第121話 五十嵐麗奈と西園寺刹那
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一夜明けて木曜日の朝。
何もかもが新しい。ゆきなちゃんに出会ってからは、俺の人生は変わり始めた。あの地下鉄放火事件が起きる前までは、俺はコンビニで働きながら、粛々と暮らしている根暗な男だった。今も暗いままだが、俺の心の中で、何かしらの変化を感じる。
こんなにたくさんの人と関わったことは初めてだ。故にちゃんとした対処法がわからず、手こずっている毎日を過ごしているのだが、昨日は特にひどかった。
ゆきなちゃんは実に豊かな感情を持っているように感じる。
喜んだり、怒ったり、お嬢様ぶったり、拗ねたりと喜怒哀楽なお子様だ。死ぬかもしれない経験をしたわりには、明るくて
俺もまた辛い過去を背負っている。寝付きが悪い日には、いじめられた過去のシーンが夢に出てくるから、パニック発作を起こすことだってある。
辛いから口に出してはならない。
この恥ずかしい過去は包み隠して墓場まで持っていかなければならない。
他人に言ってしまったら絶対笑われる。
ずっとこういう鉄則を定めて過ごしてきたのだが、この生き方が正しいかどうかはわからない。
一つ幸いなのは、青山夏帆、西園寺家の人々、五十嵐兄弟といった俺が今まで会ってきた人々の生き様を詳しく見ることができた点。
人はそれぞれ、生まれ育った環境によって人格が形成されると言っても過言ではなかろう。
いくら自分の頭で考えて解を導き出そうとしても、判断材料や客観的な証拠がなければ、何にもならないだ。
正直、最近色々忙しくて、引きこもってプログラミングの勉強だけしたい気持ちも山々だが、
五十嵐麗奈の攻略の件。
一日前の火曜日に俺は五十嵐麗奈の家にお邪魔して、俺が人間に勝つための作戦会議を開いた。そこで、西園寺刹那の不在により、相談相手の五十嵐麗奈を攻略対象にするという結論に達した。
俺は女の攻略なんか、したこともないので、どうすればいいのかは露知らず。
だが、世間一般的に考えるのであれば、男女の仲が深まれば、エッチなことをすると相場は決まっている。
俺はいまだに五十嵐麗奈が考える攻略という概念を掴めずにいる。
一つわかったのは、五十嵐麗奈は他人事だと、セクハラ発言を気軽に吐くが、いざ自分の話となると、ものすごく恥じる傾向がある。
まあ、彼女も処女だから性的な発言に対して敏感に反応するのは当然の事だが、ギャップがありすぎてキャラが全然掴めないんだよね。
コスプレだってそう。彼女クラスともなると、SNSとか、イベントとかでコスプレ姿の自分をアピールすれば、間違いなくものすごい人気を博しそうなのにな。
まあ、コスプレ自体に俺は抵抗がないので、見るだけなら全く問題ない。
西園寺刹那の件
正直、俺はこの子とそう接すればいいのか全く分からない。
ゆきなちゃんは、俺に助けられたという事実もあるし、教え子でもあるから、ある程度繋がりはある。
距離感の取り方でいまだに悩んではいるけど、ゆきなちゃんは…ま、妹みたいなものだと思って接すればいいのだろう。もっとも俺は一人っ子だから妹がどんな存在なのかはドラマや小説やアニメでしか確かめたことがないがな。
その点、姉である西園寺刹那は謎だらけだ。
俺と西園寺刹那には接点がない。
彼女は眉目秀麗で
だから、俺は彼女との関わりを拒否した。俺なんかがカバーできる相手ではないからな。
小学生一人でもこんなに苦労しているというのに、ましてや、西園寺刹那と関わるなんて。俺にはあまりにもハードルが高い。
そんな俺に、ゆきなちゃんは言ったのだ。
仲良くしろと。
そしてゆきなちゃんは、西園寺刹那について色んな情報を俺にくれた。
気になることがあるとすれば、そうだな。
理想の人。
あんな美少女は、願わなくとも多くの男性から告白を受けたり、誘いを受けるはず。その中から良さそうな優良株と付き合うのが自然な流れではないだろうか。
なのに、西園寺刹那は理想の人を今まで
まあ、俺は他人の不幸を願うような陰湿な人間ではない。石ころは、時に
前途多難なこの人の恋に
人を祝福するのに金はかからない。呪い殺すことも可能だが、その気持ちは封印。
ていうか、本当に西園寺刹那は俺と仲良くしたいと思っているのか?
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