第161話 けんたろーの旅路

リリィさんは、オミトオシのリリィさんは、俺にそう言って、背中にやさしく頬を当てて、俺の手を握って来た。俺の気持ちに気付いているのだろう。


まったく、とんでもない子供だ。

でも、彼女がいなかったら、俺は、俺の心は耐えることが出来ただろうか。そういう思いが込み上げてくる。


もう一度、もう一度……か……


俺は俺の手の上から優しく握る手を握り返して、右隣に座って俺の背中に顔を乗せて、俺の事を自分の事の様に理解してくれて、代わりに父さんに話をした小さな大切な友に、話を継ぐために、ゆっくりと上半身を起こして、彼女のまっすぐな瞳を見る。


「リリィさん、やっぱり、俺は、これで良いと思う。俺はリリィさんが言ったように、やり直しの旅に出たんだと思う。


でも、それは、俺を捨てて行った人とやり直すことでは無くて、俺が失った事を取り戻すための旅なんだ。


決して、そこではないとおもうんだ。


俺を捨てて行った人を追いかけてやり直ししようと言うものではないんだよ。


あの時に感じた幸せを無くす怖さ、いずれ人は別れるものという間違った人生観、そんなものを壊す旅だと俺は思っている。その、間違いを正すことに、今は、父さんと和解しても、それでは、無くなる怖さを癒す事は出来ないよ。


俺はあれから、母さんの事も含め、16年後を生きているんだ。今更、16年前の出来事を直すつもりは無いよ。もう元には戻らないんだから。


そして、今夜、それを確認できた。

とっても有意義だったと思う。


これから生きていく中で、もしかしたら、父さんとちゃんと向き合って和解するかもしれない。

先の事は分からないのと一緒だよ。

絶対ないとは言えない。

そんなレベルさ。


今は、良い。


これで良い。


今のまま。


父さん抜きの人生を歩んできたんだ。


そして、これからも、俺の周りではいろんな出会いや別れがあると思う。俺はその今後を大切にしたい。父さんは目が見えなくなって気の毒かもしれないが、自分で生活する方法を手に入れている。


そこは俺の考慮することじゃないと思う。

冷たく思うかもしれないけど、子供を捨てていなくなった時点で、考慮することでは無くなったと思う。


家族を、後先考えずに捨てたものが望んではいけない事だと思う。


どう? リリィさん、俺の人生に立ち会ってくれて、苦しみを伝えることが出来なかった俺の代わりに伝えてくれた、あなただから、聞きたい。


どう? これでいい? もし、よければ、帰ろう。


今の俺の世界、六年一組のみんなが待ってるホテルに」


俺の目を見て、頷いていたリリィさんは、


「いいも、悪いも無いよ。けんたろーがいいんなら私は何もないよ……


けんたろー……


今日が、けんたろーの新しい出発の日になったね。


今までがやり直しなら、今日は新しい出発だね。


私、そんな日に立ち会えて嬉しい。


けんたろー、そんな居場所を私に与えてくれて、ありがとう!」


リリィさんが、嬉しそうに、俺以上に嬉しそうにニィと笑って俺の手を握っている。


「よし! 話は終わりだよ。帰ろう! ところで、けんたろー……」


リリィさんがおれの手を握ったまま、何かお願いをしそうな気配がした。最近分かるようになっている。彼女の表情……で。


「わたし、陽葵に黙ってきちゃったの、今頃、大騒ぎになってるかな?」


既に、3時間以上、20時過ぎ、本当なら、ご飯食べて、風呂入って……


「どうするの、リリィさん」


俺が目を見開いて驚いていると、


「まあ、しょうがないね。せっかくだから、もんじゃ焼き食べたい!!」


マイペースな感じそのままに、俺に今夜の報酬をおねだりしてきた。

リリィさんの貢献は大きかった。


というか……ほぼ、リリィさんがまとめた。

ああ、安いもんだな。


俺は陽葵先生に連絡を入れてから、近くのもんじゃ焼きのお店に連れて行って、嬉しそうに、美味しそうにもんじゃを食べるリリィさんの笑顔を堪能した。

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