第154話 六人六色
まあ、それはともかくとして、最後は俺の番か。自己紹介はなるべく簡潔にするに限る。長ったらしくやっても逆に嫌われるのがおちだ。ていうか、俺は長く自分の話が出来るほど口が上手いわけではないから、むしろ好都合。
「藤本悠太です。よろしくお願いします」
と、無駄のない言葉で自己紹介を終えた俺だが、何故か高坂さんと櫻井さんが目を光らせている。二人は顔を見合わせてうんうん言いながら、うち櫻井さんが俺に向かって問うて来る。
「麗奈先輩とはどういう関係ですか?」
二人は興味津々な様子で上半身を乗り出している。ていうかめっちゃくっついてくるな。
それにしても俺と麗奈は一体どういう関係だろう。人間に勝つ方法を教えてくれる先生のような存在でもり、攻略対象でもある。でも、この事をあの二人に言っても「何言ってんだこいつは」ってなるに違いない。
だから間をとって無難なキーワードにしよう。
「特別な存在です」
「え??!!」
「え??!!」
突然、金沢さんと西澤さが驚いたように奇声を上げる。櫻井さんと高坂さんも、目を見開いて、口をポカンと開けたままだ。高坂さんに至っては顔を若干引き攣らせている。
「ゆ、悠太!何を言ってるのかしら!?間違ってはないけど、言い方というものがあるでしょ?」
驚いたのは4人だけじゃないらしく、麗奈も顔を赤らめて早速突っ込んでくる。
「間違ってはないか…」
金沢さんが独り言のように小声で漏らしてから顔を歪ませている。
すると、いきなり櫻井さんが自分のブラウン色の癖毛を揺らしながら麗奈に聞いてくる。
「麗奈先輩!やっぱり彼氏だったんですね!」
「ち、違うの!」
「そんな恥ずかしがらなくてもいいですよ!こんなに動揺する先輩は初めて見ます!」
櫻井さんはニヤニヤしながら麗奈を肘で優しく突く。
麗奈は顔を赤面して首を横に振って否定するが、周りの人々は信じてくれてないらしい。
「だから違うって…」
麗奈は顔を俯かせて落ち込む様子を見せる。
俺の言い方が間違っているのだろうか。特別な存在ではなく、特殊な存在と答えるべきだったのか。
俺が誤解を招きかねない情報をこの場にいる皆んなに伝えたがために麗奈が今恥ずかしい思いをしている。要するに俺みたいな根暗でクソ童貞コミュ障の彼女として認識されているわけだ。このままじゃ麗奈の評判は駄々下がりだ。誤解は解かないと。
「麗奈は、小学校時代の同級生です。別に付き合ってません」
「な、なるほど」
櫻井さんがそう言って納得顔で頷く。
「藤本さんは、なんかプレイボーイみたいな感じですね」
高坂さんが苦笑いを浮かべて言った。
な、なに?!
「お、俺がプレイボーイ!?」
この男何言っての?俺がプレイボーイだなんて、なんでそうなるの?
「あ!それ思った!ハードル高い麗奈先輩といえども、やっぱり悪い男に惹かれるもんですね!」
櫻井さんが悟った顔で麗奈に伝える
「俺が悪い男?」
「ちょっと!」
「うん?」
今度はツインテールの西澤さんが割り込んできた。麗奈よりゴスロリチックな服装を身にまとい、なにかと萌え要素が強い。顔は可愛い方だと思うが、今重要なのは見た目じゃない。俺を睨んでいることの方が心配だ。
「お姉さまを弄んだらぶっ殺しますよ!」
「こ、殺す!?」
ギロりとギロチンの刃並に鋭い眼光を放つ西澤さん。それを見て俺は鳥肌が立ってしまった。しかし、この殺伐とした雰囲気に耐えかねた冴えない感じの金沢さんが唐突に口を開く。
「に西澤、じょ、常連客に向かってその態度はな、ないだろ」
すると、西澤さんはぷっと鼻で嘲笑って金沢さんに対して煽るように語り出す。
「陰キャの冴えないクソ童貞が何偉そうにもの言ってるのかしら?マジでキモいんだけど?」
「エミリ、いい加減にしなさい」
西澤さんの暴挙を見るに見かねた麗奈が止めに入った。すると彼女は悔しそうに、唇を噛み締めて顔を逸らす。
「わかりました。お姉さま」
なんだか、これって完全に雰囲気がお通夜なんだけど?
6人が座っている個室に沈黙が訪れること数秒。だが、やがて誰かが扉を開ける。
「ご注文のアルコールとお飲み物です!」
ナイス!店員さん!
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