第51話 藤本先輩は彼女いないんですか?
「君もか」
「え?先輩も視線感じたんですか?」
「うん。朝からずっと」
「やだ怖いですね」
青山かほは心配そうな顔で俺の耳に小声で言うと、目だけで人々を観察し始める。俺も、彼女にならい、視線を巡らせて怪しい人がいないか確認してみた。どこの店も長蛇の列ができていて、全ての人をチェックするのは物理的に時間的に不可能に近い。
でも、確かに邪な考えを持っている人に睨まれているように気がしなくもない。
「まあ、悩んでもしょうがないし、いざとなったらお巡りさんに通報したらいい」
「そ、そうっすね」
さっきまで緊張した面持ちの青山かほが、俺の話を聞いて安心したように胸を撫で下ろしてため息をついた。それから、前髪を手櫛で書き上げてから笑みを見せる。
大人になると、より厳しく法律によって支配を受けるようになる。よって、気狂いや思いっきりやばい人に危害を加えられそうになったら公権力の力を利用することができるのだ。
でも、この謎の視線はどうしても気になってしまう。何事もなければいいのだが。
X X X
数分が経ち、食べ終わった客がレジで会計を済ませると、俺たちの順番がやってきた。
「お待たせいたしました!二名様ですか?」
「はい」
「こちらへどうぞ!」
元気のいい従業員の案内に従って俺たちは指定された席に座った。ここはカウンター席しかおらず、長い鉄板が設置されているので、お客全員がそれを共有するような形になっている。
「ご注文承ります!」
「えと、ぼっかけ焼そば大盛りで」
「かしこまりました!隣の彼女さんはいかがなさいましょうか?」
「え?彼女じゃな、」
「ぼっかけ焼そば普通で」
「はい!かしこまりました!お冷お持ちいたしますので、少々お待ちください!」
俺は否定の意味を込めて言い返そうとしたのだが、青山かほの注文によってあえなく遮られてしまった。何なのこの子は。まあ、別にいいだろう。人がうじゃうじゃしているから、店員の誤解を招きかねない言葉を彼女が聞きそびれた可能性もなきにしもあらずだ。
やがて、店員はキンキンに冷えたお水を持ってきてくれた。感謝の意を伝えて一口飲む。
ああ、気まずい。
再び訪れた沈黙に俺はどうしたものかと頭を引っ掻いた。確かにこの水はうまい。熱してある鉄板から発せられるむっとした空気を吹き飛ばす冷たさなんだが、それ以上に俺たちを取り巻く雰囲気はこのお水より冷たい。
とりあえず、探りを入れてみよう。
「こんなお店は初めてか」
俺は彼女を流し目で見ながら聞いた。
「そうっすね。こんな感じのお店は行ったことがないんで」
またしても沈黙。いや、本当に家帰りたい。やはり、俺は女性と遊ぶなんて1億年早い気がする。何なら男と遊ぶのは10億年早いまである。結局人間と遊ぶの超めんどくさくてしんどい。
俺は
「一度も行ったことがないところに連れて行ってもらえるのは、ポイント高いっすね」
にんまりと笑いながら言う青山かほを見て俺はふと不思議な気分になる。コンビニでバイトしているときは、誰に対しても無表情なのに、今の青山かほは笑っている姿を
「なんか彼氏とか友達とかとこんなところには行かないのか」
俺は思ったことをそのまま青山かほに伝えた。そしたら彼女は目をハッと見開いて、穴が開くほど俺をじっと見つめてくる。やめて。その視線、レーザー兵器ばりに痛いから。
「ふふっ。彼氏なんかいないっすよ」
青山かほはいつしか、満面の笑みを湛えた様子で俺の腕を手で数回叩いた。
「そ、そうか」
俺は、またしても、自然とスキンシップを仕掛けてきた青山かほから少し距離を取った。行動が読めん。あと、ぼっちに美少女によるボディタッチは始末に負えないからやめたほうが宜しくてよ?
「はい。友達はみんなインスタ映えしそうなところとか、綺麗なところしか興味ないから、こういうところにくる機会はまずないんすね」
「なるほどね」
俺がイマドキのリア充における生態系の一部を垣間見た気がして、げんなりしていると、青山かほは、いきなり俺との距離を詰めてきた。
さっきまでのトーンダウンした表情は瞬く間に真剣さを帯びる真面目顔になり、俺を真っ直ぐ見つめて問うてくる。
「そう言ってる藤本先輩は、彼女いなんですか?」
「か、彼女?」
追記
いよいよ念願の10万字達成です!デート編を終わらせて、新キャラまで登場させればちょうど一巻分の文字数になると思います!
これからも、毎日更新して参りますので、よろしくお願いいたします!
(ハート、レビュー、コメントは書き手にとって強い力になります!この小説を読んで思ったことを気軽に書いていただけたら嬉しいです!)
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