第98話 西山という奴はクズだ
俺と西山が抜けたテーブルには、4人の女の子が座っている。ゆきなちゃんは幼いから例外扱いするとして、あの3人は、確かに目立つ。実際に通りすがりの男性たちは、チラチラとバレないように視線を送っているし、テーブルでご飯を食べているカップルのうち、男も時々、彼女にバレないように視線をあの3人に送っている。おいお前、彼女いるのに他の女の子に目移りすんな。
要するに、あの3人はこの場で異彩を放っている。中でも西園寺刹那は格別といった感じだろうか。
西山が必死こいて、初対面である俺を徹底的にガードする意味がよくわかる。
俺はげんなりしながら彼女らのいる席へと歩んだ。
すると、西園寺刹那とゆきなちゃんは俺の気配にすぐ気がつき、手を振って迎えてくれた。だから、いちいち反応しなくてもいいって。
俺は、座ることをせずに、ゆきなちゃんと西園寺刹那に目くばせする。姉妹は最初、外へと視線を移すという俺の合図を見てはキョトンとしたが、すぐ、俺の言おうとしていることを察してくれたらしい。
ゆきなちゃんは飲み物を一気飲みした。それから、二人はそっと立ち上がる。
「私たちそろそろ行かなくちゃいけないので失礼します」
西園寺刹那が礼儀正しく伝えた。
「え?もう行くんですか?」
杉山は、残念そうに聞いてくる。
すると、西園寺刹那も寂しさが混じっている笑み混じりの表情を見せた。
「それじゃ、気をつけて帰ってくださいね〜」
そう言って杉山は満面に笑みを浮かべながら手を振ってくれた。ちなみに久保は、頬杖をつしたまま、ガン無視。
途中、杉山は俺にも手を振ってくれたが、笑顔から一瞬、澄み切った瞳で俺を見た。ほんの少しの間に見せた冷静な面持ち。彼女は俺を分析しようとしている。だが、あれが俺が忌み嫌うようなケモノがする行動なのかは今のところわかりかねる。
今、俺は、一時でも早くここから去ることを最優先にしているため、杉山のことは二の次三の次だ。
幸いなことに西園寺刹那とゆきなちゃんは、足早に俺の後ろをついてきてくれている。
俺たちは、外に出ることができた。
あの3人と一緒にいた時間は15分足らずのはずだ。だが、俺の体はその倍も長く感じていた。嫌な集まりほど時間の流れは遅くなるものだと再度思い知った。
俺は後ろを歩く二人の姿を見てみる。
西園寺刹那は何食わぬ顔で優雅に歩いている。それに引き換え、ゆきなちゃんは、
やっぱり、西山という奴はクズだ。
俺は
「ごめんなさい。藤本さんを巻き込んでしまった形になって」
彼女は両手を合わせて、俺に謝っている。
「気にするな。俺は大丈夫」
俺は手をブンブン振って、リアクションする。それから、後ろにいるゆきなちゃんに向かって言葉をかけてやった。
「今の調子なら、ゆきなちゃんの成績、上がるから」
「え?お兄ちゃん?」
「上がる」
俺は振り返ってゆきなちゃんの瞳を見て、言った。すると、今まで物憂げな顔だったゆきなちゃんは次第に明るくになり、歩調をはやめて、俺の横に来た。そして、そっと優しく俺の手を握る。
「やっぱり、お兄ちゃん大好き!」
「よかったね!ゆきなちゃん」
西園寺刹那は微笑んで、ゆきなちゃんに和やかな眼差しを向ける。
「うん!」
それを受けた、ゆきなちゃんは、花が咲くように、美しい微笑を俺と西園寺刹那に見せた。
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