第292話 奪われた日常12
「けんたろー、これ」
リリィさんが俺の右横、洗濯機の横、俺からすると陰になる丁度、廊下の角の壁を指さしている。
『インフレータブルボート』
これは……
美琴さん良くやった。
確か特殊部隊が使ってるとか言っていた、頑丈なやつ……
家の中に入れるところが無かったのだろう、廊下の行き止まり、壁際に、それは明らかに、もてあまされて、打ち捨てられ、風雨にさらされて、外箱は歪んで、多少色落ちして、いらない物として存在していた。
「リリィさん、行くよ。その箱も持ってきて」
電動ポンプの箱も一緒にあった、それをリリィさんにお願いして、俺は命のボートを担いで早々に階段を駆け下りた。
まだ、浸水域の流れは無い、浸水は小康状態だ。次の波が来る前に、この波が引く前に出航だ。
箱からそいつを出して、電動ポンプで膨らますこと、5分。いよいよそれはボートの形を成して大人2人と子供、いや体格は大人の子供、計3人を乗せることが出来るまでになった。
「よし、乗ろう……」
心配そうに怯えるリリィさんのお母さんの手を取りボートに乗せ、いまだ、溜水となっている目の前の真っ黒な浸水域を俺は見つめていた。
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