第153話 陽キャ二人と謎めいた二人

 そうだ。今日の夜は麗奈と麗奈の仕事仲間達による飲み会がある。そこで麗奈は、俺のコミュ力上昇のために飲み会に誘ってくれた。最初は仲間達でわいわいはしゃいでるところ、俺みたいなやつが加わったら、雰囲気壊すんじゃないかと危惧していた。だが、麗奈はそんなことないと積極的、というか半強制的に誘ってくれたおかげで今に至る、というわけだ。


 俺はティータイムを楽しむかたわら、飲み会に参加する人たちの情報を麗奈から教わった。


X X X

 

 三宮駅周辺の居酒屋


 ふりふりのついた綺麗な黒いワンピースに着替えた麗奈とカジュアルな服装の俺は、待ち合わせ場所である居酒屋へとやってきた。木曜日なのにものすごい人波だ。


 最近ここは、新しい建物もいっぱい建てられ、街の風景が一変したように思えるほど、活気にあふれている。阪神淡路大震災の面影は、いくら探しても見当たらない。


 いつもの風景なのに、隣に美人が一緒にいるだけでこんなに違く見えてしまうものなのだろうか。実際、通りすがりの社会人とカップル達がすれ違い様に俺と麗奈を繁々と見ている。


「どうかしたのかしら、悠太?」


 周りにいる人々や、きらびやかな建物を見ていた俺を不審に思った麗奈がたずねてきた。


「いや、なんでもない」


 俺の返事を聞いた麗奈は、納得いかな顔でまた問うてくる。


「居酒屋に行ったことあるの?」


「…」


「なるほどね。だとしたらいい経験になると思うわ」


「そ、そうか」


「ええ。だから安心して」


 それからしばらく沈黙が続く。喧騒けんそう溢れる猥雑わいざつな街の風景にもそろそろ慣れる頃、しびれを切らした麗奈が口を開く。


「入りましょうか」


「そ、そうだな。待たせちゃ悪いし」


 こうして俺たちは2階にある居酒屋目掛けて足を動かした。


「いらっしゃいませ!」


 中には従業員達が活気あふれる声で歓迎してくれた。


「もうすぐ二人用の個室にご案内しますので、少々お待ちください!」


「いいえ、連れが中にあるので」


「あ、そうですか!失礼しました!では中へどうぞ」


 全然物おじせず店員と話す麗奈は、どことなく格好良く見えてしまう。


「悠太、こっち」


 麗奈が小さな手を用いてちょいちょいと手招くと、俺は頷いて、ついて行った。


「おお!麗奈先輩!こっちこっち!」


「五十嵐さん!」


 個室に入るや否や明るい表情で麗奈を迎えてくれるのは、ブラウン色の髪をしている女の子と、金髪の男の子。

 

 この二人以外にももう二人がいる。ツインテールをしたいかにも萌え要素が多い印象の女の子と、冴えない感じの男の子。この二人は一つ共通点があって、それが何かというと、俺を睨んでる点だ。あら、な、なんか俺って招かれざる異邦人?


 俺は軽く彼ら彼女らに会釈をしてから、麗奈と一緒に座った。


 配置は下記の通りだ。


 ブラウン髪の明るい女の子、五十嵐麗奈、俺

 冴えない男の子、金髪の男の子、ツインテールの女の子


 麗奈の話だと、みんな俺たちより年下とのことだ。


「悠太、なんか飲む?」


「あ、そ、そうだね。俺は烏龍茶にしようか」


「わかったわ」


 俺のやりとりを4人は興味深げに見ている。だが、ツインテールの女の子と冴えない男の子は、プイッと目を逸らし、ガラスの中にあるアルコルを飲み始める。


 店員を呼んで注文を済ませた麗奈は、はしで酒のさかなつついては、彼女自身の取り皿によそう。

 

「悠太も食べて」


「あ、ああ」


 麗奈のお触れも出たわけだし、いただくとしましょうか。ていうか、ちょっと気まずいんですけど…


 俺が恐る恐るお好み焼きと焼き鳥とを自分の皿に移していると、ブラウン髪の明るい女の子が麗奈に迫ってきて、妖艶ようえんな表情で聞いてくる。


「あんなイケメンがいるから、今まで男性が猛アタックしてきても鉄壁ブロックでしたね〜」

 

善子よしこ…よ、余計なこと言わないで」


「へへ、すみません。というわけで、私は櫻井善子さくらいよしこと申します〜」


 そう言いうと、ブラウン髪の明るい子・櫻井善子は、他のメンバーに目くばせした。どうやら、今から自己紹介タイムが始まるらしい。この流れを素早く察知した明るい金髪の男の子が口を開く。


高坂聡こうさかさとしです。いつもひがしむら珈琲をご利用くださりありがとうございます!」


 あれ、この男、どこかで見た覚えが…


「あ、執事さん」


「そうですよ。執事です」


 いつも俺とゆきなちゃんが授業をやる時、料理を運んでくれる親切な執事さんだと気づいた俺は、小さく会釈した。それを受けた高坂さんもまた頷き返して小さく会釈してくれる。


「さ、エミリも」


 高坂さんがバトンをさっきから不貞腐ふてくされてるツインテールの女の子に渡した。


「に、西澤エミリです…」


 短い自己紹介を終えた西澤さんは、自分を基準に左の端に座っている冴えない男の子に視線を送る。あの視線は、まるで下っ端社員のミスを蔑視べっしするようなよくない感情をはらんでいそうで、正直に言って目障りだ。


金沢健斗かなざわけんとです」


 そう言って、金沢さんは、すぐ目を逸らし、スマホをいじり始める。卑屈なやつだな。まるで、昔の俺を見ているみたいだ。


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