第111話 リリィさんの理由2

彼女は、おそらく、お母さんの安定した朝方にかけて眠りについて、昼は外に出て、夜には一緒に外に行ったり、家の中で話し相手になったりしていたのだ。そして、それは、子供心にも、他人には見られたくなくて、そんな見られたくないところを他人は遠巻きにみて、時には面白半分に好奇の目を向けるだけで、決して彼女に寄り添う事など無かったのだ。


俺は気が付いた。


あの日、花火の帰りに見たリリィさんの表情は、只々、俺にそれを見られたくない。見て欲しくない、そんな顔をして消えていった。……らしくない。らしくなかった。リリィさんなら、喜んで俺にお母さんを紹介するだろう。彼女はそんな子だ。だが、違った。まるで違っていた、反対だったんだ。


それに、俺が何度家に電話しようかとお母さんに電話しようかと言っても頑なに拒んだ。それは、恐らく言葉以上にコミュニケーションが出来ない状態に陥っていたのだと俺は思っている。


これは、俺も体験していたから気が付いた。夜には何故か飛び出す母さん、昼は安定していた。そして、夜の捜索をしている俺に心配になるのだろう、様々に声を掛けてくる大人達、でも、俺はその心配の声がかかるたびに、惨めで……、母さんをパジャマで捜し歩く自分が惨めで、話しかけられること、それ自体が、見られていること自体が、迷惑に……善意も悪意も見分けがつかない、たった一つの願い……俺を、見ないでくれ……と思っていた……から。


だから、俺は気付けた。リリィさんの気持ちに気が付けた。

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