事で感謝の言葉を伝えた。




今日はスカウト失敗したが、今日お世話になった監督との面識のおかげでこれからのスカウトが随分とやりやすくなっていった。




今日の失敗は明日の成功の為に少しずつ前に進んでいくのであった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る