第238話 賭け
俺は、その人が先生の奥さんだと直感でわかった。その女性から感じる、纏っている空気感が満島先生と同じ凛としたものであったから。
「佐藤さん、やっぱりあなたはここに来たのね、ふふふ」
そう言って、廊下で笑いながら、俺に近づいて、
「ちょっと待ってて」
手で俺を制するように横を抜け、病室の中に入り、すぐに戻って来ると、俺に白い封筒を渡してきた。
「あなたが来たら渡すように言われていました。きっと、あなたはここに来るって、必ず探してやって来るって……
私と賭けをしていたの……
でも……
私の負けね」
「賭け……ですか?」
「……そう、そうよ。先生と賭けをしたの……
あなたがここまで、この病室まで来るかどうかの賭け……
私は負けちゃった。
あなたの事は先生から聞いていたの、だから、あなたがどんな人なのかも知っていたし、知っていたから、病室を探し出してくるだろうなって私も思っていたのよ、
でもね、この手紙を渡すってことは、先生がもう、あなた自身に、自分の言葉で語りかける事が出来ないってことだから……
だから、私はそうならない事を祈って、来ない方に、渡さなくていい方に賭けたの……
でも……
負けちゃったわね……」
優しく微笑む奥さんは笑顔で俺に話しかけていた。
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