第237話 そんな……

俺は、恐らく、一分もいなかった、いや、いられなかった、あまりの現実に……

一月前の満島先生を知っていた俺からは、あまりにもベッドに横になる先生は俺の知るはつらつとした先生ではなかったから。


かける言葉を失い部屋を後にするために、そっと、ドアを閉めた俺に後ろから声を掛ける女性がいた。


「あなた、もしかして佐藤健太郎さん?」


「はい……」


物音がしない病院の薄暗い廊下で、高い澄んだ声で、振り返ると50代後半くらいの物腰の柔らかい感じの女性が、スッと姿勢よく立っていて、柔和な眼差しで俺に微笑みかけている。

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