第139話 いいですよ。藤本さんなら
この前のように俺は後部座席に、ゆきなちゃんは助手席に、西園寺刹那が運転席に座るという奇妙な配置だ。
まあ、俺は運転できないから文句言う資格すらないけどね。
西園寺刹那の気に障るようなことをしない限り、事故は起きまい。
どうかこの3人が無事に淡路島の別荘に着き、無事に帰ることができますように。ていうか、俺は一体誰に対して祈っているんだろう。
X X X
一時間くらいかかっただろうか、俺たちは無事に淡路島に足を踏み入れることができた。まず、スーパーマーケットに寄って、食材と炭火などを購入し、別荘へと向かった。スーパーマーケットから車で走って10分くらいの走ると、茂みが出てきて、
茂みと相まってなかなか風情のある雰囲気を醸し出す別荘だ。2階まである木造一戸建てで、綺麗に管理されている。
車から降りた俺たちを歓迎してくれる人はいなく、ざあざあと揺れ動く葉っぱの音が聞こえるだけだ。周りに、他の住宅や別荘は見えない。
「いよいよついた!!」
「ほら!ゆきな!はしゃぐとコケるよ!」
別荘に向かって猛ダッシュを決め込むゆきなちゃんに、西園寺刹那が心配そうに話しかけた。
だが、姉の声は、妹の耳には届いておらず、ユキナチャンはたたたっと走って入り口付近で足を止める。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも早く!」
ゆきなちゃんに急かされた俺たちは、互いを見てから、入り口に行くべく足を動かす。
「ごめんなさいね。ああいう妹で」
西園寺刹那は濡れ羽色の黒髪をなびかせながら俺に申し訳なさそうな顔で謝った。
「まあ、ゆきなちゃんだしな。しょうがない」
俺はげんなりした顔で答えた。そして、この別荘を見た感想を口にする。
「にしても、結構奥深いところにあるんだね。別荘」
「そうですね。これはお父さんが家族水入らずでヒーリングするために建てたものですから」
西園寺刹那は感慨深げに説明してくれた。
「俺がいていいの?」
俺はしかめっ面で聞くが、西園寺刹那は手を後ろに組んで俺を柔らかい表情で見つめる。
「そうですね。家族以外の人が来たのは、藤本さんが初めてです」
「初めてか。いいのか?」
俺は疑問の眼差しを彼女に送ったが、彼女は微笑みながら口を開く。
「いいですよ。藤本さんなら」
そう言われた俺は黙りこくって、前にるゆきなちゃんに視線を移動させた。
俺ならいいか。
俺は果たして、信用できる人なのだろうか。まあ、立派な石ころではあると思う。彼女もきっと、俺のそういうところ知っているから信用という言葉を使ったんだろう。
だったら、いっそのこと「藤本さんは、どこにでも転がっていそうな石ころみたいに無害でつまらない人間ですからね」と素直に言ってくれればいいのにな。
みたいなことを考えながら前へと進むと、ゆきなちゃんが目じりと口角を吊り上げて俺たちに向かって言ってくる。
「ラブラブだね!二人!」
「違うから!」
「違う」
本当、ゆきなちゃんはヤンチャだね。
中に入った俺たちは、荷物を下ろした。室内は綺麗に掃除されている。ホコリが積もっているのかと思ったが、西園寺刹那曰く業者に頼んで掃除をしてもらったという。業者まで呼ぶのかよ。
「ていうかキッチンはどこだ?」
「あ、案内します」
というわけで、西園寺刹那に、キッチンだけでなく、トイレや俺が寝る部屋まで案内された。
「中はだいたいこんな感じです」
「ありがとう」
「ほかに何かあれば言ってくださいね」
「ああ、そうさせてもらう。俺はこれから昼飯作るから、西園寺はしばらく休んどけ」
「え?いいですか?」
俺の言葉を聞いた西園寺刹那が目を見開いて、戸惑った様子を見せてきた。俺
、彼女の機嫌を損ねるような事を言ったっけ?
「いいよ。ずっと運転してくれたから、ご飯作る間は休んでくれ」
「は、はい。わかりました。じゃ、お言葉に甘えて…」
西園寺刹那は顔を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます