第360話 2015年8月 5
「どこ行ってたの?」
「ああ……トイレに、人がいっぱいで、時間食っちゃった……
あのさ……
さっきの……」
『佐藤健太郎君童貞喪失15周年』
俺がリリィさんに……
雅さんが言う様に誤解があるのなら……
違うな……
さっきの事を謝りたくて、それを口から出そうとしたその一歩早く、打ち上げ花火のスポンサーを知らせるアナウンスが……
しかも……
「え! けんたろーの事?」
「なんのこと……ダイ?」
「今のアナウンスよ!……
あれ……
なんか……デジャヴ……が」
俺の隣の椅子で、俯きながら、額に指をあてて鋭い目つきで過去を振り返っているリリィさんが……
「どうした? 疲れたかな? ははは」
「うるさい! 黙れ! もう少しで思い出せそうなんだから!」
うううう、と小さく唸る。
「だめら! 思い出せん!」
そうでしょう?
そうそう……
「なんだっけなぁ、前にあった感じがしたんだけど……」
「ああ、そう言うのってよくあるよね、うん、よくある」
俺をきつめの視線で見ていたリリィさんは、正面の方に視線を移し……
「あああああ! あれだ! 思い出した!!」
なんですと?
正面の中央……
俺の方に振り返り、良い笑顔のサムズアップ……
オーナーの良い笑顔を見て……
リリィさんは……
合致したらしい……
5年前の記憶と……
「え? けんたろー……
私、5年前は気が付かなかったけど……
けんたろうーの事よね……
今の……
私……
けんたろうー……
今なら、分かるよ……
けんたろうー……
15周年なんだ……」
ああ、表情が険しくなった。
「リリィさん……
オーナーの冗談だからさ……ね?」
「………………………………
うん……
そうだね……
わかってる……
よ……
15周年……
15年前……
全部繋がった……
分かった……
理解した……
けんたろー
分かったよ……
冗談で済まないことぐらい……」
まっすぐ前を見て、笑顔のオーナーの方を……
違うな……
オーナの隣に座る雅さんを見て……リリィさんは……
明らかに……
喋らなくなった……
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