第388話 2022年11月 2

「先生、来ましたよ。アリサ、一緒に手を合わせようね」


俺は、お墓にお線香を焚いて手を合わせていた。


「先生、ご無沙汰しております。あの時の作文通り、俺は小学校の教師になりました。まだまだですけど毎日せわしなく過ごしています。見てください、この通り、子供もできました。あの時、先生の手を掴んでなかったら、出会えなかった、出会う事すら無かった人と結婚しました。本当にありがとうございました……


満島先生……」


「……よう、健太郎先生。お元気かな? お嬢ちゃんもこんにちは」


オーナーもお墓詣りに来たようだ。


「オーナー、お久しぶりです」


すっかり、髪の毛は白くなってしまっているが、まだまだ、元気で今でも組合長をしているらしい。


「……なあ、健太郎先生。ホントわかんねえな。あんときに満島君が俺んとこに来て、お前を学校に連れてって良いかってな、聞きに来たよ。何言ってんだろう? って俺も思ったよ。でもな、せっかくくれたチャンスだ。どんなふうにそいつを掴むかはお前次第だと思ってな、よろしくお願いいたします。と、頭を下げたよ。それが、まわりまわって健太郎も先生だ。今にして思えば、満島君は自分の生い先をわかってたんだろうな、それで、あんな無茶な事したんだと思うぞ。お前の事をなあ、そんなに思ってくれたなんてな……


お前は母ちゃん、父ちゃんには恵まれなかったけど、人には恵まれたな」


ああ、オーナーが手を合わせて涙を滲ませている。


「そんな事言ったら、俺はオーナーに出会えてなかったらって思うとぞっとしますよ。覚えていますか? 俺が、母さんを探して街をさまよっていた時に声を掛けてくれたこと。俺は嬉しかった……とっても安心できた……一人じゃないって思えました。俺の育ての親はオーナーです。チャンスをくれた神様は満島先生です。ありがとうございました。」


俺は、オーナーと満島先生に深く礼をした。

手をオーナーは軽く上げて、


「……はぁ、もう、俺の与えられるものなんかは、な~んもねぇよ。次はお前が与える番だ。いっぱいいろんな人に貰ったろ。これからは、お前がそれをもっと大きくして返すんだ。いいな? まずは、あんな、遠くの外国からお前の為に子供のうちに一人で来てくれたリリィちゃんにちゃ~んと返すんだぞ。


そんで生まれて来たアリサちゃんにもだぞ。子供は育つことでお前に幸せをくれる。ちゃんと見てねぇと幸せが分からねからな。楽しみだな。


探しゃ、いっぱいいるだろう、雅もそうだしな……あとは省略だ。はははは」


まだまだ、笑い声の大きなオーナーは、その後も手を合わせながら、満島先生に語りかけていた。

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